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銀河のレース
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わし座・・・わし座・・・
ここは宇宙の鉄道の発着場、キラキラした機関車が次々に出たり入ったりしています。
「わし座・・・わし座・・・」
そんなところに人間の少女が一人ぽつりとたたずんでいました。ここはわしの国なので人間は珍しいです。
とある一羽のわしがたずねました。
「珍しいね、君はどこから来たんだい。」
少女は答えました。
「どこから・・・どこでしょう?」
「自分の事なのに分からないのか。」
わしはたずねました。
「何も覚えていないの。」
少女は言いました。
わしは困った様子で続けました。
「仕方がない、俺が国を案内しよう。野宿するわけにもいかないだろう。」
「ええ、ありがとう。」
少女は一羽のわしについていくことにしました。
「ここは速さの国なんだ。」
案内の途中、わしから国についての話がありました。
「年に一度、レースが開催される。皆そのために毎日競い合っている。まあ、今のオレには無理な話だ。」
わしは怪我をした翼をひらりと見せ、すぐに戻しました。
「おかげで足はきたえられて良いがね、不便ったらありゃしない。」
「怪我が治ったら出ないのですか。」
少女は聞きました。
「さあね。」わしは短く答えました。
「さ、ここが宿屋だ。」
どうやら宿についたようです。看板には宿・ふくろうと書かれています。
中に入ると大きなふくろうが忙しそうにしていました。
「やあ、ふくろう、一部屋か二部屋開いているかい。」
わしはたずねました。
「みての通りだが。」ふくろうは言いました。
「そこをなんとか。」
「屋根裏なら開いているがね。」
「仕方ない、それでいいか?」わしは少女にたずねました。
「寝られるなら。」少女は疲れた様子で言いました。
もう歩けそうにもありませんでした。
「よし、じゃ決まりだな。」
少女は案内されるがままに屋根裏部屋についていきました。
そしてつくなりベッドですぐにねてしまいました。
「早いもんだなー。」わしは感心していましたが自身もすぐに寝てしまいました。
次の日の朝、少女はレース場を見たかったので、案内してもらうことになりました。
わしはいいました。
「みても面白いもんなんてないぞ?」
やがて少し離れたレース場につきました。地面には白線が引かれています。
「ここに沿って飛ぶんだ。」
「そして一等をとった者が次の王様になる。」
「へえ、じゃああなたもそれを目指して?」
少女は聞きました。
「かつてはそうだったが今は無理だな。」
わしは言いました。
「でも、怪我が治れば分からないじゃない。」
「たしかにそうだが・・・」
「ねえ、わたし、あなたが飛ぶところを見たいわ、それまで看病するからこの国に居させてちょうだい。」
「仕方ないな。」
わしは諦め気味に答えました。
それからというものわしの看病と密かに特訓がはじまりました。
少女はふくろうに聞きながら怪我について勉強をし、必死で看病をしました。
「大丈夫、わたしが治すわ。」
少女はやけにやる気に満ち溢れていました。
「見ず知らずのオレにどうしてここまでするんだい。」
わしはとても不思議でした。
「興味があるからよ。」少女は言いました。
「鳥たちが飛んでいくその中であなたがいる景色を見るのが楽しみなのよ。」
「物好きだな、さっぱり分からない。」
わしはやはり不思議に思いました。
少女のがんばりもあってわしの翼の状態もよくなり、いよいよ飛ぶことができるという所まで来ました。
「さあ、あとは飛ぶだけよ。」
「簡単に言ってくれるなあ。」わしは言いながらためしに飛んでみました。想像より早く飛べて驚きました。
「意外と飛べるもんだな。」
「ふくろうさんに以前いいところまで飛べたって聞いたわ。レースまであとわずかだけど、きっと何とかなるわ。」
少女の励ましもあり、わしもその気になりました。
「こりゃもう飛ぶしかないみたいだな。」
翌日から飛ぶための特訓が始まりました。少し開けた野原で特訓し続けました。
「そこを右に、カーブするときはもっと早く!」
「そんなことわかってらあ!」
速さはありますが制御がうまくいきません。
ですがレースはいよいよ明日です。
「これでも出るしかねえ。」
わしは言いました。
「オレは以前レース中に怪我をしたが嬢ちゃんが見てるっていうんなら、そんなことも言ってられないからな。」
わしと少女は日が暮れても特訓し続けました。
翌朝、レースの日です。
「応援しているから、思いっきり飛んできて。」
「おうよ。」
いよいよ王様を決める競争がはじまりました。
選手たちはぶつかろうが必死に飛んでいきます。
わしもその中で頑張ります。
翼を折ったことを思い出したわしはすこし怯みました。
その隙に別のわしが追い抜いてゆきます。
「どうしたの!?がんばって!」少女の声援が遠のいてゆきます。
離れた距離を縮めるには曲がり角で速度を出さなければいけません。
わしは迷っていました。
あそこで怪我をしたからです。
「今度もだめかもしれねえ、でも今は・・・。」
決死の覚悟で突っ込みます。翼の一部があたっていきました。
「ぐっ。」わしはこらえました。重傷は免れそのまま飛ぶことができたのです。
「今は嬢ちゃんとの約束があるからなあ!」
翼をまた怪我したわしですがそんなことは気にせずに必死に飛んでいきます。痛さも忘れて飛び続けます。
そして1着でゴール。会場がわきたちました。
つぎの王様は怪我をしていたわしです。
「ああ、1位になれたんだな。」わしは安堵の表情を浮かべました。少女がかけよってきます。
「やったね!これで王様になれるよ。」
そう、1位になったものは王様の権利がもらえるのです。
ですがわしは言いました。
「そんなもんいらねえ。」
会場はどよめきました。
「え?」
「夢を叶えてくれた嬢ちゃんのために今度はオレが頑張る番だ。オレは嬢ちゃんと旅に出る。」
「あんた、自分のことが分からないんだろう?だったら探しに行かねえと。」
「そうだけど・・・」
「だったら王様なんてやってる場合じゃねえからな!」
「いそいで逃げるぞ!」
会場のブーイングの嵐の中二人は光の速さで街を後にしました。
わし座~・・・わし座~・・・
「本当に良かったの?」
「ああそれに。」
「レースよりもあんたといた方が面白そうだしな!」
わしは怪我のことなどすっかり忘れていました。
「ありがとう、わたし、自分が分からなくて不安だった。私もあなたと一緒に飛び立ちたい。」
こうして二人は今度は少女のために旅に出たのでした。
ここは宇宙の鉄道の発着場、キラキラした機関車が次々に出たり入ったりしています。
「わし座・・・わし座・・・」
そんなところに人間の少女が一人ぽつりとたたずんでいました。ここはわしの国なので人間は珍しいです。
とある一羽のわしがたずねました。
「珍しいね、君はどこから来たんだい。」
少女は答えました。
「どこから・・・どこでしょう?」
「自分の事なのに分からないのか。」
わしはたずねました。
「何も覚えていないの。」
少女は言いました。
わしは困った様子で続けました。
「仕方がない、俺が国を案内しよう。野宿するわけにもいかないだろう。」
「ええ、ありがとう。」
少女は一羽のわしについていくことにしました。
「ここは速さの国なんだ。」
案内の途中、わしから国についての話がありました。
「年に一度、レースが開催される。皆そのために毎日競い合っている。まあ、今のオレには無理な話だ。」
わしは怪我をした翼をひらりと見せ、すぐに戻しました。
「おかげで足はきたえられて良いがね、不便ったらありゃしない。」
「怪我が治ったら出ないのですか。」
少女は聞きました。
「さあね。」わしは短く答えました。
「さ、ここが宿屋だ。」
どうやら宿についたようです。看板には宿・ふくろうと書かれています。
中に入ると大きなふくろうが忙しそうにしていました。
「やあ、ふくろう、一部屋か二部屋開いているかい。」
わしはたずねました。
「みての通りだが。」ふくろうは言いました。
「そこをなんとか。」
「屋根裏なら開いているがね。」
「仕方ない、それでいいか?」わしは少女にたずねました。
「寝られるなら。」少女は疲れた様子で言いました。
もう歩けそうにもありませんでした。
「よし、じゃ決まりだな。」
少女は案内されるがままに屋根裏部屋についていきました。
そしてつくなりベッドですぐにねてしまいました。
「早いもんだなー。」わしは感心していましたが自身もすぐに寝てしまいました。
次の日の朝、少女はレース場を見たかったので、案内してもらうことになりました。
わしはいいました。
「みても面白いもんなんてないぞ?」
やがて少し離れたレース場につきました。地面には白線が引かれています。
「ここに沿って飛ぶんだ。」
「そして一等をとった者が次の王様になる。」
「へえ、じゃああなたもそれを目指して?」
少女は聞きました。
「かつてはそうだったが今は無理だな。」
わしは言いました。
「でも、怪我が治れば分からないじゃない。」
「たしかにそうだが・・・」
「ねえ、わたし、あなたが飛ぶところを見たいわ、それまで看病するからこの国に居させてちょうだい。」
「仕方ないな。」
わしは諦め気味に答えました。
それからというものわしの看病と密かに特訓がはじまりました。
少女はふくろうに聞きながら怪我について勉強をし、必死で看病をしました。
「大丈夫、わたしが治すわ。」
少女はやけにやる気に満ち溢れていました。
「見ず知らずのオレにどうしてここまでするんだい。」
わしはとても不思議でした。
「興味があるからよ。」少女は言いました。
「鳥たちが飛んでいくその中であなたがいる景色を見るのが楽しみなのよ。」
「物好きだな、さっぱり分からない。」
わしはやはり不思議に思いました。
少女のがんばりもあってわしの翼の状態もよくなり、いよいよ飛ぶことができるという所まで来ました。
「さあ、あとは飛ぶだけよ。」
「簡単に言ってくれるなあ。」わしは言いながらためしに飛んでみました。想像より早く飛べて驚きました。
「意外と飛べるもんだな。」
「ふくろうさんに以前いいところまで飛べたって聞いたわ。レースまであとわずかだけど、きっと何とかなるわ。」
少女の励ましもあり、わしもその気になりました。
「こりゃもう飛ぶしかないみたいだな。」
翌日から飛ぶための特訓が始まりました。少し開けた野原で特訓し続けました。
「そこを右に、カーブするときはもっと早く!」
「そんなことわかってらあ!」
速さはありますが制御がうまくいきません。
ですがレースはいよいよ明日です。
「これでも出るしかねえ。」
わしは言いました。
「オレは以前レース中に怪我をしたが嬢ちゃんが見てるっていうんなら、そんなことも言ってられないからな。」
わしと少女は日が暮れても特訓し続けました。
翌朝、レースの日です。
「応援しているから、思いっきり飛んできて。」
「おうよ。」
いよいよ王様を決める競争がはじまりました。
選手たちはぶつかろうが必死に飛んでいきます。
わしもその中で頑張ります。
翼を折ったことを思い出したわしはすこし怯みました。
その隙に別のわしが追い抜いてゆきます。
「どうしたの!?がんばって!」少女の声援が遠のいてゆきます。
離れた距離を縮めるには曲がり角で速度を出さなければいけません。
わしは迷っていました。
あそこで怪我をしたからです。
「今度もだめかもしれねえ、でも今は・・・。」
決死の覚悟で突っ込みます。翼の一部があたっていきました。
「ぐっ。」わしはこらえました。重傷は免れそのまま飛ぶことができたのです。
「今は嬢ちゃんとの約束があるからなあ!」
翼をまた怪我したわしですがそんなことは気にせずに必死に飛んでいきます。痛さも忘れて飛び続けます。
そして1着でゴール。会場がわきたちました。
つぎの王様は怪我をしていたわしです。
「ああ、1位になれたんだな。」わしは安堵の表情を浮かべました。少女がかけよってきます。
「やったね!これで王様になれるよ。」
そう、1位になったものは王様の権利がもらえるのです。
ですがわしは言いました。
「そんなもんいらねえ。」
会場はどよめきました。
「え?」
「夢を叶えてくれた嬢ちゃんのために今度はオレが頑張る番だ。オレは嬢ちゃんと旅に出る。」
「あんた、自分のことが分からないんだろう?だったら探しに行かねえと。」
「そうだけど・・・」
「だったら王様なんてやってる場合じゃねえからな!」
「いそいで逃げるぞ!」
会場のブーイングの嵐の中二人は光の速さで街を後にしました。
わし座~・・・わし座~・・・
「本当に良かったの?」
「ああそれに。」
「レースよりもあんたといた方が面白そうだしな!」
わしは怪我のことなどすっかり忘れていました。
「ありがとう、わたし、自分が分からなくて不安だった。私もあなたと一緒に飛び立ちたい。」
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