59 / 106
53話 蛇と鳩
しおりを挟む
「いやぁ、説明分かりやすくて助かりますわぁ!」
ヘラヘラと媚びへつらう鳩山に矢壁先輩は嬉しそうに笑う。
しかし、その隣の七海は何か勘付いている様子で、仕事道具を片付けながら鳩山を睨み付けている。
もしかしたら、さっきのやり取りを聞いてしまったのかもしれない。
「深川、ちょっと良いか?」
隣でパソコンの電源を落としていた猫田さんの囁き声に反応してそちらを向けば、心配した様子で私を見つめていた。
「あの男に何言われた?」
「……言えないです」
もう全て吐き出したい気持ちが喉まで上がって来るが、何をして来るかも分からないあの男の事を考えると、その気持ちは自然と消えてしまう。
猫田さんはしばらくじいっと私を見ていたが、やがて諦めたように一つ溜息を吐いて。
「分かった、話せるようになったらその時にな」
「はい」
それが一体いつになるのか分からないが、味方がいるだけでも大村の頃よりはずっと気が楽だ。
私は自分にそう言い聞かせ、もやもやした様子の猫田さんと一緒に、エレベーターの前へ移動する。
一階で止まっていたエレベーターがゆっくりと上がって来るのを表示灯で確認していると、荷物をまとめた鳩山と矢壁先輩が私たちの斜め後ろに並んだ。
「ここの自販機、エナドリ全く無いんすね! これってつまり、残業する必要が無いから置いて無いって事すよね?」
「そういうこと。偶に眠くなることがあるから飲む事あるけど、残業で飲むことはほとんど無いよ」
気分良さげに答える矢壁先輩に鳩山は大仰に振舞い、大村の頃を再び思い出してしまった私は自然と溜息が出る。
と、丁度良いのか悪いのか、そんなタイミングでエレベーターが到着し、私たちが乗り込むとすぐに動き出す。
「それにしても、まさか深川がここにいるなんて思わなかったなあ。また同じ職場で働けるなんて驚いたわ」
「……そうだね」
私のアパートを特定しておきながら驚いたとは何の冗談だろうか。全く笑えない。
再び溜息が出そうになるのをグッと堪えているとエレベーターが一階に到着し、私はそそくさとこの最悪な密室から抜け出す。
出入口近くのベンチにミワと鬼塚社長が座っているのが見え、不思議と安心感が湧き出しながら近付くと、二人はこちらに気付いた様子で手を振った。
「何だお前、社長と仲良くなってんの?」
ヘラヘラと話し掛けて来た鳩山は胸ポケットから名刺を取り出しながら鬼塚社長の元へ駆けて行き。
「初めまして、鳩山海斗と言います! 今日からここで働くことになりました!」
「あー、あんたが飯塚にスカウトされた新人か。頑張ってな」
鬼塚社長はあまり興味無さそうにそう言って、鳩山の差し出した手の先を少しだけ握る。
すると鳩山はミワに気付き、頭を撫でようと言うのか手を伸ばしながら。
「もしかしてその子、社長のお子さんですか? かわいい……なぁ」
触られたくない、私がそう思うのと同時、鳩山は急に手を引っ込めて顔を逸らした。
その不振極まりない行動に疑問が湧き上がりながら私たちが近付くと同時、ミワは鳩山を指差して。
「貴様、この前の盗人では無いか。何故ここにいる?」
爆弾発言によって鳩山には幾つもの視線が突き刺さる。
私はそんな光景を眺めながら警察を呼ぶ準備を始め、猫田さんは小さな声で「犯罪者かよ……」と呟いた。
ヘラヘラと媚びへつらう鳩山に矢壁先輩は嬉しそうに笑う。
しかし、その隣の七海は何か勘付いている様子で、仕事道具を片付けながら鳩山を睨み付けている。
もしかしたら、さっきのやり取りを聞いてしまったのかもしれない。
「深川、ちょっと良いか?」
隣でパソコンの電源を落としていた猫田さんの囁き声に反応してそちらを向けば、心配した様子で私を見つめていた。
「あの男に何言われた?」
「……言えないです」
もう全て吐き出したい気持ちが喉まで上がって来るが、何をして来るかも分からないあの男の事を考えると、その気持ちは自然と消えてしまう。
猫田さんはしばらくじいっと私を見ていたが、やがて諦めたように一つ溜息を吐いて。
「分かった、話せるようになったらその時にな」
「はい」
それが一体いつになるのか分からないが、味方がいるだけでも大村の頃よりはずっと気が楽だ。
私は自分にそう言い聞かせ、もやもやした様子の猫田さんと一緒に、エレベーターの前へ移動する。
一階で止まっていたエレベーターがゆっくりと上がって来るのを表示灯で確認していると、荷物をまとめた鳩山と矢壁先輩が私たちの斜め後ろに並んだ。
「ここの自販機、エナドリ全く無いんすね! これってつまり、残業する必要が無いから置いて無いって事すよね?」
「そういうこと。偶に眠くなることがあるから飲む事あるけど、残業で飲むことはほとんど無いよ」
気分良さげに答える矢壁先輩に鳩山は大仰に振舞い、大村の頃を再び思い出してしまった私は自然と溜息が出る。
と、丁度良いのか悪いのか、そんなタイミングでエレベーターが到着し、私たちが乗り込むとすぐに動き出す。
「それにしても、まさか深川がここにいるなんて思わなかったなあ。また同じ職場で働けるなんて驚いたわ」
「……そうだね」
私のアパートを特定しておきながら驚いたとは何の冗談だろうか。全く笑えない。
再び溜息が出そうになるのをグッと堪えているとエレベーターが一階に到着し、私はそそくさとこの最悪な密室から抜け出す。
出入口近くのベンチにミワと鬼塚社長が座っているのが見え、不思議と安心感が湧き出しながら近付くと、二人はこちらに気付いた様子で手を振った。
「何だお前、社長と仲良くなってんの?」
ヘラヘラと話し掛けて来た鳩山は胸ポケットから名刺を取り出しながら鬼塚社長の元へ駆けて行き。
「初めまして、鳩山海斗と言います! 今日からここで働くことになりました!」
「あー、あんたが飯塚にスカウトされた新人か。頑張ってな」
鬼塚社長はあまり興味無さそうにそう言って、鳩山の差し出した手の先を少しだけ握る。
すると鳩山はミワに気付き、頭を撫でようと言うのか手を伸ばしながら。
「もしかしてその子、社長のお子さんですか? かわいい……なぁ」
触られたくない、私がそう思うのと同時、鳩山は急に手を引っ込めて顔を逸らした。
その不振極まりない行動に疑問が湧き上がりながら私たちが近付くと同時、ミワは鳩山を指差して。
「貴様、この前の盗人では無いか。何故ここにいる?」
爆弾発言によって鳩山には幾つもの視線が突き刺さる。
私はそんな光景を眺めながら警察を呼ぶ準備を始め、猫田さんは小さな声で「犯罪者かよ……」と呟いた。
26
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる