山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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逆賊討伐

10 防衛戦 2

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「今回あんたには、これをあげるわ」
「どうやら帰る気はないようだな。まあ下賤げせんの身にはこんな場所がお似合いだ」
 ラーネリードの言葉が呼び水となったようにアウロラが攻めかかり、二本のカリ・スタブと幅広の直剣ちょくけんが火花を散らした。アウロラはまばたきをする間に距離を詰めて攻撃に移ったが、ラーネリードはその速さにも動じず攻撃を受け止める。
「奇襲ならば勝てると思ったか? お前が持っている力について俺たちが知らないはずがなかろう」
 ラーネリードが余裕の表情でカリ・スタブを押しのけ、アウロラは無言のまま飛び退いた。
 通路には耳鳴りのような音が通奏つうそう低音ていおんのように響き続けている。
「さあひれ伏して命乞いのちごいをしろ。そうすれば奴隷として生かしてやってもいいぞ」
 言葉を返さずうつむいたままだったアウロラの姿が突然かき消え、ラーネリードが気付いたときには彼の背後に立っていた。
 振り向いて反撃しようとするラーネリードだったが、右足に激痛を覚えて悲鳴を上げた。
「……あんたに会いたかったとは言ったけど、別に話したくはないのよ。むしろ口も利きたくないくらい」
「俺の目で追えなかっただと……」
 ここに至る数ヶ月ほどの間、アウロラはたびたびリースベットから戦闘訓練を受けていた。
 これによってアウロラの力が伸びたばかりではなく、リースベットも同格の相手との戦いを通じて実力を上げている。二人は初めて戦った数ヶ月前と比べ、戦士としてめざましい成長を遂げていたのだ。
「こんなことがあるか……だが隊長ならお前など……」
「あらそう。じゃあとっとと呼んできたら!」
 アウロラは二本のカリ・スタブを水平に薙ぎ払った。ラーネリードの顔と胸に鉄枴てっかいが食い込み、巨体が浮き上がって出口の方へ吹き飛んだ。

 結果から見るほど、二人に実力差があったわけではない。それどころかラーネリードは、隊長のアムレアンも一目置く、隊内でも指折りの実力の持ち主だった。
 彼に欠けていたのは、相手が自分よりも強いかもしれない、という不安だ。不安が危機意識や覚悟を生み出す。時の黎明館ツー・グリーニンの近衛兵という狭い世界だけに生き、アムレアンやフリークルンドといった隊長格以外の未知の強者を想像していなかった慢心が、あっけない敗北を生んだのだった。

「愚か者め。油断するなと言っただろう」
 血と涙と唾液にまみれた顔で逃げ帰ってきたラーネリードを、アムレアンは吐き捨てるように叱責しっせきした。ラーネリードは顔の形が変わっているせいで口がうまく開かず、言葉を発しているがよく聞き取れない。
 眉間にしわを寄せて首を横に振るアムレアンに、二人の若く小柄な近衛兵がゆらりと歩み寄った。
「隊長、ここはやはり僕たちが出るべきでは?」
「隊長、僕たちほどの適任者は他にありません」
 二人とも同じ背丈に同じ声色で、蛇を思わせる丸い目もうり二つだった。唯一の違いは、腰に下げている短剣がそれぞれ左右に分かれていることだけだ。
「ホード兄弟か……確かに、この狭隘きょうあいな通路で、お前たち以上に戦える者はいないかも知れん」
「間違いありません」
「間違いありません」
「……良かろう。ボリス・ホードならびにコニー・ホード、この通路を突破し戦況にらちを開けよ」
「必ずや成功させて」
「ご覧に入れましょう」
鏡像きょうぞうのホードの力、山賊どもに見せてやれ」

 ラーネリードを追い払ったあと、すぐには新手が突入してこないことを確認したアウロラは、肩の力を抜いて一息ついた。通路の奥の分かれ道まで後退し、物陰に待機していた山賊のうちの一人に声をかける。
「まず一人目ね。あと何人?」
「師匠の報告によれば、あと十三人だ」
「まだまだ先は長いわね……」
「気楽に……とは言えないが、無理はしないでくれ。いざとなったら奥の手もある」
「わかった。どこまで持ちこたえられるかしら……」
 いま立っている場所からは見えない南東の空を見上げ、アウロラは遠い目でつぶやいた。
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