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第6話・逃げ場
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魔法演習が終わると、生徒たちはペアごとに並び、教師から順に評価を受ける。アマンダは作り笑いを浮かべてグレースの隣で裾を整え、リアムは余裕そうに腕を組んだ。
「ロイペスト組、三位。ミューテッド嬢は魔力制御にやや課題あり。ナイヴァバーン嬢は術式の安定性が素晴らしい。努力を怠らぬように」
すでにグレースが成績優秀なことは周知の事実で、誰も驚きはしない。ただ、生徒たちの目線が一層冷たくなる。
「呪いの子とペアを組んだから、魔力が汚れたのかしら?」
「ちょっと、そんなこと言ったらかわいそうよね」
「呪いって、やっぱりうつるのかも」
くすくすと小さな笑いが列に波紋を広げる。
アマンダは小さく肩をすくめて、「先生、今度はひとりで演習したいです。グレース様の足を引っ張るのもいやですもの」と愛らしく言った。
リアムも「まあ、グレースは誰とでもできるしね。呪いの才能ってやつ?」と笑みを浮かべ、わざと目を合わせない。
その空気を肌で感じつつ、グレースは静かに頭を下げる。「……ご配慮、感謝します」
窓の外では春の日差しが校庭に伸びていたが、教室の片隅に立つグレースの影は、誰の輪にも混じらず、尚更静かだった。
グレースをあからさまに揶揄する者達は、大抵が平民か、リアム達の“取り巻き”だ。名のある貴族の子息達は、伯爵令嬢であるグレースを表立って揶揄したりはしない。
けれど、庇うこともまたしてくれない。
グレースは下品に見えない程度に速足にその場を去った。いくら慣れているとはいえ、傷つくものは傷つく。刃ばかりの環境に身を置くことは避けたかった。
スタスタと渡り廊下を歩いていると、前方が何やら騒がしいことに気がついた。
女生徒達の黄色い声。そこに混じる、芯を張った一つの男の声。
聞くや否や、グレースは方向転換しようと身体を翻した。しかし、その決断をするには遅すぎたらしい。
「やあ!グレース嬢!!」
やたらと白い歯、暑苦しい笑顔、筋肉のついた身体。
王族近衛隊の隊長息子で、口を開けば剣技と“正しい政治”のことしか口にしない。清廉潔白を絵に描いたような、熱血好青年。この学園の生徒会長様であり、グレースが最も関わりたくない人間の一人であった。
名をラドール・ハンヴェル。彼はことあるごとに、グレースに声をかけてきた。
「ごきげんよう、ハンヴェル様」
「ラドールで良いといつも言っているのに!どうだ、学園生活で困ったことはないか?」
精巧な顔立ちが崩れるのも構わずに、満面の笑みでそう尋ねてくる。そんなラドールに、周囲の令嬢達が色めき立った。
「まあ、ラドール様ったらお優しい!」
「さすがラドール様!」
「当たり前のことさ!グレース嬢はその身に余る膨大な呪いを宿していながら、挫けることなく、日々頑張っている……!なんて素晴らしいんだ!僕はいつも君の姿勢に感動している!学ぶ者は皆平等、その精神を、君は宿しているのだから……!!」
「はァ、ありがとうございます。光栄です」
「困ったことがあったら、生徒会長であるこの僕になんでも言いたまえ!!きっと君の力になろう」
「ありがとうございます。是非そうさせていただきます。それでは皆様、ご機嫌よう」
「ああ、相変わらず勤勉だな!ご機嫌よう」
げっそりと疲れ果てたグレースは、足早にその集団から離脱した。ああいう、表面上どこまでも爽やかなのに「無意識にこちらを見下す」発言をするような手合いは、どう対処して良いか分からなくて苦手だ。リアムやアマンダのわかりやすい悪意よりも余程タチが悪い。
早く、安全地帯である屋敷に帰りたかった。
「ロイペスト組、三位。ミューテッド嬢は魔力制御にやや課題あり。ナイヴァバーン嬢は術式の安定性が素晴らしい。努力を怠らぬように」
すでにグレースが成績優秀なことは周知の事実で、誰も驚きはしない。ただ、生徒たちの目線が一層冷たくなる。
「呪いの子とペアを組んだから、魔力が汚れたのかしら?」
「ちょっと、そんなこと言ったらかわいそうよね」
「呪いって、やっぱりうつるのかも」
くすくすと小さな笑いが列に波紋を広げる。
アマンダは小さく肩をすくめて、「先生、今度はひとりで演習したいです。グレース様の足を引っ張るのもいやですもの」と愛らしく言った。
リアムも「まあ、グレースは誰とでもできるしね。呪いの才能ってやつ?」と笑みを浮かべ、わざと目を合わせない。
その空気を肌で感じつつ、グレースは静かに頭を下げる。「……ご配慮、感謝します」
窓の外では春の日差しが校庭に伸びていたが、教室の片隅に立つグレースの影は、誰の輪にも混じらず、尚更静かだった。
グレースをあからさまに揶揄する者達は、大抵が平民か、リアム達の“取り巻き”だ。名のある貴族の子息達は、伯爵令嬢であるグレースを表立って揶揄したりはしない。
けれど、庇うこともまたしてくれない。
グレースは下品に見えない程度に速足にその場を去った。いくら慣れているとはいえ、傷つくものは傷つく。刃ばかりの環境に身を置くことは避けたかった。
スタスタと渡り廊下を歩いていると、前方が何やら騒がしいことに気がついた。
女生徒達の黄色い声。そこに混じる、芯を張った一つの男の声。
聞くや否や、グレースは方向転換しようと身体を翻した。しかし、その決断をするには遅すぎたらしい。
「やあ!グレース嬢!!」
やたらと白い歯、暑苦しい笑顔、筋肉のついた身体。
王族近衛隊の隊長息子で、口を開けば剣技と“正しい政治”のことしか口にしない。清廉潔白を絵に描いたような、熱血好青年。この学園の生徒会長様であり、グレースが最も関わりたくない人間の一人であった。
名をラドール・ハンヴェル。彼はことあるごとに、グレースに声をかけてきた。
「ごきげんよう、ハンヴェル様」
「ラドールで良いといつも言っているのに!どうだ、学園生活で困ったことはないか?」
精巧な顔立ちが崩れるのも構わずに、満面の笑みでそう尋ねてくる。そんなラドールに、周囲の令嬢達が色めき立った。
「まあ、ラドール様ったらお優しい!」
「さすがラドール様!」
「当たり前のことさ!グレース嬢はその身に余る膨大な呪いを宿していながら、挫けることなく、日々頑張っている……!なんて素晴らしいんだ!僕はいつも君の姿勢に感動している!学ぶ者は皆平等、その精神を、君は宿しているのだから……!!」
「はァ、ありがとうございます。光栄です」
「困ったことがあったら、生徒会長であるこの僕になんでも言いたまえ!!きっと君の力になろう」
「ありがとうございます。是非そうさせていただきます。それでは皆様、ご機嫌よう」
「ああ、相変わらず勤勉だな!ご機嫌よう」
げっそりと疲れ果てたグレースは、足早にその集団から離脱した。ああいう、表面上どこまでも爽やかなのに「無意識にこちらを見下す」発言をするような手合いは、どう対処して良いか分からなくて苦手だ。リアムやアマンダのわかりやすい悪意よりも余程タチが悪い。
早く、安全地帯である屋敷に帰りたかった。
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