106 / 247
逆賊討伐
10 防衛戦 2
しおりを挟む
「今回あんたには、これをあげるわ」
「どうやら帰る気はないようだな。まあ下賤の身にはこんな場所がお似合いだ」
ラーネリードの言葉が呼び水となったようにアウロラが攻めかかり、二本のカリ・スタブと幅広の直剣が火花を散らした。アウロラはまばたきをする間に距離を詰めて攻撃に移ったが、ラーネリードはその速さにも動じず攻撃を受け止める。
「奇襲ならば勝てると思ったか? お前が持っている力について俺たちが知らないはずがなかろう」
ラーネリードが余裕の表情でカリ・スタブを押しのけ、アウロラは無言のまま飛び退いた。
通路には耳鳴りのような音が通奏低音のように響き続けている。
「さあひれ伏して命乞いをしろ。そうすれば奴隷として生かしてやってもいいぞ」
言葉を返さずうつむいたままだったアウロラの姿が突然かき消え、ラーネリードが気付いたときには彼の背後に立っていた。
振り向いて反撃しようとするラーネリードだったが、右足に激痛を覚えて悲鳴を上げた。
「……あんたに会いたかったとは言ったけど、別に話したくはないのよ。むしろ口も利きたくないくらい」
「俺の目で追えなかっただと……」
ここに至る数ヶ月ほどの間、アウロラはたびたびリースベットから戦闘訓練を受けていた。
これによってアウロラの力が伸びたばかりではなく、リースベットも同格の相手との戦いを通じて実力を上げている。二人は初めて戦った数ヶ月前と比べ、戦士としてめざましい成長を遂げていたのだ。
「こんなことがあるか……だが隊長ならお前など……」
「あらそう。じゃあとっとと呼んできたら!」
アウロラは二本のカリ・スタブを水平に薙ぎ払った。ラーネリードの顔と胸に鉄枴が食い込み、巨体が浮き上がって出口の方へ吹き飛んだ。
結果から見るほど、二人に実力差があったわけではない。それどころかラーネリードは、隊長のアムレアンも一目置く、隊内でも指折りの実力の持ち主だった。
彼に欠けていたのは、相手が自分よりも強いかもしれない、という不安だ。不安が危機意識や覚悟を生み出す。時の黎明館の近衛兵という狭い世界だけに生き、アムレアンやフリークルンドといった隊長格以外の未知の強者を想像していなかった慢心が、あっけない敗北を生んだのだった。
「愚か者め。油断するなと言っただろう」
血と涙と唾液にまみれた顔で逃げ帰ってきたラーネリードを、アムレアンは吐き捨てるように叱責した。ラーネリードは顔の形が変わっているせいで口がうまく開かず、言葉を発しているがよく聞き取れない。
眉間にしわを寄せて首を横に振るアムレアンに、二人の若く小柄な近衛兵がゆらりと歩み寄った。
「隊長、ここはやはり僕たちが出るべきでは?」
「隊長、僕たちほどの適任者は他にありません」
二人とも同じ背丈に同じ声色で、蛇を思わせる丸い目もうり二つだった。唯一の違いは、腰に下げている短剣がそれぞれ左右に分かれていることだけだ。
「ホード兄弟か……確かに、この狭隘な通路で、お前たち以上に戦える者はいないかも知れん」
「間違いありません」
「間違いありません」
「……良かろう。ボリス・ホードならびにコニー・ホード、この通路を突破し戦況に埒を開けよ」
「必ずや成功させて」
「ご覧に入れましょう」
「鏡像のホードの力、山賊どもに見せてやれ」
ラーネリードを追い払ったあと、すぐには新手が突入してこないことを確認したアウロラは、肩の力を抜いて一息ついた。通路の奥の分かれ道まで後退し、物陰に待機していた山賊のうちの一人に声をかける。
「まず一人目ね。あと何人?」
「師匠の報告によれば、あと十三人だ」
「まだまだ先は長いわね……」
「気楽に……とは言えないが、無理はしないでくれ。いざとなったら奥の手もある」
「わかった。どこまで持ちこたえられるかしら……」
いま立っている場所からは見えない南東の空を見上げ、アウロラは遠い目でつぶやいた。
「どうやら帰る気はないようだな。まあ下賤の身にはこんな場所がお似合いだ」
ラーネリードの言葉が呼び水となったようにアウロラが攻めかかり、二本のカリ・スタブと幅広の直剣が火花を散らした。アウロラはまばたきをする間に距離を詰めて攻撃に移ったが、ラーネリードはその速さにも動じず攻撃を受け止める。
「奇襲ならば勝てると思ったか? お前が持っている力について俺たちが知らないはずがなかろう」
ラーネリードが余裕の表情でカリ・スタブを押しのけ、アウロラは無言のまま飛び退いた。
通路には耳鳴りのような音が通奏低音のように響き続けている。
「さあひれ伏して命乞いをしろ。そうすれば奴隷として生かしてやってもいいぞ」
言葉を返さずうつむいたままだったアウロラの姿が突然かき消え、ラーネリードが気付いたときには彼の背後に立っていた。
振り向いて反撃しようとするラーネリードだったが、右足に激痛を覚えて悲鳴を上げた。
「……あんたに会いたかったとは言ったけど、別に話したくはないのよ。むしろ口も利きたくないくらい」
「俺の目で追えなかっただと……」
ここに至る数ヶ月ほどの間、アウロラはたびたびリースベットから戦闘訓練を受けていた。
これによってアウロラの力が伸びたばかりではなく、リースベットも同格の相手との戦いを通じて実力を上げている。二人は初めて戦った数ヶ月前と比べ、戦士としてめざましい成長を遂げていたのだ。
「こんなことがあるか……だが隊長ならお前など……」
「あらそう。じゃあとっとと呼んできたら!」
アウロラは二本のカリ・スタブを水平に薙ぎ払った。ラーネリードの顔と胸に鉄枴が食い込み、巨体が浮き上がって出口の方へ吹き飛んだ。
結果から見るほど、二人に実力差があったわけではない。それどころかラーネリードは、隊長のアムレアンも一目置く、隊内でも指折りの実力の持ち主だった。
彼に欠けていたのは、相手が自分よりも強いかもしれない、という不安だ。不安が危機意識や覚悟を生み出す。時の黎明館の近衛兵という狭い世界だけに生き、アムレアンやフリークルンドといった隊長格以外の未知の強者を想像していなかった慢心が、あっけない敗北を生んだのだった。
「愚か者め。油断するなと言っただろう」
血と涙と唾液にまみれた顔で逃げ帰ってきたラーネリードを、アムレアンは吐き捨てるように叱責した。ラーネリードは顔の形が変わっているせいで口がうまく開かず、言葉を発しているがよく聞き取れない。
眉間にしわを寄せて首を横に振るアムレアンに、二人の若く小柄な近衛兵がゆらりと歩み寄った。
「隊長、ここはやはり僕たちが出るべきでは?」
「隊長、僕たちほどの適任者は他にありません」
二人とも同じ背丈に同じ声色で、蛇を思わせる丸い目もうり二つだった。唯一の違いは、腰に下げている短剣がそれぞれ左右に分かれていることだけだ。
「ホード兄弟か……確かに、この狭隘な通路で、お前たち以上に戦える者はいないかも知れん」
「間違いありません」
「間違いありません」
「……良かろう。ボリス・ホードならびにコニー・ホード、この通路を突破し戦況に埒を開けよ」
「必ずや成功させて」
「ご覧に入れましょう」
「鏡像のホードの力、山賊どもに見せてやれ」
ラーネリードを追い払ったあと、すぐには新手が突入してこないことを確認したアウロラは、肩の力を抜いて一息ついた。通路の奥の分かれ道まで後退し、物陰に待機していた山賊のうちの一人に声をかける。
「まず一人目ね。あと何人?」
「師匠の報告によれば、あと十三人だ」
「まだまだ先は長いわね……」
「気楽に……とは言えないが、無理はしないでくれ。いざとなったら奥の手もある」
「わかった。どこまで持ちこたえられるかしら……」
いま立っている場所からは見えない南東の空を見上げ、アウロラは遠い目でつぶやいた。
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる