1 / 106
1話 過労からの入院
しおりを挟む
深川桂里奈が広告代理店大手である株式会社大村に入社したのは三年前のこと。
憧れていたとかでは無く、安定した給料といきなり倒産しないような会社ならどこでも良いやなんて、そんな浅い考えで就職し、採用が決まった時に大喜びしたのは記憶に新しい。
だが、この会社に勤めるようになって、もっと会社について調べるべきだったと後悔したのはすぐのことだった。
「……まだ終わんない」
思わず呟いた私の目線の先にあるのは山のように積まれた書類。
本当ならその内の半分は私の上司である鳩山海斗がやるはずなのだが、彼が面倒だからと経験の浅い部下に投げた結果、案の定出来る筈が無く私が泣く泣くやる羽目になったのだ。
時計を見れば既に夜中の一時で、窓の外は真っ暗で何も見えない。
仕事に集中出来なくなって来た私は一度立ち上がり、エレベータ近くに置かれている自販機の方へ向かう。
その自販機はの半分以上がエナジードリンクとコーヒーで埋め尽くされ、残業させるためだけに存在しているようにさえ思う。
残業しているんだからタダで飲ませて欲しいなんて考えながら硬貨を入れ、二つのエナジードリンクを買った私は自席へ向かう。
「おっと……」
最近増えて来た足の痺れで倒れそうになった私は壁に手を付いて体が落ち着くのを待つ。
しかし、いつもならそれで収まるはずの痺れが収まらず、私は仕方なく壁に手を付いたまま進もうとすると――
「……あれ?」
気付けば真っ白な天井が見え、起き上がろうとすると腕に何かが繋がっている事に気付いた。
――点滴である。
「は?」
慌てて周囲を見回すと清潔感のある白いカーテンで周りが覆われ、いつの間にか横になっていたベッドの横には脈拍の表示されたモニターが置かれている。
どうなっているのか分からず困惑しているとカーテンが開かれ、看護師の服装をした女性が入って来た。
私は困惑する頭の中をとりあえず落ち着かせて。
「あ、あの、私何で病院に?」
「一昨日、社内で人が倒れていると通報が入り、こちらまで緊急搬送されました」
「えっ」
その一言に私は言葉を失った。
「理由はお察しかと思われますが、過労によるものと推測されています」
「過労、ですか」
確かにここ一ヶ月間、一切の休暇も無いまま働き続けていた。
しかし、それなら今まで何度もあったし、倒れる程の疲れなんて無かったと思うのだが、一体どうなっているのだろう?
まだ霞の掛かったような頭の中で考えてみるが分かるはずが無く、私は考えるのを辞める。
すると看護師は同情するように私の手を握って。
「詳しいことは分かりませんが、入院中は仕事のことを忘れて、ゆっくりと体を休めてあげて下さい」
「は、はい」
私が返事をすると看護師はにこりと笑い、点滴の交換をして去って行った。
一人になった私は今を潰そうとモニターの横の机に置かれている鞄からスマホを取り出すと、鳩山から早く連絡を寄越せというメッセージが山のように届いていた。
内心ドン引きしながら私は通知を切って、蛇の育成ゲームを始める。
すると病室の扉が開く音が聞こえ、足音がこちらへと近付いて来る事に気付いた。
嫌な予感がしながらスマホを布団の中に入れた私がカーテンの方へ目を向けると同時、シャッという音と共に開かれ。
「やっと起きたのか、寝坊助がよ」
イラついた口調でそんな事を言い放ったのは、予感の通り鳩山海斗であった。
憧れていたとかでは無く、安定した給料といきなり倒産しないような会社ならどこでも良いやなんて、そんな浅い考えで就職し、採用が決まった時に大喜びしたのは記憶に新しい。
だが、この会社に勤めるようになって、もっと会社について調べるべきだったと後悔したのはすぐのことだった。
「……まだ終わんない」
思わず呟いた私の目線の先にあるのは山のように積まれた書類。
本当ならその内の半分は私の上司である鳩山海斗がやるはずなのだが、彼が面倒だからと経験の浅い部下に投げた結果、案の定出来る筈が無く私が泣く泣くやる羽目になったのだ。
時計を見れば既に夜中の一時で、窓の外は真っ暗で何も見えない。
仕事に集中出来なくなって来た私は一度立ち上がり、エレベータ近くに置かれている自販機の方へ向かう。
その自販機はの半分以上がエナジードリンクとコーヒーで埋め尽くされ、残業させるためだけに存在しているようにさえ思う。
残業しているんだからタダで飲ませて欲しいなんて考えながら硬貨を入れ、二つのエナジードリンクを買った私は自席へ向かう。
「おっと……」
最近増えて来た足の痺れで倒れそうになった私は壁に手を付いて体が落ち着くのを待つ。
しかし、いつもならそれで収まるはずの痺れが収まらず、私は仕方なく壁に手を付いたまま進もうとすると――
「……あれ?」
気付けば真っ白な天井が見え、起き上がろうとすると腕に何かが繋がっている事に気付いた。
――点滴である。
「は?」
慌てて周囲を見回すと清潔感のある白いカーテンで周りが覆われ、いつの間にか横になっていたベッドの横には脈拍の表示されたモニターが置かれている。
どうなっているのか分からず困惑しているとカーテンが開かれ、看護師の服装をした女性が入って来た。
私は困惑する頭の中をとりあえず落ち着かせて。
「あ、あの、私何で病院に?」
「一昨日、社内で人が倒れていると通報が入り、こちらまで緊急搬送されました」
「えっ」
その一言に私は言葉を失った。
「理由はお察しかと思われますが、過労によるものと推測されています」
「過労、ですか」
確かにここ一ヶ月間、一切の休暇も無いまま働き続けていた。
しかし、それなら今まで何度もあったし、倒れる程の疲れなんて無かったと思うのだが、一体どうなっているのだろう?
まだ霞の掛かったような頭の中で考えてみるが分かるはずが無く、私は考えるのを辞める。
すると看護師は同情するように私の手を握って。
「詳しいことは分かりませんが、入院中は仕事のことを忘れて、ゆっくりと体を休めてあげて下さい」
「は、はい」
私が返事をすると看護師はにこりと笑い、点滴の交換をして去って行った。
一人になった私は今を潰そうとモニターの横の机に置かれている鞄からスマホを取り出すと、鳩山から早く連絡を寄越せというメッセージが山のように届いていた。
内心ドン引きしながら私は通知を切って、蛇の育成ゲームを始める。
すると病室の扉が開く音が聞こえ、足音がこちらへと近付いて来る事に気付いた。
嫌な予感がしながらスマホを布団の中に入れた私がカーテンの方へ目を向けると同時、シャッという音と共に開かれ。
「やっと起きたのか、寝坊助がよ」
イラついた口調でそんな事を言い放ったのは、予感の通り鳩山海斗であった。
15
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる