191 / 247
ジュニエスの戦い
64 野心と偏執 2
しおりを挟む
「あいつは今ノルドグレーンとの喧嘩にお熱だ。トールヴァルド・マイエルの首、これ以上の手土産はねえぞ」
「そうだな。証がなければ欺瞞を疑われるだろう」
「よしんば討ち取れねえまでも、奴の部隊に損害を与えりゃローセンダールとかいう指揮官も信用するだろう。ラインフェルトやレイグラーフを討っても、抜け出す前に他のリードホルム軍に囲まれるだろうが……前線にいるマイエルはちょうどいい獲物だ」
「カッセル出身の俺たちでは、どうせ出世も遅れるばかりだが……ノルドグレーンは分け隔てなく取り立てると聞く。賭けてみるか」
「その意気だ」
スオヴァネンはマリーツの言葉に傷跡だらけの顔を歪め、野心的な笑みを浮かべた。
「それにあのローセンダールってのは、ノルドグレーンいちの金持ちだってな。褒美も出るかも知れねえぞ」
「……小隊長たちに伝えてくれ。これから何があっても、俺の命令に従えとな」
「よしきた!」
スオヴァネンは馬首を翻し、部隊の内側へ向かう。
マリーツは眦を決し、右手に長槍をきつく握った。
「老いぼれどもめ、道を開けろ。もう貴様らの時代ではない」
マイエルは主力軍の騎兵部隊が参戦したことを受け、連携してノルドグレーン軍レーフクヴィスト連隊、ならびにノルランデル連隊への攻撃を繰り返していた。
態勢を立て直したノルドグレーンの防御陣はこれまでよりも遥かに強固で、その後ろに控えるベアトリスまでの道を決して開けようとはしない。
「ようやく主力軍の奴らが動けるようになってきたか」
交戦開始直後はノルドグレーンの防御陣に歯が立たなかった主力軍の騎兵部隊が、幾度かの試行と犠牲の末にようやく、戦果を挙げられるようになってきていた。正面からの突撃を避け、わずかに手薄な密集陣形の左端から攻撃を加えたり、ある者は大盾ごと敵兵を飛び越えるなど、めいめいが死力を尽くし、この好機を逃さぬべく奮戦を続けている。
快進撃を続けていたとは言え、マイエルの部隊も無傷ではなく、少しずつではあるがその数を減じ続けている。
ジュニエス河谷への到着時は2000騎あまりいた重装騎兵は、その数1800ほどまでに損耗し、主力軍の騎兵二大隊1200と合わせても3000に満たない。これは負傷や戦死ばかりでなく、800キロメートル以上の距離を移動してきたマイエルの部隊はそれ相応の疲労もあり、戦いが長引くに連れ脱落者が出てしまうのだった。
それでも攻撃の手を休めないマイエルは、円軌道の突撃と離脱を繰り返し、ノルドグレーン軍に損害を与え続けている。
その背後に、リードホルム軍の増援が到着した。
「全軍、突撃だ! 前方の騎馬部隊を突き破れ!」
マイエル軍が描く円弧の内側、割線上の一点から喚声が上がる。その中心にいるのは、アルフレド・マリーツだ。
マリーツの部隊は、始めはやや気後れがちに、やがてひとかたまりの飛礫となって、マイエルの部隊に襲いかかった。
ノルドグレーン軍への攻撃途中だったマイエルの部隊は、長く延び切った陣形の横腹にくさびを打つように突撃され、部隊は前後に切り離された。分断された先方部隊の先頭をゆくマイエルは、円弧に沿って線を延長するように駆け抜け、マリーツ隊の右側背に出るように進路を取る。
後方部隊は可能な限りの急旋回を試み、マリーツ隊と戦いながら、放物線を描くように右方向へ進路を変え、マリーツ隊の左側面に移動した。
さらにマリーツ隊の後方に、別の騎馬部隊が姿を表した。ブリクストたち特別奇襲隊だ。
マイエルの部隊に損害がなかったわけではないが、背後からの奇襲を受けたわりには、その損害は軽微なものだった。
「ふん、やはりそう来おったか」
「おのれ……奇襲を読んでいただと……」
「そうだな。証がなければ欺瞞を疑われるだろう」
「よしんば討ち取れねえまでも、奴の部隊に損害を与えりゃローセンダールとかいう指揮官も信用するだろう。ラインフェルトやレイグラーフを討っても、抜け出す前に他のリードホルム軍に囲まれるだろうが……前線にいるマイエルはちょうどいい獲物だ」
「カッセル出身の俺たちでは、どうせ出世も遅れるばかりだが……ノルドグレーンは分け隔てなく取り立てると聞く。賭けてみるか」
「その意気だ」
スオヴァネンはマリーツの言葉に傷跡だらけの顔を歪め、野心的な笑みを浮かべた。
「それにあのローセンダールってのは、ノルドグレーンいちの金持ちだってな。褒美も出るかも知れねえぞ」
「……小隊長たちに伝えてくれ。これから何があっても、俺の命令に従えとな」
「よしきた!」
スオヴァネンは馬首を翻し、部隊の内側へ向かう。
マリーツは眦を決し、右手に長槍をきつく握った。
「老いぼれどもめ、道を開けろ。もう貴様らの時代ではない」
マイエルは主力軍の騎兵部隊が参戦したことを受け、連携してノルドグレーン軍レーフクヴィスト連隊、ならびにノルランデル連隊への攻撃を繰り返していた。
態勢を立て直したノルドグレーンの防御陣はこれまでよりも遥かに強固で、その後ろに控えるベアトリスまでの道を決して開けようとはしない。
「ようやく主力軍の奴らが動けるようになってきたか」
交戦開始直後はノルドグレーンの防御陣に歯が立たなかった主力軍の騎兵部隊が、幾度かの試行と犠牲の末にようやく、戦果を挙げられるようになってきていた。正面からの突撃を避け、わずかに手薄な密集陣形の左端から攻撃を加えたり、ある者は大盾ごと敵兵を飛び越えるなど、めいめいが死力を尽くし、この好機を逃さぬべく奮戦を続けている。
快進撃を続けていたとは言え、マイエルの部隊も無傷ではなく、少しずつではあるがその数を減じ続けている。
ジュニエス河谷への到着時は2000騎あまりいた重装騎兵は、その数1800ほどまでに損耗し、主力軍の騎兵二大隊1200と合わせても3000に満たない。これは負傷や戦死ばかりでなく、800キロメートル以上の距離を移動してきたマイエルの部隊はそれ相応の疲労もあり、戦いが長引くに連れ脱落者が出てしまうのだった。
それでも攻撃の手を休めないマイエルは、円軌道の突撃と離脱を繰り返し、ノルドグレーン軍に損害を与え続けている。
その背後に、リードホルム軍の増援が到着した。
「全軍、突撃だ! 前方の騎馬部隊を突き破れ!」
マイエル軍が描く円弧の内側、割線上の一点から喚声が上がる。その中心にいるのは、アルフレド・マリーツだ。
マリーツの部隊は、始めはやや気後れがちに、やがてひとかたまりの飛礫となって、マイエルの部隊に襲いかかった。
ノルドグレーン軍への攻撃途中だったマイエルの部隊は、長く延び切った陣形の横腹にくさびを打つように突撃され、部隊は前後に切り離された。分断された先方部隊の先頭をゆくマイエルは、円弧に沿って線を延長するように駆け抜け、マリーツ隊の右側背に出るように進路を取る。
後方部隊は可能な限りの急旋回を試み、マリーツ隊と戦いながら、放物線を描くように右方向へ進路を変え、マリーツ隊の左側面に移動した。
さらにマリーツ隊の後方に、別の騎馬部隊が姿を表した。ブリクストたち特別奇襲隊だ。
マイエルの部隊に損害がなかったわけではないが、背後からの奇襲を受けたわりには、その損害は軽微なものだった。
「ふん、やはりそう来おったか」
「おのれ……奇襲を読んでいただと……」
0
あなたにおすすめの小説
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる