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36話
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私の膝に座って茶を飲む美農。
食休みついでにふかふかな尻尾を堪能していると、猫又が呆れたように笑った。
「人間に飼い慣らされおって。それでも妖狐か?」
「撫でられるのが好きなのじゃ。お主もそれは同じじゃろう?」
「べ、別に……」
否定しようとした猫又だったが風見に撫でられると気持ちよさそうに目を細め、あちらも美農に物を言える状態では無いことが伺える。
後で私も撫でる事に決めていると、外で軽トラのエンジン音が聞こえ、土地神が来たと察した。
少ししてたぬきの誰かが応対を始め、いつも通りの元気な声がここまで響く。
「騒がしい奴よのう」
「元気なのは良いことだよ」
のほほんとそんな会話をしていると重たい足音がゆっくりとこちへ向かって来ているのが分かり、襖に目を向ければ長身の偉丈夫が現れた。
ご機嫌なようで尻尾は元気良く揺れ、私と目が合うと片手を上げて。
「元気してたかー?」
「元気ですよ。土地神さんは……聞くまでも無かったですね」
「見ての通りだぜ」
異性が相手だと緊張してしまうが、彼だからこそ冗談が言えるようになって来た。
この調子で男性に対する苦手意識を軽減していきたく思っていると、猫又が鬱陶しそうな顔をしながら。
「相変わらずやかましい奴め」
「今日もツンツンだな子猫ちゃん」
「噛み殺すぞ」
ふしゃーと威嚇の声を上げる猫又だが、どことなく楽しそうな雰囲気がある。
「んで? 何の集まりよ」
「……人間の子どもが自動で動くコンバインとやらを使っていてな。面白そうだからさっきまで遊んでおった」
「はえー、すっごい」
本当にそう思っていそうな口振りで反応を示した彼は私の隣に座る。
シャンプーか洗剤か、自然な良い香りがふわっと漂い、なぜだかドキドキしてしまう。
「俺もそろそろ自動化ってのやってみっかなー。犬ちゃんたちも腰が痛いとか話してたし」
「自動で餌を配るロボットみたいなの、この前ネットニュースで見ましたよ?」
「金はあるし、そいつ買うか」
微塵も悩む素振りを見せずに即決するのは美農と似ている。
「夏月は易々と貸さぬぞ?」
「良いさ、この子が来たくなるような環境作るだけだしよ」
私の膝上でくつろぎながら牽制する美農に、土地神はイタズラな笑みを浮かべて見せた。
黄金色の尻尾がピンと立ちあがり、綺麗な二等辺三角形の狐耳もぴくぴくと反応する。
「ほう、面白い事を言うのじゃ。お主にそんなことができるとでも思ったかの?」
「日給五万でどうよ」
「お金で釣ろうとしないで下さい」
話を聞いていたたぬきたちや猫又が楽しげに笑い、彼も冗談で言ったいたようでガハハと豪快に笑う。
そうして一頻り会話を楽しんだところで土地神はコンバインを見たいと言い出し、たぬきたちも動いてるところは見ていなかったため、みんなで動くところを見にいく事ととなった。
あぜ道をぞろぞろと歩いて実験場として使っている土地の一角へ到着すれば、ご飯を食べに戻った時と何ら変わらない様子でそこに佇んでいた。
指示端末を手にした私は遠隔操作でエンジンだけ掛ける。
「すっげえな、乗んなくても操れんのか」
「簡単な操作だったらこっちでも出来るくらいですから」
言いながら操作パネルを開いた私はハンドルの向きを変えれてやれば、前輪がゆっくりと左側へ動く。
たぬきたちと土地神が歓声を上げ、自分で作ったわけでは無いのに誇らしくなってしまう。
「こんなでけえのがラジコンみたいに使えんのかよ」
「その分お高いですけどね」
「だろうな」
そう答えながら運転席に乗り込んだ彼は、内装を見てすげえすげえと興奮した声を上げる。
見た目は俳優をやっていても違和感がないくらいカッコイイのに、中身は少年というギャップは見ていて微笑ましい。
「俺も自動化してやっか。あいつらも頑張ってるしよ」
「応援してます。上手くいけばお家の人もきっと喜びますよ」
もしも時間に余裕があって、美農が許可してくれるなら私ができる範囲で手伝えるようにしてあげよう。
そう考えているとコンバインから降りて来た土地神が何かに反応して遠くをじっと見つめ始める。
「あの車何だ?」
「む?」
土地神が指差す先を見れば遥か彼方に豆粒のような影が見え、ぼんやりとこちらに近付いて来ているのが見えた。
私以外はハッキリ見えているのか、あの車種は見たことが無いだの、外から来た人では無いのかだのと話し合い始める。
ちょっとだけ仲間外れな気分になり、それを紛らわそうと楓に問いかける。
「みんな良く見えるね?」
「視力だけは良いですから。それにしても、こんな場所に何の用なんですかね?」
「何だろうね……税務署とか?」
「その辺はちゃんとやっとる」
美農がちょっと怒ったような顔をして言い切った。
少し安堵していると次第に車がはっきりと見えるようになり――それが誰の車か分かってしまった。
「み、美農、あれ追い返せる?」
「どうしてなのじゃ?」
「多分……元上司の車」
あの中古で購入したという外車は、私が休みたいと連絡したら必ずアパートの前へやって来て、何度もクラクションを鳴らしてくれた思い出がある。
忘れかけていた嫌な記憶が呼び覚まされ、動悸が激しくなると――急に車が停車した。
美農に目を向ければ美しい大人の姿になっていて、髪の毛がふわふわと浮き上がっている。
「ほうれ」
間の抜けた掛け声が入ると車は猛スピードで後退し、まるで恐ろしい何かから逃げようとするかのように去って行った。
何が起きたのか分からずポカーンとしていると、美農はぽふっと音を立てて元の姿に戻る。
「首無しの大群を見せてやったのじゃ。腰抜かしたじゃろうなあ」
にゃははとおかしそうに笑う彼女のおかげでほっと溜息を吐いた。
……もう来ないでくれると良いのだけれど。
食休みついでにふかふかな尻尾を堪能していると、猫又が呆れたように笑った。
「人間に飼い慣らされおって。それでも妖狐か?」
「撫でられるのが好きなのじゃ。お主もそれは同じじゃろう?」
「べ、別に……」
否定しようとした猫又だったが風見に撫でられると気持ちよさそうに目を細め、あちらも美農に物を言える状態では無いことが伺える。
後で私も撫でる事に決めていると、外で軽トラのエンジン音が聞こえ、土地神が来たと察した。
少ししてたぬきの誰かが応対を始め、いつも通りの元気な声がここまで響く。
「騒がしい奴よのう」
「元気なのは良いことだよ」
のほほんとそんな会話をしていると重たい足音がゆっくりとこちへ向かって来ているのが分かり、襖に目を向ければ長身の偉丈夫が現れた。
ご機嫌なようで尻尾は元気良く揺れ、私と目が合うと片手を上げて。
「元気してたかー?」
「元気ですよ。土地神さんは……聞くまでも無かったですね」
「見ての通りだぜ」
異性が相手だと緊張してしまうが、彼だからこそ冗談が言えるようになって来た。
この調子で男性に対する苦手意識を軽減していきたく思っていると、猫又が鬱陶しそうな顔をしながら。
「相変わらずやかましい奴め」
「今日もツンツンだな子猫ちゃん」
「噛み殺すぞ」
ふしゃーと威嚇の声を上げる猫又だが、どことなく楽しそうな雰囲気がある。
「んで? 何の集まりよ」
「……人間の子どもが自動で動くコンバインとやらを使っていてな。面白そうだからさっきまで遊んでおった」
「はえー、すっごい」
本当にそう思っていそうな口振りで反応を示した彼は私の隣に座る。
シャンプーか洗剤か、自然な良い香りがふわっと漂い、なぜだかドキドキしてしまう。
「俺もそろそろ自動化ってのやってみっかなー。犬ちゃんたちも腰が痛いとか話してたし」
「自動で餌を配るロボットみたいなの、この前ネットニュースで見ましたよ?」
「金はあるし、そいつ買うか」
微塵も悩む素振りを見せずに即決するのは美農と似ている。
「夏月は易々と貸さぬぞ?」
「良いさ、この子が来たくなるような環境作るだけだしよ」
私の膝上でくつろぎながら牽制する美農に、土地神はイタズラな笑みを浮かべて見せた。
黄金色の尻尾がピンと立ちあがり、綺麗な二等辺三角形の狐耳もぴくぴくと反応する。
「ほう、面白い事を言うのじゃ。お主にそんなことができるとでも思ったかの?」
「日給五万でどうよ」
「お金で釣ろうとしないで下さい」
話を聞いていたたぬきたちや猫又が楽しげに笑い、彼も冗談で言ったいたようでガハハと豪快に笑う。
そうして一頻り会話を楽しんだところで土地神はコンバインを見たいと言い出し、たぬきたちも動いてるところは見ていなかったため、みんなで動くところを見にいく事ととなった。
あぜ道をぞろぞろと歩いて実験場として使っている土地の一角へ到着すれば、ご飯を食べに戻った時と何ら変わらない様子でそこに佇んでいた。
指示端末を手にした私は遠隔操作でエンジンだけ掛ける。
「すっげえな、乗んなくても操れんのか」
「簡単な操作だったらこっちでも出来るくらいですから」
言いながら操作パネルを開いた私はハンドルの向きを変えれてやれば、前輪がゆっくりと左側へ動く。
たぬきたちと土地神が歓声を上げ、自分で作ったわけでは無いのに誇らしくなってしまう。
「こんなでけえのがラジコンみたいに使えんのかよ」
「その分お高いですけどね」
「だろうな」
そう答えながら運転席に乗り込んだ彼は、内装を見てすげえすげえと興奮した声を上げる。
見た目は俳優をやっていても違和感がないくらいカッコイイのに、中身は少年というギャップは見ていて微笑ましい。
「俺も自動化してやっか。あいつらも頑張ってるしよ」
「応援してます。上手くいけばお家の人もきっと喜びますよ」
もしも時間に余裕があって、美農が許可してくれるなら私ができる範囲で手伝えるようにしてあげよう。
そう考えているとコンバインから降りて来た土地神が何かに反応して遠くをじっと見つめ始める。
「あの車何だ?」
「む?」
土地神が指差す先を見れば遥か彼方に豆粒のような影が見え、ぼんやりとこちらに近付いて来ているのが見えた。
私以外はハッキリ見えているのか、あの車種は見たことが無いだの、外から来た人では無いのかだのと話し合い始める。
ちょっとだけ仲間外れな気分になり、それを紛らわそうと楓に問いかける。
「みんな良く見えるね?」
「視力だけは良いですから。それにしても、こんな場所に何の用なんですかね?」
「何だろうね……税務署とか?」
「その辺はちゃんとやっとる」
美農がちょっと怒ったような顔をして言い切った。
少し安堵していると次第に車がはっきりと見えるようになり――それが誰の車か分かってしまった。
「み、美農、あれ追い返せる?」
「どうしてなのじゃ?」
「多分……元上司の車」
あの中古で購入したという外車は、私が休みたいと連絡したら必ずアパートの前へやって来て、何度もクラクションを鳴らしてくれた思い出がある。
忘れかけていた嫌な記憶が呼び覚まされ、動悸が激しくなると――急に車が停車した。
美農に目を向ければ美しい大人の姿になっていて、髪の毛がふわふわと浮き上がっている。
「ほうれ」
間の抜けた掛け声が入ると車は猛スピードで後退し、まるで恐ろしい何かから逃げようとするかのように去って行った。
何が起きたのか分からずポカーンとしていると、美農はぽふっと音を立てて元の姿に戻る。
「首無しの大群を見せてやったのじゃ。腰抜かしたじゃろうなあ」
にゃははとおかしそうに笑う彼女のおかげでほっと溜息を吐いた。
……もう来ないでくれると良いのだけれど。
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