山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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ジュニエスの戦い

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 ティーサンリード山賊団とリードホルム近衛兵の死闘から二十日の時が過ぎ、戦った者たちの傷もえつつあった。
 十一月の半ばを過ぎたリードホルムはいよいよ、季節は本格的な冬に入っている。だが例年と比べると空気はずいぶん暖かく、初雪以後は積雪らしい積雪もほとんどなかった。
 多くの者が歓迎する穏やかな冬だが、占い師や預言者、あるいは一箇所に定住せず各地を移動しながら生活する放浪民ヒターノなどには、これを不吉な予兆と見る者もいる。

 ラルセンの森に冷たく澄んだ日差しが降り注ぐ中、再建された山賊団拠点の出入り口前に、男女数人が集い談笑していた。賞金稼ぎのフェルディンとカールソン、それに彼らを見送りに出たリースベットにアウロラ、バックマンだ。
 フェルディンの右太ももの傷が癒え、カールソンの体力が回復したことを確認すると、二人はまた旅に出ることにした。リードホルム王国に反旗をひるがえす山賊団と彼らでは、やはり目的が異なるのだ。
「僕はまた、過去を探して旅に出る」
 詩作を始めたばかりの少年のようなフェルディンのセリフを、カールソンを含む全員が無視した。
「旦那がいてくれて助かったぜ。さもなきゃ俺らは、あの副隊長に皆殺しにされるか、ここを捨てて放浪生活をするしかなかっただろう」
「私も戦える状態じゃなかったしね……」
「あの隊長とやりあった後じゃ、あたしはドグラスにだって勝てなかっただろうよ」
「おれも干からびて死んでたかなあ」
 フェルディンは薄青色に澄み渡った空を見上げ、わざとらしくマントを翻してリースベットたちに向き直った。
「……また会おう」
「兄貴、ちょくちょく飯を食いに寄ってくれねえか」
「考えておこう」
「ああ。金が貯まったらいつでも来い」
「次に忍び込むのはヘルストランドの時の黎明館ツー・グリーニンか? 焼けちまった研究報告を実証すんのに、生のリーパーを二、三盗み出して研究でもしてみるか」
「金額次第じゃ、手伝わねえこともねえぞ」
「か、考えておこう」
「ただし解剖は他所でやってくれよ」
「解剖?!」
 アウロラから道中で食べる携帯食を受け取り、二人の賞金稼ぎは山賊団拠点を後にした。
 彼らはこれからまた賞金を稼ぎつつ、かつてカッセル王国の辺境で出会ったランデスコーグ老人のような、元リーパー研究者を探して各地を回るという。ノルシェー研究所の廃止によって職を失った研究者の中には、遠くノルドグレーンに移住して新たに職を得た者が少なくないのだ。
 それで元の世界――とフェルディンが考えている記憶の中の場所――に帰れるという公算は小さい。だが彼は当面の間、リーパーの秘密を探る旅を続けていくと決めていた。
 フェルディンたちは、元の道に戻っていった。
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