さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

文字の大きさ
49 / 106

白蛇と鬼

しおりを挟む
 正面の席に腰掛ける鬼の子を前に、吾輩は不思議と高揚感を覚える。
 それはこの男も同じらしく、幼い子どものように目をキラキラと輝かせ、何から話そうかとウズウズしている。

「で、では、私は仕事に戻りますね」

「ああ、頑張ってくれ」

 小娘に短く言葉を返した鬼の子は吾輩に目を戻し、少し前屈みの姿勢を取る。
 何を質問されるのだろうかと予想しながらお茶を一口すすると同時、出て来た問は単刀直入なものであった。

「あんたは何者だ?」

「吾輩は蛇神だ。名前は忘れた」

 蛇神という単語に反応した鬼の子を見て、吾輩はやっとこの反応を見られたことに嬉しさを感じる。
 どこぞの小娘は喋れるだけの蛇として扱い、小娘の妹は最初こそ驚きはすれど、まるで普通の幼児のように扱いおった。
 普通の反応を見れた事に内心喜びを感じていると、鬼の子は目を更に輝かせて。

「蛇神と言っても様々な種類がある。何か偉業を成したとか、そう言うのは無いか?」

「国を造ったな。それは偉業となるか?」

 考える素振りを見せた鬼の子だったが、これと言って思い当たらない様子で唸る。
 吾輩の功績は遥か昔のこと。何千年と経った今、そんな物が言い伝えられている訳が無いか。
 少し寂しく思いながら再び緑茶を啜っていると、鬼の子は話題を変えて。

「深川とは一体どこで出会った? 神社とかか?」

「いいや、人間に殺されそうになってな。慌てて逃げ込んだ先があの娘の家だった」

「怖がられなかったのか?」

「可愛がられたな」

 あの時は本当に驚いたものだ。
 人間の女も男も吾輩を見るなり臭いガスを吹き掛けて来たり、書物のようなもので殴りかかって来たりと、必ず攻撃的な行動を見せたのに、あの小娘は吾輩を見るなり手を伸ばして来た。
 認めるのは癪だがあの時は嬉しかったものだ。

 しばらく考える素振りを見せていた鬼の子は、「よし」と呟いて立ち上がると付いて来るように言って部屋の出口へ歩き始める。
 どこに行くつもりなのか少し疑問に思いながらその後を追って部屋を出ると、向かっていた先はエレベーターだった。

「どこへ行く?」

「地下だ。まあ、着いたら分かる」
 
 そう言って鬼の子は『B3』と書かれたボタンを押した。
 少しの浮遊感と共にエレベーターは止まる事無く下がって行き、やがて空気がどんよりとした階層に到着する。

「……何だここは」

「凄いだろ? 集めるのに苦労したんだ」

 自慢げにそう言った鬼の子が手で差し示した先。
 そこには古めかしい書物がぎっちりと詰め込まれた巨大な本棚が並び、部屋の奥ではその書物を読んでいるあやかしの匂いを漂わせる人間達が見える。
 吾輩はその光景が依然見た動画と似ている事に気付き、恐る恐る尋ねる。

「強制労働してるのか?」

「俺を何だと思ってんだ。バカなこと言ってないで付いて来い」

 何言ってんだこいつとでも言いたげな目を向けた鬼の子は先を歩き始め。
 吾輩はここなら見つかるかもしれないと、少しの期待を胸にその後を追った。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...