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プロローグ 異世界へ
異世界へ 2
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サリアは僕と距離を取り「それでは」と本を指差した。
「何かご希望の生物はありますか?」
これには昔から僕は、一つだけなりたいものがあった。
孤独に苛まれ、人と人との軋轢に嫌気が差したとき、ふと窓の外をテクテクと悠々自適に歩いていく生物がいた。その生物は窓の外で大きな欠伸をし、不思議そうに僕の顔を眺めながら後ろ足で耳の裏を掻いていた。
ちょっとした好奇心から僕は窓を開けて近寄ってみたが、見事に嫌われてしまった。
その後も何度か窓の外から円らな瞳で見つめてくるのを見かけたが、瞳が合うその度に一目散に逃げていった。
そして僕の最後には、間接的に引導を渡してきたアイツ。
―――僕は、猫になりたい……、です。
何か言ってたら恥ずかしくて、尻すぼみになってしまった。
サリアも何か、微笑ましそうに見てるし。
―――深い理由はないんですよ! ただなんか、あの自由な姿に憧れるというか、一人でいようとのほほんとしているのが羨ましいというか……。
今の僕はきっと真っ赤だろう。
だって男が猫になりたいって。
何か羞恥!
「分かりました。コウスケさんはナトゥビアでは猫に転生するということで、進めさせていただきますね」
―――は、はい。お願いします。
優しさが、心に刺さる!
お願い! 見ないで!
三十路過ぎたオッサンが、とか思わないで!
サリアと目が合わせられずに俯いていると、彼女は努めて気にせずに話し始めた。
「コウスケさんにはナトゥビアに転生する際に私の血を与えますが、その時神の力の一部を授かります」
それは初耳だ。
確かに勇者として活躍していたサリアたちは神々の血を与えられて、普通の人間では考えられないような力を扱っていた。
それは魔法であったり、怪力であったり、目にも止まらぬ早さであったりと、型破りなものだった。
―――僕にも、あんな力が?
思わず震えがくる。
子供の頃にテレビで見たヒーローのようだ。
ただ、その力を扱うのが猫って……。
「可愛いと思いますよ」
だから―――!!
穴があったら入りたい!
「にゃめんにゃよ! て言ってやればいいですよ」
ちょっと!?
何で知ってるの!?
て言うか、前回までのシリアスムード返して!!
自分の発言には責任を持てとは、正にこのことだ。
「冗談ですよ、コウスケさん。取り敢えず後は妹のディーテを交えてお話ししますね」
サリアは僕の手を取ると、一瞬周りがザラついた。
そして今までいた真っ白な空間から青白い光に包まれた空間へと移り変わっていた。
「君がそうなんだね」
サリアの横にはいつの間にか一人の少女が佇んでいた。
彼女に比べると些か活発そうで、同じ金髪、同じ白いローブを着ているのに中身が違うだけでこうも印象が違うのかと失礼な印象を覚えてしまう。
「ホントに失礼な」
―――すいません。
頭を掻いて僕は苦笑する。
きっとこの女性がサリアの言っていた妹神のディーテなのだろう。さすがに姉妹だけあって美しい。
「今さらだし、だけってなんだよ! だけって!」
サリアとさっきまで話していたせいか、何かこう、イメージと違う。普通に僕の気持ちを読み取ってる辺り神で間違いないのだろうけど、ホントにサリアと違う。
僕の言葉に(話してないけど)頬を膨らませてジト目で睨んでくる。
サリアはお姉さんらしく優しい微笑みが印象的だったけど、ディーテは少し子供っぽい。
また怒るだろうけど、そう感じてしまったんだから仕方ない。
「ディーテさん、そんな風にしないの」
「だって姉さん。こいつ初対面から失礼なんだもん!」
サリアが僕を庇ってくれているが、あまり効果はないようだ。
―――申し訳ございませんでした。
僕は姿勢を正して綺麗に頭を下げた。
「う、うぅ……」
「ディーテさん、コウスケさんもこうやって頭を下げてるんですから」
「分かったわよ」
あんまり納得してなさそうな顔で彼女は頷いた。
「ちょっと!」
無心になろう……。
「ごめんなさいね、コウスケさん」
困ったようにサリアは小首を傾げる。
―――お気になさらず。
僕は笑顔を向けるが、ディーテは頬を膨らませてムッとしている。それでもサリアを困らせるのが嫌なのだろう「もういいわよ」とそっぽを向いてしまった。
「もう、ディーテさんたら」
―――気にしてないですから。
これに関しては僕が悪い。反射的とはいえ、確かに失礼なことを思ってしまったのだから。
「分かってるんならいいわよ。もう」
表情が幾分か柔らかくなった。
―――ディーテ様。先程は失礼しました。僕は朝霞昂祐といいます。宜しくおねがいします。
「ええ。宜しく」
よかった。そんなに嫌われてるわけじゃなさそうだ。
「さぁ。話が逸れてしまいましたが、コウスケさん。あちらを見てください」
青白い空間にサリアが手を差し出すと、そこには一つの惑星が浮かび上がってきた。
それは直径50センチ位の精巧な地球儀のようでありながら、大陸の配置や緑の多さから明らかに地球とは異なるということがわかる。
「これからコウスケさんに赴いてもらうナトゥビアです。緑が美しい星でしょう」
優しい笑顔を浮かべてサリアはその星を眺めていた。
現在の地球のことを考えると、なんて返したらいいのか分からなくなる。
「いいんですよ、コウスケさん。それも一つの摂理なのですから」
「そうそう。悩むだけ損よ。大体コウスケはもう地球とは関係ないんだから」
元も子もないことを仰る。まあ、その通りなのだが。
僕が苦笑していると、サリアとディーテがその惑星を中心に両脇へと移動した。
「さあ、コウスケさん」
そう言って二人は僕に片手を差し出してきた。
もう二人とはお別れなんだな、と心のどこかで感じながら、僕は二人の手を握って惑星の前に立った。
「コウスケ。姉さんから聞いていると思うけど、あなたにはこれから、ナトゥビアへ行ってもらうわ」
「それにはまず、私たちの血を」
いつの間にか彼女たちの指先から血が滴っていた。
そして流れ出る血は握った手を伝って僕の左胸へとたどり着き、心臓の辺りを中心に渦を巻き始めた。
神の血だからだろうか。
一般的な表現の血生臭いという感覚は一切なかった。
やがて血の渦は小さく小さく収束していき、やがて僕の心臓に赤いパチンコ玉ほどの光だけが残っていた。
いつの間にか彼女たちの手から流れ出していた血は、跡形もなく消えていた。
「痛み等はありませんか?」
左胸を擦ってみるが、特に別状はない。
しいていえば、何だかポカポカするくらいだろうか。
「成功ですね」
「これで後は転生して、彼女を倒したら私の眷属になるってことでいいわね。姉さん」
マジですか!?
自分が死んだことよりも、異世界に転生することよりも驚いた。
「絶対こき使ってやる!」
ディーテがスッゴい睨んでくる。握ってる手が痛い。
うん、無心無心……。
―――そういえば、僕は向こうに行ってから何処に行けばいいんですか? それに、どんな力が使えるんですか?
「まず、何処に行けばいいのか言うとですね……。それは追ってお知らせします」
―――え!?
「成体になる前にいきなり戦いに行く気?」
ああ、成る程!
すっかり忘れてた。僕はまず最初に猫の成体まで成長しなきゃならないんだった。
「え!? コウスケ、猫になるの!?」
ディーテが悪い笑みを浮かべている。ホントに神なんだろうか?
「いいわよいいわよ。もう許してあげるわ。帰ってきたらたっぷりネコジャラシで遊んであげるから」
人の心が読めるってズルいよ! 理不尽だよ!
「フッフッフッ」
ディーテが勝ち誇ったようにニヤニヤしてる。
「ディーテさん」
「はーい」
サリアに窘められてディーテは首を竦めた。
「それで力のことですが、こればかりは向こうで成体になってからでなければ分からないのです」
「私たちの時も、成人してからだったもんね」
それじゃ仕方がない。
猫は一歳で人間の七、八歳と言われているから、二歳くらいで力が解放されるのだろうか?
それとも雌猫が妊娠できる年齢、十ヶ月過ぎで成体と認識されるのだろうか?
今考えても仕方がないことではある。
ただその間に、災禍の獣について考える時間ができた。
「やっぱり、気になりますか? 彼女のことが」
悪意の力に蝕まれてしまったとはいえ、どうにか元に戻す方法があるんじゃないだろうか?
どうしてもそればかり考えてしまう。
みんなのためにやったことなのに、倒されるだけだなんて悲しすぎる!
「……ナトゥビアへ行ったら、彼女のことに詳しい御方に 聞いて話してあげるわ。どんな人だったか。何を考えていたのか。そして、何を望んだのか」
―――ありがとう。ディーテ様。
彼女のことが知りたかった。その上で倒す以外にないのか考えたかった。
「これまで何度か災禍の獣を元に戻す実験はありましたが、どれも上手くはいきませんでした。そのことも、向こうへ行ったらお話ししますね」
―――ありがとう。サリア様。
「さあ、コウスケさん。そろそろ行きますよ」
「準備はいい?」
何もかも手探りだ。
それでも、自分にできることがあるんだ。
地球にいたときはただの陰キャラだった僕でも、彼女たちは必要としてくれた。
やれるとこまでやってみよう。
―――はい!
僕はゆっくり頷き、深呼吸をした。
「「―――」」
人間の僕には理解できない音階が二人の口から流れ出てくる。
それはとても美しくて、脳裏に田舎のお婆ちゃんの家が思い出された。
それと同時に稲穂の匂いが薫ってくる。
懐かしさと美しさの余り、僕は泣いてしまった。
「コウスケ、猫になっても元気でね」
「自分の身体を大切にしてくださいね」
少しずつ薄くなっていく僕に優しく微笑みながら二人は声をかけてきた。
―――はい。
言葉が詰まってしまう。永遠の別れでもないのに。
「あ、思い出した。寿命のことなんだけど」
「あ、そうでしたね」
え? 今それ?
「普通の猫だったら十五年くらいで寿命だけど、私たちの力を受け継いだコウスケは二百年くらい生きるから」
化け猫ですやん!!
「私は災禍の獣と同時に滅びてしまいましたが、ディーテさんは五百年生きましたしね」
ば、ば……。
「コウスケ?」
ディーテの目が笑ってない。
無心でいよう。
「ナトゥビアを頼みましたよ。コウスケ」
「ま、声だけなら定期的に届けてあげるから、寂しがるんじゃないよ」
―――ありがとう。サリア様。ディーテ様。
もう殆ど背景と同化してしまったコウスケの身体はますます薄くなり、最後に一欠けの粒子となってナトゥビアの星へと落ちていった。
「何かご希望の生物はありますか?」
これには昔から僕は、一つだけなりたいものがあった。
孤独に苛まれ、人と人との軋轢に嫌気が差したとき、ふと窓の外をテクテクと悠々自適に歩いていく生物がいた。その生物は窓の外で大きな欠伸をし、不思議そうに僕の顔を眺めながら後ろ足で耳の裏を掻いていた。
ちょっとした好奇心から僕は窓を開けて近寄ってみたが、見事に嫌われてしまった。
その後も何度か窓の外から円らな瞳で見つめてくるのを見かけたが、瞳が合うその度に一目散に逃げていった。
そして僕の最後には、間接的に引導を渡してきたアイツ。
―――僕は、猫になりたい……、です。
何か言ってたら恥ずかしくて、尻すぼみになってしまった。
サリアも何か、微笑ましそうに見てるし。
―――深い理由はないんですよ! ただなんか、あの自由な姿に憧れるというか、一人でいようとのほほんとしているのが羨ましいというか……。
今の僕はきっと真っ赤だろう。
だって男が猫になりたいって。
何か羞恥!
「分かりました。コウスケさんはナトゥビアでは猫に転生するということで、進めさせていただきますね」
―――は、はい。お願いします。
優しさが、心に刺さる!
お願い! 見ないで!
三十路過ぎたオッサンが、とか思わないで!
サリアと目が合わせられずに俯いていると、彼女は努めて気にせずに話し始めた。
「コウスケさんにはナトゥビアに転生する際に私の血を与えますが、その時神の力の一部を授かります」
それは初耳だ。
確かに勇者として活躍していたサリアたちは神々の血を与えられて、普通の人間では考えられないような力を扱っていた。
それは魔法であったり、怪力であったり、目にも止まらぬ早さであったりと、型破りなものだった。
―――僕にも、あんな力が?
思わず震えがくる。
子供の頃にテレビで見たヒーローのようだ。
ただ、その力を扱うのが猫って……。
「可愛いと思いますよ」
だから―――!!
穴があったら入りたい!
「にゃめんにゃよ! て言ってやればいいですよ」
ちょっと!?
何で知ってるの!?
て言うか、前回までのシリアスムード返して!!
自分の発言には責任を持てとは、正にこのことだ。
「冗談ですよ、コウスケさん。取り敢えず後は妹のディーテを交えてお話ししますね」
サリアは僕の手を取ると、一瞬周りがザラついた。
そして今までいた真っ白な空間から青白い光に包まれた空間へと移り変わっていた。
「君がそうなんだね」
サリアの横にはいつの間にか一人の少女が佇んでいた。
彼女に比べると些か活発そうで、同じ金髪、同じ白いローブを着ているのに中身が違うだけでこうも印象が違うのかと失礼な印象を覚えてしまう。
「ホントに失礼な」
―――すいません。
頭を掻いて僕は苦笑する。
きっとこの女性がサリアの言っていた妹神のディーテなのだろう。さすがに姉妹だけあって美しい。
「今さらだし、だけってなんだよ! だけって!」
サリアとさっきまで話していたせいか、何かこう、イメージと違う。普通に僕の気持ちを読み取ってる辺り神で間違いないのだろうけど、ホントにサリアと違う。
僕の言葉に(話してないけど)頬を膨らませてジト目で睨んでくる。
サリアはお姉さんらしく優しい微笑みが印象的だったけど、ディーテは少し子供っぽい。
また怒るだろうけど、そう感じてしまったんだから仕方ない。
「ディーテさん、そんな風にしないの」
「だって姉さん。こいつ初対面から失礼なんだもん!」
サリアが僕を庇ってくれているが、あまり効果はないようだ。
―――申し訳ございませんでした。
僕は姿勢を正して綺麗に頭を下げた。
「う、うぅ……」
「ディーテさん、コウスケさんもこうやって頭を下げてるんですから」
「分かったわよ」
あんまり納得してなさそうな顔で彼女は頷いた。
「ちょっと!」
無心になろう……。
「ごめんなさいね、コウスケさん」
困ったようにサリアは小首を傾げる。
―――お気になさらず。
僕は笑顔を向けるが、ディーテは頬を膨らませてムッとしている。それでもサリアを困らせるのが嫌なのだろう「もういいわよ」とそっぽを向いてしまった。
「もう、ディーテさんたら」
―――気にしてないですから。
これに関しては僕が悪い。反射的とはいえ、確かに失礼なことを思ってしまったのだから。
「分かってるんならいいわよ。もう」
表情が幾分か柔らかくなった。
―――ディーテ様。先程は失礼しました。僕は朝霞昂祐といいます。宜しくおねがいします。
「ええ。宜しく」
よかった。そんなに嫌われてるわけじゃなさそうだ。
「さぁ。話が逸れてしまいましたが、コウスケさん。あちらを見てください」
青白い空間にサリアが手を差し出すと、そこには一つの惑星が浮かび上がってきた。
それは直径50センチ位の精巧な地球儀のようでありながら、大陸の配置や緑の多さから明らかに地球とは異なるということがわかる。
「これからコウスケさんに赴いてもらうナトゥビアです。緑が美しい星でしょう」
優しい笑顔を浮かべてサリアはその星を眺めていた。
現在の地球のことを考えると、なんて返したらいいのか分からなくなる。
「いいんですよ、コウスケさん。それも一つの摂理なのですから」
「そうそう。悩むだけ損よ。大体コウスケはもう地球とは関係ないんだから」
元も子もないことを仰る。まあ、その通りなのだが。
僕が苦笑していると、サリアとディーテがその惑星を中心に両脇へと移動した。
「さあ、コウスケさん」
そう言って二人は僕に片手を差し出してきた。
もう二人とはお別れなんだな、と心のどこかで感じながら、僕は二人の手を握って惑星の前に立った。
「コウスケ。姉さんから聞いていると思うけど、あなたにはこれから、ナトゥビアへ行ってもらうわ」
「それにはまず、私たちの血を」
いつの間にか彼女たちの指先から血が滴っていた。
そして流れ出る血は握った手を伝って僕の左胸へとたどり着き、心臓の辺りを中心に渦を巻き始めた。
神の血だからだろうか。
一般的な表現の血生臭いという感覚は一切なかった。
やがて血の渦は小さく小さく収束していき、やがて僕の心臓に赤いパチンコ玉ほどの光だけが残っていた。
いつの間にか彼女たちの手から流れ出していた血は、跡形もなく消えていた。
「痛み等はありませんか?」
左胸を擦ってみるが、特に別状はない。
しいていえば、何だかポカポカするくらいだろうか。
「成功ですね」
「これで後は転生して、彼女を倒したら私の眷属になるってことでいいわね。姉さん」
マジですか!?
自分が死んだことよりも、異世界に転生することよりも驚いた。
「絶対こき使ってやる!」
ディーテがスッゴい睨んでくる。握ってる手が痛い。
うん、無心無心……。
―――そういえば、僕は向こうに行ってから何処に行けばいいんですか? それに、どんな力が使えるんですか?
「まず、何処に行けばいいのか言うとですね……。それは追ってお知らせします」
―――え!?
「成体になる前にいきなり戦いに行く気?」
ああ、成る程!
すっかり忘れてた。僕はまず最初に猫の成体まで成長しなきゃならないんだった。
「え!? コウスケ、猫になるの!?」
ディーテが悪い笑みを浮かべている。ホントに神なんだろうか?
「いいわよいいわよ。もう許してあげるわ。帰ってきたらたっぷりネコジャラシで遊んであげるから」
人の心が読めるってズルいよ! 理不尽だよ!
「フッフッフッ」
ディーテが勝ち誇ったようにニヤニヤしてる。
「ディーテさん」
「はーい」
サリアに窘められてディーテは首を竦めた。
「それで力のことですが、こればかりは向こうで成体になってからでなければ分からないのです」
「私たちの時も、成人してからだったもんね」
それじゃ仕方がない。
猫は一歳で人間の七、八歳と言われているから、二歳くらいで力が解放されるのだろうか?
それとも雌猫が妊娠できる年齢、十ヶ月過ぎで成体と認識されるのだろうか?
今考えても仕方がないことではある。
ただその間に、災禍の獣について考える時間ができた。
「やっぱり、気になりますか? 彼女のことが」
悪意の力に蝕まれてしまったとはいえ、どうにか元に戻す方法があるんじゃないだろうか?
どうしてもそればかり考えてしまう。
みんなのためにやったことなのに、倒されるだけだなんて悲しすぎる!
「……ナトゥビアへ行ったら、彼女のことに詳しい御方に 聞いて話してあげるわ。どんな人だったか。何を考えていたのか。そして、何を望んだのか」
―――ありがとう。ディーテ様。
彼女のことが知りたかった。その上で倒す以外にないのか考えたかった。
「これまで何度か災禍の獣を元に戻す実験はありましたが、どれも上手くはいきませんでした。そのことも、向こうへ行ったらお話ししますね」
―――ありがとう。サリア様。
「さあ、コウスケさん。そろそろ行きますよ」
「準備はいい?」
何もかも手探りだ。
それでも、自分にできることがあるんだ。
地球にいたときはただの陰キャラだった僕でも、彼女たちは必要としてくれた。
やれるとこまでやってみよう。
―――はい!
僕はゆっくり頷き、深呼吸をした。
「「―――」」
人間の僕には理解できない音階が二人の口から流れ出てくる。
それはとても美しくて、脳裏に田舎のお婆ちゃんの家が思い出された。
それと同時に稲穂の匂いが薫ってくる。
懐かしさと美しさの余り、僕は泣いてしまった。
「コウスケ、猫になっても元気でね」
「自分の身体を大切にしてくださいね」
少しずつ薄くなっていく僕に優しく微笑みながら二人は声をかけてきた。
―――はい。
言葉が詰まってしまう。永遠の別れでもないのに。
「あ、思い出した。寿命のことなんだけど」
「あ、そうでしたね」
え? 今それ?
「普通の猫だったら十五年くらいで寿命だけど、私たちの力を受け継いだコウスケは二百年くらい生きるから」
化け猫ですやん!!
「私は災禍の獣と同時に滅びてしまいましたが、ディーテさんは五百年生きましたしね」
ば、ば……。
「コウスケ?」
ディーテの目が笑ってない。
無心でいよう。
「ナトゥビアを頼みましたよ。コウスケ」
「ま、声だけなら定期的に届けてあげるから、寂しがるんじゃないよ」
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