アホと魔女と変態と (異世界ニャンだフルlife)

影虎

文字の大きさ
10 / 53
二章 古代からの侵入者

古代からの侵入者 1

しおりを挟む
 夜空に光る星々、金色の月光は大地に束の間の輝きを与え、時折落ちてくる流星は青白い尾を引きながら大気の中で燃え尽きて行く。
 そんな代わり映えのしない神秘的な夜に、パメラの視線の先にいた者は……。



『異常発生! 異常発生! 各搭乗員は衝撃に備え、シートレバーから手を離さないで下さい』
 激しく揺れる機体の中で機械的な女性の声が響き、白い全身スーツを着た三人の人物は、頭を屈めて必死にその状況に耐えていた。
「くぅぅぅっ!!」
 皆頭をスッポリ覆うヘルメットを被っているため、男か女か定かではないが、左前の席に座る呻き声をあげた人物は声のトーンから女性と分かる。
「か、神様ぁぁぁっ!!」
 何の前触れもなく激しい揺れから急激に機体が左へと流れていく。
『オートフライトシステム・オールクリア。当機のオペレーティングシステムには、異常は見られません』
「そんな訳があるかぁぁ! 何とかしろぉぉ!」
 先程声が聞こえた右横に座る人物から、しわがれた男性の叫び声があがる。
『ディフェンスシールド、通常展開モードから戦術展開モードへ移行します』
 その声と同時に目の前のフロントガラスにシャッターが被せられ、操縦席のモニターと機内に明かりが点った。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
 今度は機体が無理矢理上昇させられ、声を荒げていた右側の男性がシートの前にある操縦席に頭をぶつけ、その瞬間にヘルメットの防護カバーが音を立てて砕け散ってしまった。
 ガクリと力なくその男性は項垂れてしまった。
「曹長ぉぉ! お、起きて下さい! 曹長おおぉぉ!」
 左の女性が声を震わせて叫ぶ。よく聞けば、嗚咽も混じっている。
 その時後ろの真ん中に座っていた人物がその身にかかる重圧に負けじとシートベルトを外して立ち上がった。そして前の席の中央へと摺り足で歩いて行き、曹長の左頬へヘルメット越しにストレートをかました。
「起きんかダスマン曹長! ここは敵地であるぞ!!」
「はっ」
 気絶していた彼はその一撃で目を覚まし、ふりかかる重圧に構わず右手を自身の左胸に当てて上官に敬礼した。
「申し訳ありません、バルト中尉!」
 ダスマンが言いきるのと同時にまた機体が重力に逆らい、今度は右下へと急降下していった。
「くっ!」
「ば、バルト中尉!」
 急降下で浮き上がったバルトの左手を咄嗟に左の女性が掴み、強引に自身に引き付けた。
 その結果二人は抱き合う形でシートに身を預けることになったが、今はそれ所ではなかった。
「PP60! 状況を説明しろぉぉっ!」
『現在当機はコントロール不可能です。想定される現象は、魔法によるエネルギー干渉と考えられます』
「くっ! 災禍の獣の子孫共か!!」
 ヘルメットのせいで表情は見えないが、バルトから漏れた声は明らかに怒りが籠っていた。
「マジックキャンセラー、始動!」
「ちゅ、中尉! あれは、まだ試作段階です! あれを使ったら、我々はグレイス星団へ戻ることが!」
「構わん! 我々の任務を忘れたか! 祖国を襲った災禍の獣への恨みを、貴様は忘れたかのか!!」
「ぴ、PP60! マジックキャンセラー始動!」
「ま、待て! リディー軍曹!」
『マジックキャンセラー、始動します』
 操縦席に幾つもあるランプの内、青色の物が発光し始めた。
『マジックキャンセラー、正常に作動しました』
 機械的な声と共に機体の揺れが収まり、重力に逆らった動きもしなくなった。
 リディーはホッとため息をつき、ダスマンは背もたれに項垂れて天井を仰いだ。
「まだだ! エネルギー残量チェック! 直ぐに底をつくぞ!」
 そう言ってバルトは立ち上がり、元いた席へと戻って行った。
「え、エネルギー残量チェック……! 中尉! エネルギーの消費速度が!」
「想定内だ! 総員、対ショック体制!!」
「りょ、了解!」
 二人はバルトの指示に従いシート横のレバーを握り締め俯いた。
『エネルギー低下、エネルギー低下。当機は緊急着陸後、スリープモードへ移行します。各搭乗員はシートレバーから手を離さないでください』
 ガクンと機体は下方に傾き急降下し始めた。
「くぅぅぅ……」
 リディーの呻き声が聞こえる中、目の前の操縦席のモニターにやがて陸上が映り始めた。
 その陸上は島だったのかあっという間に通り過ぎ、自分たちが乗っている機体が摩擦熱で燃える光を反射した海面が迫ってきた。
「か、海面に! 激突します!!」
 ダスマンの声で二人とも、身体を強張らせた。
 その瞬間、耳をつんざくような爆音と、先程までとは比べ物にならない程の衝撃と揺れに晒された。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「くぅっ……!」

 やがて揺れが収まると、バルトは首を振って頭を片手で押さえ左手でシートベルトを外した。
『当機は無事、ナトゥビアへ着陸しました。エネルギー残量低下のため、オペレーティングシステムはスリープモードへ移行します』
「うぅ……。何が“無事”だ!」
 ダスマンが毒づきながらモニターを殴った。
「状況を確認しろ」
「……」
「リディー軍曹!」
 ダスマンに肩を揺さぶられ彼女は「はっ」と目を覚ました。
「状況確認!」
「りょ、了解です!」
 急いでリディーはシートベルトを外すと、座席下にあるレーザーガンも持たずに機体のハッチを開いた。
「ちゅ、中尉!」
 眼下に広がる海と機体の下から溢れ出すあぶくを見て、リディーは直ぐに地上学を思い出した。
「急がないと海に沈んでしまいます!」
「なに!?」
 二人は直ぐさま座席から立ち上がると、バルトはシート下からレーザーガンを持ち出し腰の着脱部に備え付け、ダスマンは操縦席のパネルを急いで操作し始めた。
「リディー軍曹! 武器を持てるだけ用意しろ!」
「りょ、了解しました!」
 バルトに敬礼したリディーは、機内の後ろ側にあるドアを開け黒い光沢のあるカバンを幾つか取り出した。
 その間にバルトは海上に即席のゴムボートを浮かべ、リディーが用意したカバンをそこへ放り投げていった。
 数えて十二個目のカバンを放り投げ振り返ると「これで最後です、中尉」とリディーがカバンを持って話しかけてきた。
「リディー軍曹、それを持って先に乗船しろ」
「りょ、了解しました!」
 リディーは勢いよく跳ねゴムボートに飛び乗ると、ボートの上に散乱したカバンを重心が偏らないように三ヶ所に集め始めた。
「ダスマン曹長。まだか……」
「今、終わります」
 手早くキーを操作するダスマンを横目に、バルトはリディーの座っていたシート下からレーザーガンを持ち出し、ハッチから身を乗り出した。
「リディー軍曹! 忘れ物だ!」
 その声に振り返った彼女の前に、レーザーガンが降ってきた。
 慌てて彼女は受け取ると「も、申し訳ありません!」と敬礼した。
「バルト中尉! 虹彩認証を!」
「うむ」
 バルトはその声を受けて振り返り、首もとのロックを解除しヘルメットを脱いだ。
 短く切り揃えられた黄土色の頭髪には若干の汗が浮かび、左頬に大きな三本の古傷がある顔がそこにはあった。
 意思の強そうな真っ直ぐな瞳をダスマンが操作していたパネル横に近づけると、そこから赤い光線が発射されバルトの網膜に反射した。
「終わりました、中尉」
 先程まで地上の様子が映し出されていたモニターには今はその映像は一切映らず、代わりに古代語で『解析終了』の文字が浮かんでいた。
 ダスマンはパネル横に空いている細長い溝の上に手をかざすと、三秒程で透明な四角形のパネルが吐き出された。彼はそのパネルを掴み取り「どうぞ中尉」とバルトに手渡した。
 バルトは手渡されたパネルを手の中で転がすと、片手に収まる程の大きさのソレは真ん中が微かに赤く発光していた。
「よし。離脱するぞ、ダスマン曹長」
「了解!」
 ダスマンは座席の下からレーザーガンを取り出し腰に据えると、手招きするバルトの手を取ってゴムボートへ飛び降りた。
 ダスマンが降りた後機内をぐるりと見回したバルトは右手を左胸に当て、誰も居ない機内に向かって敬礼した。
「中尉!」
 その声で振り返ったバルトは左手に持ったヘルメットを機内に投げ捨て、ゴムボートに飛び降りた。
「出せ。リディー軍曹」
「はい!」
 勢いよく発進したゴムボートは意外な程に小さいエンジン音を響かせながら海の中を突き進んでいく。
 後方ではブクブクと音を立てて青白い光を放つ三角形の機体が沈んでいく。
 その光景をリディーは敢えて見ないように前方に目を向け、ヘルメットを外したダスマンは苦い表情を浮かべてその光景を望んでいた。
「これから、どうするんですか中尉殿?」
 奥歯に物の挟まったような声音でダスマンはバルトに声をかけた。
「一度止まってくれ、リディー軍曹」
 指示通りにリディーはスピードを落とし、やがてゴムボートは慣性よりも摩擦の方が高くなり波に揺られるだけとなった。
「曹長、明かりを」
 手に持っていたパネルを胸ポケットに備え付けられていた端末に装着すると、ブーンと小さな電子音を上げて画面が仄かに光を発した。
 バルトが端末を操作している間にリディーもヘルメットを外し、波風に素肌を晒した。
 暗がりの中で青いカールのかかった髪が風に揺れた。
「リディー軍曹。方角を」
「は、はい!」
 初めて目にする海を眺めてぼんやりしていたリディーは、慌ててゴムボートに備え付けられていたコンパスを取り出した。
「我々は現在、インラドゥー大陸の北西、約七十キロメートル離れた沖合いにいる」
 バルトは端末から目を離し、二人の顔を見た。
「そこで二人にはこれからの作戦について、意見が聞きたい」
 彼の言葉に二人は顔を見合せ、ゆっくりと頷いた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

貞操逆転世界に転生してイチャイチャする話

やまいし
ファンタジー
貞操逆転世界に転生した男が自分の欲望のままに生きる話。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

処理中です...