105 / 106
98話 狐屋敷
しおりを挟む
私たちが通された部屋は、テーブルが三列並ぶ客室だった。
たぬき娘たちがあちらこちらで七海の持って来たお菓子の入った箱を開け始め、それはそれは美味しそうにもぐもぐと食べる。
餌付け狐と言われていた事に納得していると、電話して来ると言って席を外していた狐の幼女が戻って来た。
「連絡したら、荷物の出荷中にいなくなったそうじゃな。何をしたらそうなる、土地神」
呆れたように問いかけられた土地神は、私の膝の上でお座りをしたまま。
「……屋敷で毛布にくるまって昼寝をしていたら、タケノコと間違われて出荷されたらしい」
「可愛い」
思わず笑ってしまいながらそう呟いた私に、真白は何とも言えない顔で見上げてくる。
一先ず背中を撫でてヨシヨシしていると、トイレから戻って来た七海が私の隣に座り、たぬき娘たちと共にお菓子へ手をつける。
そんな彼女に屋敷へ入る前からぶつけたかった疑問を投げかける。
「七海の本名は玉藻なの?」
「……バレちゃあ仕方ねえ」
ほっぺをリスみたいに膨らませながらそんなことを言った彼女は、ぽふんと音を立てて煙を纏った。
数秒で晴れるとそこには――可愛らしい狐が座っていた。
「狐がお菓子食べて大丈夫なの?」
「気にするとこ他にない?」
もぐもぐしながらジト目を向けて来る七海、改め玉藻。
しかし、そんな彼女は他のたぬき娘によちよちと撫でられ、私と蒼馬の手も自然と伸びる。
「あの、この子は稲荷の神様ですか?」
「そうじゃ。前まで山の神社で悠々自適にニートしておったわ」
狐の幼女が答えると、玉藻は青筋を浮かべて。
「待って、聞くなら普通私でしょ。それにニートじゃないし!」
尻尾をピンと立てて怒っていることをアピールする彼女だが、美農が手慣れた様子で背中を撫でると何とも言えない顔をしてその場にお座りする。
可愛い生き物しかいないこの空間に変な笑みが零れそうになりながら、私は淹れてもらっていたお茶を口にする。
と、蒼馬がメモ用紙を用意しながら。
「それで、玉藻……様とこの屋敷の皆さんとの関係は?」
「良いよ、呼び捨てで。私は元々ここからちょっと離れたところにある山で神様をやってたの」
「そこでニートしてたの?」
「次それ言ったら箪笥の角に小指ぶつけさせるからね」
地味に痛そうな罰だ。
コホンと咳払いした玉藻はぽふっと音を立てて、七海の姿に戻ると。
「その頃は山に小さな村がいくつかあって、私はそこの村々の守り神として崇められてたの。でも、時が経つと段々人が少なくなっちゃって……」
寂しかったようで目を伏せ、彼女が初めて見せた表情なだけに私は少し動揺する。
「寂しくなって童の元に泣き付いて来たのじゃ」
「このロリっ子めっ!」
余計な口を挟んだ狐の幼女を膝に乗せ、くすぐり攻撃を仕掛ける玉藻は、その寂しさからは逃れることが出来たようで、私はなんだかホッとしてしまう。
脇腹を指で揉まれてにゃははと笑い転げていた幼女は、突如煙を出して小さな丸太と化し、気付けば私の隣に座っていた。
「変わり身の術じゃ」
「す、すごい……」
「負けてんぞ稲荷」
「うっさい!」
蒼馬が揶揄うと玉藻は丸太を引っ叩きながら唸る。
凹んだ丸太を膝から退かした彼女を横目に、私はまた少し大きくなった真白を蒼馬に預け、今度は幼女を膝に乗せる。
「妖狐さんの名前は何て言うんですか?」
「童の名は美農。この地に何千年と住む神なのじゃ」
カッコ良い事を言う幼女であるが、頭に生えた獣耳を撫でられると嬉しそうに尻尾をぷりぷりさせ、先っぽの柔らかい毛が顔に触れて心地良い。
「真白とどっちが強いですか?」
「知らぬが、童はそこのちびっ子とは違って戦闘は得意でない」
「ちびっ子と言うな。喰うぞ」
「追い出して良いか?」
ふしゃーと蛇らしく威嚇するミワを見て、美農は気怠げにそんな事を言う。
神様同士の仲が悪いというのは本当らしい。
「知りたい事たくさん出来ちゃったなー」
私の独り言を聞いた蒼馬が、笑いながら「良かったな」と背中をポンポンする。
ここにいる可愛いあやかし達のことをもっと知りたい……そんな欲求を胸に、私は美農とミワを膝に乗せ、二人を良い子良い子と撫で回した。
たぬき娘たちがあちらこちらで七海の持って来たお菓子の入った箱を開け始め、それはそれは美味しそうにもぐもぐと食べる。
餌付け狐と言われていた事に納得していると、電話して来ると言って席を外していた狐の幼女が戻って来た。
「連絡したら、荷物の出荷中にいなくなったそうじゃな。何をしたらそうなる、土地神」
呆れたように問いかけられた土地神は、私の膝の上でお座りをしたまま。
「……屋敷で毛布にくるまって昼寝をしていたら、タケノコと間違われて出荷されたらしい」
「可愛い」
思わず笑ってしまいながらそう呟いた私に、真白は何とも言えない顔で見上げてくる。
一先ず背中を撫でてヨシヨシしていると、トイレから戻って来た七海が私の隣に座り、たぬき娘たちと共にお菓子へ手をつける。
そんな彼女に屋敷へ入る前からぶつけたかった疑問を投げかける。
「七海の本名は玉藻なの?」
「……バレちゃあ仕方ねえ」
ほっぺをリスみたいに膨らませながらそんなことを言った彼女は、ぽふんと音を立てて煙を纏った。
数秒で晴れるとそこには――可愛らしい狐が座っていた。
「狐がお菓子食べて大丈夫なの?」
「気にするとこ他にない?」
もぐもぐしながらジト目を向けて来る七海、改め玉藻。
しかし、そんな彼女は他のたぬき娘によちよちと撫でられ、私と蒼馬の手も自然と伸びる。
「あの、この子は稲荷の神様ですか?」
「そうじゃ。前まで山の神社で悠々自適にニートしておったわ」
狐の幼女が答えると、玉藻は青筋を浮かべて。
「待って、聞くなら普通私でしょ。それにニートじゃないし!」
尻尾をピンと立てて怒っていることをアピールする彼女だが、美農が手慣れた様子で背中を撫でると何とも言えない顔をしてその場にお座りする。
可愛い生き物しかいないこの空間に変な笑みが零れそうになりながら、私は淹れてもらっていたお茶を口にする。
と、蒼馬がメモ用紙を用意しながら。
「それで、玉藻……様とこの屋敷の皆さんとの関係は?」
「良いよ、呼び捨てで。私は元々ここからちょっと離れたところにある山で神様をやってたの」
「そこでニートしてたの?」
「次それ言ったら箪笥の角に小指ぶつけさせるからね」
地味に痛そうな罰だ。
コホンと咳払いした玉藻はぽふっと音を立てて、七海の姿に戻ると。
「その頃は山に小さな村がいくつかあって、私はそこの村々の守り神として崇められてたの。でも、時が経つと段々人が少なくなっちゃって……」
寂しかったようで目を伏せ、彼女が初めて見せた表情なだけに私は少し動揺する。
「寂しくなって童の元に泣き付いて来たのじゃ」
「このロリっ子めっ!」
余計な口を挟んだ狐の幼女を膝に乗せ、くすぐり攻撃を仕掛ける玉藻は、その寂しさからは逃れることが出来たようで、私はなんだかホッとしてしまう。
脇腹を指で揉まれてにゃははと笑い転げていた幼女は、突如煙を出して小さな丸太と化し、気付けば私の隣に座っていた。
「変わり身の術じゃ」
「す、すごい……」
「負けてんぞ稲荷」
「うっさい!」
蒼馬が揶揄うと玉藻は丸太を引っ叩きながら唸る。
凹んだ丸太を膝から退かした彼女を横目に、私はまた少し大きくなった真白を蒼馬に預け、今度は幼女を膝に乗せる。
「妖狐さんの名前は何て言うんですか?」
「童の名は美農。この地に何千年と住む神なのじゃ」
カッコ良い事を言う幼女であるが、頭に生えた獣耳を撫でられると嬉しそうに尻尾をぷりぷりさせ、先っぽの柔らかい毛が顔に触れて心地良い。
「真白とどっちが強いですか?」
「知らぬが、童はそこのちびっ子とは違って戦闘は得意でない」
「ちびっ子と言うな。喰うぞ」
「追い出して良いか?」
ふしゃーと蛇らしく威嚇するミワを見て、美農は気怠げにそんな事を言う。
神様同士の仲が悪いというのは本当らしい。
「知りたい事たくさん出来ちゃったなー」
私の独り言を聞いた蒼馬が、笑いながら「良かったな」と背中をポンポンする。
ここにいる可愛いあやかし達のことをもっと知りたい……そんな欲求を胸に、私は美農とミワを膝に乗せ、二人を良い子良い子と撫で回した。
37
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる