山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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ジュニエスの戦い

34 薔薇の回廊 3

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「あら、意外にものわかりが良いのね」
 薔薇の生け垣のような戦闘馬車の上で、ベアトリスは驚いた顔をしている。
「もう少し直情的な男だと聞いていましたが……」
「さすがに国家情報局の諜報ちょうほうもうも当てにならないわ。秘密の多い近衛兵についてはね」
「どうやらいさめる立場の者と、それを聞き入れる耳があったようですね」
 ベアトリスは軽くため息をつき、座席に腰を下ろして脚を組んだ。そばに控えていた親衛隊長ロードストレームも肩を落とす。
「近衛兵を殲滅せんめつする好機こうきを逃しました。残念です」
「そうね。でもとりあえず、近衛兵の目的と知能程度が分かったことで、良しとしましょう」
「無欲でございますね」
「今日のところは、ね」
 ベアトリスは余裕の笑みを浮かべ、頬杖ほおづえをついて右前方の主戦場をながめやった。
「とはいえ、全体としてはこちらがやや劣勢のような……」
「そう見えるだけよ。展開はおおむね読みどおり。意外だったのは、南の守備に配されていた部隊のことくらいかしらね」
「あの騎馬部隊……例の特別奇襲隊とやらでしょうか」
「おそらくね。例えば、あれが今日ラインフェルトの下にいれば、ペルガメント隊は1000を超える犠牲を出していたかも知れないわ」
「特別奇襲隊は総司令レイグラーフ配下の部隊。ラインフェルトの一存では処遇しょぐうを決められないのでしょう」
「そう……ね」
 ブリクストの特別奇襲隊に関する見込み違いに、ベアトリスはかすかな違和感を覚えつつも、眼前で展開されている野戦の指揮に戻った。

 そこから戦況に大きな動きはなく、開戦初日の戦闘は幕を閉じた。
 近衛兵と特別奇襲隊の奮戦やラインフェルトの巧妙こうみょうな用兵により、この日は総じて、リードホルム軍がやや優勢に戦闘を展開していたかに見える。遠方から戦場全体を俯瞰ふかんしていた総指揮官レイグラーフには、そう映っていた。
 だが現場に立つ当事者たちが覚えた所感は、それとは異なるものだった。

 ソルモーサン砦の飾り気のない石造りの会議室に、ノアを含むリードホルム軍の指揮官たちが集まっている。初日の戦闘を総括そうかつし、翌日からの戦術を定めるための軍議が開かれていた。
「どうやらノルドグレーン軍の重装歩兵は、思った以上に手強い」
「ラインフェルトもそう感じたか」
 レイグラーフと北軍指揮官ラインフェルトは、この点に関してのみ同意見のようだ。
「我が隊は一度ならず敵軍の陣を崩しかけたが、そのたび迅速に建て直され、ついに付け入る隙を得られなかった。あれは前線の中・小隊にまで、総指揮官の指示が行き届いておる証だろう」
「むう……」
「私も同じような印象を覚えた。フリークルンド隊長率いる近衛兵は、幾度も敵陣に穴を開けたのだが、そこに歩兵部隊が殺到する前に、素早く陣形を再建されてしまうこと一再いっさいではなかった。練度もそうだが、おそらく近衛兵が出てくることを前提に訓練されていたとしか思えない」
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