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第一話・ルリア・ロビンソン

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硝子細工のように繊細で、夢の中の花の様に可憐な容姿のルリアは、その容姿に見合った柔和な微笑みと物腰で、誰からも好かれるお姫様みたいな女の子だった。ニコリと微笑むだけで教会のステンドグラスが透けて見える様な美貌は、公爵家の傲慢なお嬢様の心も、頑固頭な歴史教師の頬をも蕩させるのである。誰にでも平等に、けれど丁寧で柔らかな美少女は、その場にいるだけで温かい陽射しを背負う特別な子だった。

がしかし、砂糖菓子みたいに華奢な身体と、白い花に埋もれて育ってきた様な純真な笑顔は一定数の人間を酷く安心させ、それが舐められる要因に直接繋がった。
貶しても、少し困った顔をするだけで、言い返しもしてこない。
いつもヘラヘラ笑ってて、何の苦労もないのだと思うと気に食わない。
幸福の中で育ってきた様な人間に、私の何が分かるのか。

そう思う人間は彼女の周りに多少存在しており、そしてその筆頭が義弟のノーゼルと婚約者のルーカスであった。

ノーゼルは一年前、ルリアの家に引き取られてきた二つ年下の男の子で、駆け落ちした父の親戚の一人息子である。その血筋は確かなものだが、考えなしに駆け落ちした両親のせいで、貧しい環境で育てられてきたらしい。その生い立ち故か、ルリアのことを何も知らない贅沢女だと見下しており、話しかけるたびに睨まれるので、いつしかルリアは交流を諦めてしまった。

ルーカスは、その輝かしい美貌と高い地位の功績か、様々な女性からアプローチを受けてきた。しかし、そのアプローチの仕方に少々問題があったためか、彼は若干の女性不信になり、地位が高く、容姿が美しい…彼にアプローチをしてきた歴代の女性達と同じ条件を持つルリアのことも、「地位目当てのあさましい女」「表面上のものしか見ていない人間」として見てくる様な狭い視野の男だった。

どちらの言い分も納得は出来ずとも、理解はできるため、ルリアは彼等を責め立てたり、誰かに相談することもなかった。友人達は「表面上のものどころか自分の経験と偏見だけで人を見るような男、貴方には相応しくない」「あんな野蛮で卑屈なくせにプライドだけは高い男が貴方と同じ家名を背負ってるなんて耐えられない」「大丈夫。私に任せて?貴方が温かいベットで眠っている間に、ルーカスは地面の下で寝てるわ」などと散々言いながら慰めてくれたが、ルリアは丁寧に描かれた水彩画の様な美少女でありながら、意外とあっさりさっぱりきた性格であり、彼等のことはどちらかといえばどうでもいいと思っていた。
 
ノーゼルの貧乏話を聞いて哀れに思い、誰も手をつけていない、この国唯一の貧民街と呼ばれる寂れた街を復興させたりはしたが、住民の多さ故、最低水準の衣食住を与えれば高い忠誠心と大量の労働力を確保できる下心もあった故のことだ。水路を通し、教会のシスターを増やすだけで勝手に街は綺麗になり、ルリアは街の住民から酷く慕われる様になった。ゆくゆくは手付かずの貧民街を自領地にする予定なので、この成果にはルリアもルリアの両親も満面の笑みである。ちなみに周囲の人間はこれもルリアの善性故の行動だと思っている。顔が良いとは得だ。

まあそんな訳で、ルリアという少女は人類みんなを骨抜きにするような美少女でありながら、一番身近な男二人には恵まれなかった。
そして、それは考えうる限り最も頭の痛む様な謳い文句をつけて、彼女の前に突きつけられた。






「今日を以て、私はルリア・ロビンソンとの婚約を破棄し、マリア嬢を妻として迎え入れる!」



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