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79話
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ガタッというバスの揺れで目が覚めた。
窓の外を見ればどうやらバス停で止まったことによる揺れだったようで、数人の女子高生たちが乗り込もうとしているのが見える。
地元の女子高生だろうかとのんびり考えていると、肩に少しだけ重みを感じ、そちらへ目を向ければ静かに眠る猫田さんの姿があった。
悪い夢でも見ているのか眉を顰め、よく聞けば苦しそうにうめいている。
心配になって背中を摩ってみると段々落ち着きを見せ、静かな寝息だけが聞こえるようになった。
すると視線を感じ取り、斜め前の座席に座った女子高生二人と目が合い、彼女たちは少し慌てた様子で前を向いた。
直前に浮かべていたニヤニヤとした笑みはまさに私を小馬鹿にする時の波瑠と同じで、色々言ってやりたい事が喉まで込み上がる。
何とか文句を飲み込んでいると猫田さんがビクッと震えて目を覚まし、自分がどのように寝ていたのか察した様子で。
「ご、ごめん。寝相悪くて……」
「気にしないでください」
少し顔を赤くして謝る猫田さんに私は笑顔を向けて短く答える。
再び視線が感じて前を見ればさっきの女子高生たちがニマニマと笑みを浮かべながらすぐに顔を逸らし、窓の外を指差して「あのワンちゃん可愛い」などとわざとらしく会話を始める。
全く誤魔化せていない彼女たちに今度こそ何か言ってやりたく思っていると、猫田さんはスマホを取り出して「うげっ」と声を出した。
「どうかしました?」
「見た方が早い」
そう言って猫田さんが差し出したスマホには見慣れたメッセージアプリが開かれていて、私との関係が上手くいっているか尋ねる短文がいくつも並んでいた。
画面左上には弧塚七海の名前があり、予想通りな差出人の名前で乾いた笑いが出る。
「こいつどう思うよ」
「頭の中ピンク一色なんだなぁって」
ハハハと笑った猫田さんは七海に「うるせえ」とだけ返信してアプリを閉じ、両腕を天井へ伸ばして体を解す。
と、私のスマホも通知音を鳴らし、メッセージの送り主が誰なのかなんとなく察しながらポケット取り出してみると、案の定波瑠だった。
しかし、今回はメッセージではなく数枚の画像が送られてきたようで、私は何だろうと思いながら通知をタップする。
通信が悪いのか画像の読み込みに数秒の時間がかかり、やっとのことで表示されたのは水樹が描いたのであろうミワのイラストだった。
『猫田さんとの話題にどうぞ^^』
少し遅れて憎たらしい絵文字付きの一文が送り付けられ、あいつには絶対お土産を買わないと心に決め、「うるさい」と返信し、画像を保存してアプリを閉じる。
どいつもこいつもと内心で悪態を吐きつつ、私は保存したミワの画像をもう一度開いてのんびりと見つめる。
まるでアイドルのようなフリフリとした服を着せられて不満そうな表情を浮かべるイラストは容易に本物を想像させ、帰ったらいっぱい撫で回そうなんて考えてしまう。
「それ、水樹さんが描いたやつか?」
「え? は、はい、そうです」
急に話しかけられて変な声を出してしまった私に、猫田さんは面白がるように笑いながら覗き込む。
すぐにモデルが誰なのか分かったようで「ミワちゃん可愛いな」と小さく呟き、癒されているような笑みを浮かべる。
波留の思い通りになろうとしている事実を悔しく想いながら私は同意を返して。
「本当に可愛いですよね。常に反抗期なのは玉に瑕ですけど」
「でもなんだかんだ言って良い子だったよな。一応、悪いことはしてないし」
「言われてみれば……」
なんとなくたくさん悪いことをしていたイメージを持っていたが、思い返せばこれと言って悪いことをしているところは見ていない。
強いて言えば私の家に不法侵入したくらいだが、そのままペット兼家族になったからノーカウントだろう。
「ミワちゃん見てると、俺も娘が欲しくなってくるな」
「ツンデレなところは猫とそっくりですもんね」
「だな」
よく考えるとミワ一人で蛇と猫と幼女の欲張りセットであることに気付いて、そりゃ可愛がられるわけだと納得する。
本人に言ったら激怒しそうなことを考えて一人で笑いそうになっているとバスは目的地に到着した。
全く気付いていない様子の猫田さんに声をかけて急ぎ気味に降車し、街灯に照らされる薄暗い道をゆったり歩く。
「なんか、女子高生笑ってたな」
「猫田さんが寝てた時もこっち見てニヤニヤしてましたよ」
「……やっぱ、周りからはそう見えてんのかなあ」
「見えてるんでしょうねえ」
口調を真似てそう返すと彼は楽しげに笑う。
結衣や佐藤さんですら私たちをカップルだと断定するほどだったし、側から見ればお似合いなのだろう。
……嫌ではないけれど。
「じゃ、付き合うか?」
「え?」
唐突な言葉に猫田さんの目を見る。
顔は笑っているがその目は少し震えていて、本気で言っているのだと分かりーー気付けば私はコクリと頷いていた。
窓の外を見ればどうやらバス停で止まったことによる揺れだったようで、数人の女子高生たちが乗り込もうとしているのが見える。
地元の女子高生だろうかとのんびり考えていると、肩に少しだけ重みを感じ、そちらへ目を向ければ静かに眠る猫田さんの姿があった。
悪い夢でも見ているのか眉を顰め、よく聞けば苦しそうにうめいている。
心配になって背中を摩ってみると段々落ち着きを見せ、静かな寝息だけが聞こえるようになった。
すると視線を感じ取り、斜め前の座席に座った女子高生二人と目が合い、彼女たちは少し慌てた様子で前を向いた。
直前に浮かべていたニヤニヤとした笑みはまさに私を小馬鹿にする時の波瑠と同じで、色々言ってやりたい事が喉まで込み上がる。
何とか文句を飲み込んでいると猫田さんがビクッと震えて目を覚まし、自分がどのように寝ていたのか察した様子で。
「ご、ごめん。寝相悪くて……」
「気にしないでください」
少し顔を赤くして謝る猫田さんに私は笑顔を向けて短く答える。
再び視線が感じて前を見ればさっきの女子高生たちがニマニマと笑みを浮かべながらすぐに顔を逸らし、窓の外を指差して「あのワンちゃん可愛い」などとわざとらしく会話を始める。
全く誤魔化せていない彼女たちに今度こそ何か言ってやりたく思っていると、猫田さんはスマホを取り出して「うげっ」と声を出した。
「どうかしました?」
「見た方が早い」
そう言って猫田さんが差し出したスマホには見慣れたメッセージアプリが開かれていて、私との関係が上手くいっているか尋ねる短文がいくつも並んでいた。
画面左上には弧塚七海の名前があり、予想通りな差出人の名前で乾いた笑いが出る。
「こいつどう思うよ」
「頭の中ピンク一色なんだなぁって」
ハハハと笑った猫田さんは七海に「うるせえ」とだけ返信してアプリを閉じ、両腕を天井へ伸ばして体を解す。
と、私のスマホも通知音を鳴らし、メッセージの送り主が誰なのかなんとなく察しながらポケット取り出してみると、案の定波瑠だった。
しかし、今回はメッセージではなく数枚の画像が送られてきたようで、私は何だろうと思いながら通知をタップする。
通信が悪いのか画像の読み込みに数秒の時間がかかり、やっとのことで表示されたのは水樹が描いたのであろうミワのイラストだった。
『猫田さんとの話題にどうぞ^^』
少し遅れて憎たらしい絵文字付きの一文が送り付けられ、あいつには絶対お土産を買わないと心に決め、「うるさい」と返信し、画像を保存してアプリを閉じる。
どいつもこいつもと内心で悪態を吐きつつ、私は保存したミワの画像をもう一度開いてのんびりと見つめる。
まるでアイドルのようなフリフリとした服を着せられて不満そうな表情を浮かべるイラストは容易に本物を想像させ、帰ったらいっぱい撫で回そうなんて考えてしまう。
「それ、水樹さんが描いたやつか?」
「え? は、はい、そうです」
急に話しかけられて変な声を出してしまった私に、猫田さんは面白がるように笑いながら覗き込む。
すぐにモデルが誰なのか分かったようで「ミワちゃん可愛いな」と小さく呟き、癒されているような笑みを浮かべる。
波留の思い通りになろうとしている事実を悔しく想いながら私は同意を返して。
「本当に可愛いですよね。常に反抗期なのは玉に瑕ですけど」
「でもなんだかんだ言って良い子だったよな。一応、悪いことはしてないし」
「言われてみれば……」
なんとなくたくさん悪いことをしていたイメージを持っていたが、思い返せばこれと言って悪いことをしているところは見ていない。
強いて言えば私の家に不法侵入したくらいだが、そのままペット兼家族になったからノーカウントだろう。
「ミワちゃん見てると、俺も娘が欲しくなってくるな」
「ツンデレなところは猫とそっくりですもんね」
「だな」
よく考えるとミワ一人で蛇と猫と幼女の欲張りセットであることに気付いて、そりゃ可愛がられるわけだと納得する。
本人に言ったら激怒しそうなことを考えて一人で笑いそうになっているとバスは目的地に到着した。
全く気付いていない様子の猫田さんに声をかけて急ぎ気味に降車し、街灯に照らされる薄暗い道をゆったり歩く。
「なんか、女子高生笑ってたな」
「猫田さんが寝てた時もこっち見てニヤニヤしてましたよ」
「……やっぱ、周りからはそう見えてんのかなあ」
「見えてるんでしょうねえ」
口調を真似てそう返すと彼は楽しげに笑う。
結衣や佐藤さんですら私たちをカップルだと断定するほどだったし、側から見ればお似合いなのだろう。
……嫌ではないけれど。
「じゃ、付き合うか?」
「え?」
唐突な言葉に猫田さんの目を見る。
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