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85話 再び
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電話が掛かって来たのは、朝食を食べ始めた頃だった。
携帯を手に取ってみると社長の名前が表示され、どうしたんだろうと疑問に思いながら出てみると。
『深川だな?』
「は、はい、そうです。どうかなさいましたか?」
『ミワはいるか?』
「います。変わりましょうか?」
そう言いながらサンドウィッチを頬張るミワに目を向ける。
大層幸せそうな顔をする彼女は私の視線に気付くと、小首を傾げる。
『そうだな、ちょっと変わってくれ』
「分かりました」
私は返事をしてミワにスマホを手渡す。
相手が誰なのかを教えるとちょっと興味が湧いた様子で、口の中をごくんと飲み込んで電話に出る。
「何の用だ」
態度がデカすぎる。
叱りつけようかとも思ったが、以前二人きりにさせた時もきっとこんな感じだったのだろうと思い至り、私は口を閉ざす。
しばらく会話をしていたミワはちょこっと嬉しそうな顔をしながら私にスマホを返す。
『深川、復帰してばかりで悪いが一週間後にでも奈良の大神神社に行って来て欲しい。時間が余ったら前と同じように観光して来て構わん』
「わ、分かりました」
デジャブを感じている間に電話は切られ、チラと蒼馬に目を向ける。
何を言われたのかもう察しているらしく、面倒くさそうな顔をして。
「また出張?」
「うん、また出張。奈良でデートできるよ?」
そんなことを言ってみると眉間に寄っていた皺がスッと消え、「よし行こう」と言い始める。
おバカに見えるその反応に吹き出してしまいながらパンを齧る。
「吾輩の神社、ようやっと見つけおったか」
「大神神社って言ってたけど、私聞いたこと無いんだよね。どんなところなの?」
「覚えとらん」
「え?」
まさかの返答に言葉を失う。
自分の記憶はあんまりないとは話していたが、まさかそこまで覚えていなかったとは驚きだ。
「ミワって自分のことで覚えてることって何があるんだ?」
「……神であることくらいか?」
「何にも覚えてないじゃん」
「うぐっ」
「蒼馬、そうやっていじめないの。おバカなところもミワの可愛いところでしょ?」
「慰めになっていないぞ」
ジト目を向けながらパンを齧るミワにごめんごめんと謝りつつ、スマホで大神神社について検索する。
一番上に出てきたホームページをタップすると、大層な神社を背景にした神社の説明が表示された。
どうやら私が疎かっただけでかなり有名な神社だったらしく、日本最古の神社の一つとも書かれている。
「もしかしてミワってすごい神様なの?」
「当たり前だ。本来、吾輩をおバカなどと愚弄するのは許されんのだぞ」
「そう言われてもお子ちゃまだし」
「猫又風情が図にのるな」
ガルルと唸るミワに、びくっと震えた蒼馬はパンを口に放り込むと逃げるように皿を台所へと持っていった。
そんな二人がどちらともおバカに見えて笑っていると、時間が迫っていることに気付いて私もパン残りを口に放り込む。
ちょっとドタバタしながら蒼馬と出社の支度を終えて、玄関へ向かうとミワがちょっと寂しそうな顔をして見送りにやってくる。
「今日はいつ帰ってくる?」
「昨日と同じかな。今度はちゃんと美味しいお肉買ってくるね」
「魚がいい」
「蛇って魚食うのか?」
ちょっと疑問を持った様子でそんな問いを蒼馬が投げかけるがミワはそれを無視して私の方へ近寄る。
昨日もやったなあと考えながらちみっこい体をむぎゅっと抱き締め、頭をヨシヨシと撫でる。
自分もやりたそうな顔をする蒼馬にはやらせてあげないらしく、ぷいっと顔をそらす。
「じゃ、行ってくるね」
「気を付けよ」
気丈に振る舞う彼女をもう一度ハグしてから家を出る。
昔、私も幼稚園に預けられた時もあんなふうに寂しい思いをしたなと、懐かしい記憶が蘇る。
「桂里奈がそんな寂しそうにしてどうすんだよ」
「だって可哀想じゃん?」
「……なら社長に相談してみたらどうよ」
「託児所みたいなことしてくれるのかな?」
疑問を口にするが、あの人なら案外やりそうだと考えてしまう。
今日、会うことがあったらちょっと聞いてみるのがいいだろう。
携帯を手に取ってみると社長の名前が表示され、どうしたんだろうと疑問に思いながら出てみると。
『深川だな?』
「は、はい、そうです。どうかなさいましたか?」
『ミワはいるか?』
「います。変わりましょうか?」
そう言いながらサンドウィッチを頬張るミワに目を向ける。
大層幸せそうな顔をする彼女は私の視線に気付くと、小首を傾げる。
『そうだな、ちょっと変わってくれ』
「分かりました」
私は返事をしてミワにスマホを手渡す。
相手が誰なのかを教えるとちょっと興味が湧いた様子で、口の中をごくんと飲み込んで電話に出る。
「何の用だ」
態度がデカすぎる。
叱りつけようかとも思ったが、以前二人きりにさせた時もきっとこんな感じだったのだろうと思い至り、私は口を閉ざす。
しばらく会話をしていたミワはちょこっと嬉しそうな顔をしながら私にスマホを返す。
『深川、復帰してばかりで悪いが一週間後にでも奈良の大神神社に行って来て欲しい。時間が余ったら前と同じように観光して来て構わん』
「わ、分かりました」
デジャブを感じている間に電話は切られ、チラと蒼馬に目を向ける。
何を言われたのかもう察しているらしく、面倒くさそうな顔をして。
「また出張?」
「うん、また出張。奈良でデートできるよ?」
そんなことを言ってみると眉間に寄っていた皺がスッと消え、「よし行こう」と言い始める。
おバカに見えるその反応に吹き出してしまいながらパンを齧る。
「吾輩の神社、ようやっと見つけおったか」
「大神神社って言ってたけど、私聞いたこと無いんだよね。どんなところなの?」
「覚えとらん」
「え?」
まさかの返答に言葉を失う。
自分の記憶はあんまりないとは話していたが、まさかそこまで覚えていなかったとは驚きだ。
「ミワって自分のことで覚えてることって何があるんだ?」
「……神であることくらいか?」
「何にも覚えてないじゃん」
「うぐっ」
「蒼馬、そうやっていじめないの。おバカなところもミワの可愛いところでしょ?」
「慰めになっていないぞ」
ジト目を向けながらパンを齧るミワにごめんごめんと謝りつつ、スマホで大神神社について検索する。
一番上に出てきたホームページをタップすると、大層な神社を背景にした神社の説明が表示された。
どうやら私が疎かっただけでかなり有名な神社だったらしく、日本最古の神社の一つとも書かれている。
「もしかしてミワってすごい神様なの?」
「当たり前だ。本来、吾輩をおバカなどと愚弄するのは許されんのだぞ」
「そう言われてもお子ちゃまだし」
「猫又風情が図にのるな」
ガルルと唸るミワに、びくっと震えた蒼馬はパンを口に放り込むと逃げるように皿を台所へと持っていった。
そんな二人がどちらともおバカに見えて笑っていると、時間が迫っていることに気付いて私もパン残りを口に放り込む。
ちょっとドタバタしながら蒼馬と出社の支度を終えて、玄関へ向かうとミワがちょっと寂しそうな顔をして見送りにやってくる。
「今日はいつ帰ってくる?」
「昨日と同じかな。今度はちゃんと美味しいお肉買ってくるね」
「魚がいい」
「蛇って魚食うのか?」
ちょっと疑問を持った様子でそんな問いを蒼馬が投げかけるがミワはそれを無視して私の方へ近寄る。
昨日もやったなあと考えながらちみっこい体をむぎゅっと抱き締め、頭をヨシヨシと撫でる。
自分もやりたそうな顔をする蒼馬にはやらせてあげないらしく、ぷいっと顔をそらす。
「じゃ、行ってくるね」
「気を付けよ」
気丈に振る舞う彼女をもう一度ハグしてから家を出る。
昔、私も幼稚園に預けられた時もあんなふうに寂しい思いをしたなと、懐かしい記憶が蘇る。
「桂里奈がそんな寂しそうにしてどうすんだよ」
「だって可哀想じゃん?」
「……なら社長に相談してみたらどうよ」
「託児所みたいなことしてくれるのかな?」
疑問を口にするが、あの人なら案外やりそうだと考えてしまう。
今日、会うことがあったらちょっと聞いてみるのがいいだろう。
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