さらばブラック企業、よろしくあやかし企業

星野真弓

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81話 

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「おはよう。喧嘩せずやってるか?」

「おはようございます。仲良くやってます」

 パソコンに映し出された鬼塚社長に猫田さんがぺこぺこしながら言う。
 それに倣って私も頭を下げて見せると、何か感じ取ったのかおかしそうに社長は笑って。

「末永くお幸せに」

「変な事言わないで下さい」

 何となく馬鹿にされている気がして思わず言い返すと、ガハハと鬼らしさのある豪快な笑い声を上げる。
 私たちの間に何が起きたか完全に察しているらしい反応に何か言って誤魔化そうとも考えるが、職場にバレるのも時間の関係と思い至って諦める。
 と、猫田さんが緊張気味に問いを投げ掛ける。

「えーっと……緊急の用とのことでしたがどうなさいましたか?」

「そうだったそうだった。邪魔しちゃ悪いもんな」

 揶揄い口調でそう言った彼は手元の書類をいくつか手に取る。

「昨日、お前たちが言ってた八岐大蛇を管理するという男から電話とFAXが入ってな。概要については色々と教えてもらった。まさか現存する神がまだいるとは驚いた」

「とても人間味のある可愛らしい神様でした。雰囲気としてはミワに似てます」

「いつか会ってみたいものだな。それはさて置き、色々と許可を貰えたから村のことを調べて来て欲しい。特に天叢雲剣についてな」

「調べると言いますと、写真に収めて剣にまつわる伝説を調べる形でよろしいですか?」

「舐め回すように撮って来てくれ。写真じゃなく動画でも構わない」

 舐め回すように……という事は本物を見てみたいという事なのかもしれない。
 一つ疑問が湧き出した私は小さく挙手して問いを投げ掛ける。

「あの、前から気になっていたのですが、社長は古代の伝説がお好きなんですか?」

「オタクを名乗れるくらいには好きだな。本当は俺が行きたかったくらいだ」

 目に見えてしょんぼりと肩を落としたのを見て、その強面とのギャップに思わず笑ってしまう。
 と、社長の手元にあったスマホが着信音を鳴らし、少し慌てた様子でこちらを向いて。

「って事で頼んだぞ! 写真なら最低でも三十枚、映像なら移ってないところが一カ所も無いくらいしっかりと撮影するんだ! 良いな!」

 私たちが返事する前にぷちっと通信が切れてしまい、パソコンの画面には『通信が終了しました』と文字が出る。 
 少しでも映っていない箇所があったら今までにないほど怒られてしまいそうで、少し不安を覚えてしまう。

「何か、凄かったな」

「だね」

「出発の準備、するか」

「うん」

 そう言えばなぜ私たちの仲が進展したと分かったのだろうと不思議に思いながら猫田さんの手を離して立ち上がり、昨日も使ったリュックに充電したモバイルバッテリーなどを詰め込む。
 さて、今日もあの可愛い神様と楽しく会話するとしよう。社長のように私たちの関係を一発で見抜かれないことを願おう。
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