40 / 106
36話 力比べ
しおりを挟む
それはそれは美味しそうにステーキ肉に食いつくミワを眺めながら、焼き上がったばかりの良い香りが漂うそれを私も齧る。
噛む度に肉汁が溢れ出す高級肉の美味しさと食感に思わず変な声が出る。
と、見た目相応の可愛らしい笑みを見せたミワが楽し気に。
「吾輩を餌付けする気か?」
「分かってるじゃん。良い子にしてたらまた買って来て上げる」
「ほう、ならばこの家に上がって来る害獣は全て吾輩が駆除してやろう」
いつになくやる気に満ち溢れた目をするミワのチョロさに、このままでは悪い男に騙されてしまうのではないかという不安が湧く。
しかし、美味しい肉のせいでそんな不安が打ち消され、もう一生食べていたいと言う叶わぬ願望が脳裏を過る。
「今まで食べてきたどんな料理よりも美味い。盗人を喰わなくて良かった」
「でしょ? ……待って、今何て?」
ステーキを口に運ぼうとしていた手を止めて、幸せそうな笑みを見せるミワに目を向ける。
ミワは「そう言えば話していなかったな」と呟き、フォークを切り分けた次のステーキに差しながら。
「昼間に盗人がそこの窓からこの家に入ろうとしたから喰おうと思ったんだがな。吾輩を見るなりニコニコ笑って逃げおった」
「えっ」
血の気が引きながら窓に近付き、ベランダを見てみれば靴の形の土汚れがあり、その話が本当なのだと察する。
ミワを振り返れば全く気にする様子無くパクパクとステーキを口に運んでいて、私は何も無かった事にホッとしながら。
「もし襲われたらどうするつもりだったの? もしかしたら変な趣味の人だったかもしれないし、そのまま誘拐なんてことになったら――」
「安心しろ小娘。吾輩は見た目は幼子でも人間程度容易に喰い殺せる。心配するな」
「本当に? じゃあ、ちょっと腕相撲しよっか」
「行儀が悪いぞ」
ジト目を向けるミワだったが、私が本気で心配していると察してくれた様子で、大人しく片肘をテーブルに付ける。
少し力を入れただけで壊れてしまいそうな小さなもち肌の手を取り、腕相撲の姿勢を取って。
「いくよ? よーい、どん!」
私の掛け声と共に、確かにかなり強い力が私の腕に掛かり、言っていることは嘘では無いのだと理解する。
「……小娘、貴様化け物か?」
「乙女に向かって何さ。ミワの力が弱いだけだよ」
必死に抵抗するミワの拳を反対側に倒しながらそう言うと、彼女は本当に化け物を見るような目を私に向ける。
「はい、それじゃあ今度から怪しい人が家に近付いて来たら警察に電話するように。そして食べないように」
「ぐぅ……」
「電話の仕方は後で教えてあげる……ねえ、怪物を見るような目を辞めてくれない?」
話している間もずっと化け物を見る目を向けるミワに、私は少し傷付きながら睨み付ける。
ビクッと体を震わせたミワは話を逸らすようにステーキを齧り。
「う、うむ、この肉は実に美味である。小娘も冷める前に早く食べよ」
話を逸らすのが下手糞すぎやしないだろうか、そうも思ったが確かに美味しい肉が冷めてしまうのはよろしくない。
そう考えながら元の場所に戻り、ステーキを刺したままだったフォークを手に取りながら。
「今日は抱き枕にして寝るから」
「吾輩を潰す気か?」
ミワは揶揄い口調で言ってくれた。
今日は快眠となりそうだ。
噛む度に肉汁が溢れ出す高級肉の美味しさと食感に思わず変な声が出る。
と、見た目相応の可愛らしい笑みを見せたミワが楽し気に。
「吾輩を餌付けする気か?」
「分かってるじゃん。良い子にしてたらまた買って来て上げる」
「ほう、ならばこの家に上がって来る害獣は全て吾輩が駆除してやろう」
いつになくやる気に満ち溢れた目をするミワのチョロさに、このままでは悪い男に騙されてしまうのではないかという不安が湧く。
しかし、美味しい肉のせいでそんな不安が打ち消され、もう一生食べていたいと言う叶わぬ願望が脳裏を過る。
「今まで食べてきたどんな料理よりも美味い。盗人を喰わなくて良かった」
「でしょ? ……待って、今何て?」
ステーキを口に運ぼうとしていた手を止めて、幸せそうな笑みを見せるミワに目を向ける。
ミワは「そう言えば話していなかったな」と呟き、フォークを切り分けた次のステーキに差しながら。
「昼間に盗人がそこの窓からこの家に入ろうとしたから喰おうと思ったんだがな。吾輩を見るなりニコニコ笑って逃げおった」
「えっ」
血の気が引きながら窓に近付き、ベランダを見てみれば靴の形の土汚れがあり、その話が本当なのだと察する。
ミワを振り返れば全く気にする様子無くパクパクとステーキを口に運んでいて、私は何も無かった事にホッとしながら。
「もし襲われたらどうするつもりだったの? もしかしたら変な趣味の人だったかもしれないし、そのまま誘拐なんてことになったら――」
「安心しろ小娘。吾輩は見た目は幼子でも人間程度容易に喰い殺せる。心配するな」
「本当に? じゃあ、ちょっと腕相撲しよっか」
「行儀が悪いぞ」
ジト目を向けるミワだったが、私が本気で心配していると察してくれた様子で、大人しく片肘をテーブルに付ける。
少し力を入れただけで壊れてしまいそうな小さなもち肌の手を取り、腕相撲の姿勢を取って。
「いくよ? よーい、どん!」
私の掛け声と共に、確かにかなり強い力が私の腕に掛かり、言っていることは嘘では無いのだと理解する。
「……小娘、貴様化け物か?」
「乙女に向かって何さ。ミワの力が弱いだけだよ」
必死に抵抗するミワの拳を反対側に倒しながらそう言うと、彼女は本当に化け物を見るような目を私に向ける。
「はい、それじゃあ今度から怪しい人が家に近付いて来たら警察に電話するように。そして食べないように」
「ぐぅ……」
「電話の仕方は後で教えてあげる……ねえ、怪物を見るような目を辞めてくれない?」
話している間もずっと化け物を見る目を向けるミワに、私は少し傷付きながら睨み付ける。
ビクッと体を震わせたミワは話を逸らすようにステーキを齧り。
「う、うむ、この肉は実に美味である。小娘も冷める前に早く食べよ」
話を逸らすのが下手糞すぎやしないだろうか、そうも思ったが確かに美味しい肉が冷めてしまうのはよろしくない。
そう考えながら元の場所に戻り、ステーキを刺したままだったフォークを手に取りながら。
「今日は抱き枕にして寝るから」
「吾輩を潰す気か?」
ミワは揶揄い口調で言ってくれた。
今日は快眠となりそうだ。
26
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる