山賊王女と楽園の涯(はて)

紺乃 安

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ジュニエスの戦い

39 不羈の戦士 4

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「どうやら指揮系統が統一されていないようですね」
「そう。これでわかりました。やはり陣形を所定に戻します」
 ベアトリスはこの大掛かりな目くらましを用いて、近衛兵を前線から引きがすだけでなく、その動向を観察していたのだった。
 リードホルム軍の命令系統が一本化され、近衛兵がそれに従う気があるなら、フリークルンドたちは主力軍とともに、前線で堅実に戦い続けていたはずだ。
 だが近衛兵はちらつかされた好餌こうじに簡単に誘引され、前日同様ベアトリスの首を狙って突出してきた。その間リードホルム主力軍は、頼みにしていた近衛兵の不在に戸惑い、前日以上の劣勢に陥っている。
 引き際こそ見事だったとはいえ、近衛兵の作戦行動は明らかに統一性を欠いている。今後も近衛兵は折を見て、指揮官を討つことによる形勢逆転を狙ってくる――そう確信したベアトリスは、布陣を前日と同じ長期戦の構えに戻したのだった。
「残念ね。あなた方が愚直ぐちょくに前線で戦い続けるなら、こちらは全軍をもってそれを踏み潰しに出られるというのに」
「とはいえ、こちらの戦術案のほうがより確実なのでは?」
「そう。純軍事的に負けにくいのは、長期戦。とはいえ短期決戦にも理はあるわ。わたくしだとて天候は操れないのだから」
 ベアトリスは物憂ものうげな顔で天を仰いだ。いまのところ空は薄青色に晴れ渡り、雪が降るどころか小さな雲すらない。ロードストーレムも顔を上げ、目を細めた。
「なるほど。太陽の神ベリーサは今のところ、我らの味方ですが……」
「とつぜん気まぐれを起こされて、退却することになる可能性だってあるわ。攻め入っているのはこちらのなのだから、引き分けでは実質的に負けよ」
「短期決戦で済ませられるなら、それに越したことはない、というわけですね」
「不確定要素は少ないほうが望ましいわ」
 ベアトリスはこの戦いにあたって、敗北をきっする可能性をはらむいくつもの要素について、入念に対策を講じてきている。近衛兵はその最たるもので、他にもラインフェルトの策略、戦場の選定、長期戦時の兵站へいたん――それらには万全を期しているが、天候ばかりは神に祈るほかない。
 ノルドグレーンとリードホルムを分かつノーラント山脈の冬は、例年であれば行軍どころか、山越え自体に命の危険が伴うほど厳しい寒さなのだ。ひとたび例年のような雪に閉ざされれば、ノルドグレーン軍はランバンデット湖畔こはんの拠点で、何ヶ月も春の訪れを待つことになる。

「ようやく近衛兵が戻ったか……」
 苦渋くじゅうに満ちた顔でノアがつぶやく。序盤は優勢だったリードホルム軍だが、近衛兵が戦線を離脱して以後は苦戦を強いられていた。ようやくその状況に改善が見られたのだ。
 この苦闘は、主力軍を指揮するレイグラーフが、野戦指揮官としては優秀とは言い難い人物であることに起因していた。
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