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二章 古代からの侵入者
古代からの侵入者 1
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夜空に光る星々、金色の月光は大地に束の間の輝きを与え、時折落ちてくる流星は青白い尾を引きながら大気の中で燃え尽きて行く。
そんな代わり映えのしない神秘的な夜に、パメラの視線の先にいた者は……。
『異常発生! 異常発生! 各搭乗員は衝撃に備え、シートレバーから手を離さないで下さい』
激しく揺れる機体の中で機械的な女性の声が響き、白い全身スーツを着た三人の人物は、頭を屈めて必死にその状況に耐えていた。
「くぅぅぅっ!!」
皆頭をスッポリ覆うヘルメットを被っているため、男か女か定かではないが、左前の席に座る呻き声をあげた人物は声のトーンから女性と分かる。
「か、神様ぁぁぁっ!!」
何の前触れもなく激しい揺れから急激に機体が左へと流れていく。
『オートフライトシステム・オールクリア。当機のオペレーティングシステムには、異常は見られません』
「そんな訳があるかぁぁ! 何とかしろぉぉ!」
先程声が聞こえた右横に座る人物から、しわがれた男性の叫び声があがる。
『ディフェンスシールド、通常展開モードから戦術展開モードへ移行します』
その声と同時に目の前のフロントガラスにシャッターが被せられ、操縦席のモニターと機内に明かりが点った。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
今度は機体が無理矢理上昇させられ、声を荒げていた右側の男性がシートの前にある操縦席に頭をぶつけ、その瞬間にヘルメットの防護カバーが音を立てて砕け散ってしまった。
ガクリと力なくその男性は項垂れてしまった。
「曹長ぉぉ! お、起きて下さい! 曹長おおぉぉ!」
左の女性が声を震わせて叫ぶ。よく聞けば、嗚咽も混じっている。
その時後ろの真ん中に座っていた人物がその身にかかる重圧に負けじとシートベルトを外して立ち上がった。そして前の席の中央へと摺り足で歩いて行き、曹長の左頬へヘルメット越しにストレートをかました。
「起きんかダスマン曹長! ここは敵地であるぞ!!」
「はっ」
気絶していた彼はその一撃で目を覚まし、ふりかかる重圧に構わず右手を自身の左胸に当てて上官に敬礼した。
「申し訳ありません、バルト中尉!」
ダスマンが言いきるのと同時にまた機体が重力に逆らい、今度は右下へと急降下していった。
「くっ!」
「ば、バルト中尉!」
急降下で浮き上がったバルトの左手を咄嗟に左の女性が掴み、強引に自身に引き付けた。
その結果二人は抱き合う形でシートに身を預けることになったが、今はそれ所ではなかった。
「PP60! 状況を説明しろぉぉっ!」
『現在当機はコントロール不可能です。想定される現象は、魔法によるエネルギー干渉と考えられます』
「くっ! 災禍の獣の子孫共か!!」
ヘルメットのせいで表情は見えないが、バルトから漏れた声は明らかに怒りが籠っていた。
「マジックキャンセラー、始動!」
「ちゅ、中尉! あれは、まだ試作段階です! あれを使ったら、我々はグレイス星団へ戻ることが!」
「構わん! 我々の任務を忘れたか! 祖国を襲った災禍の獣への恨みを、貴様は忘れたかのか!!」
「ぴ、PP60! マジックキャンセラー始動!」
「ま、待て! リディー軍曹!」
『マジックキャンセラー、始動します』
操縦席に幾つもあるランプの内、青色の物が発光し始めた。
『マジックキャンセラー、正常に作動しました』
機械的な声と共に機体の揺れが収まり、重力に逆らった動きもしなくなった。
リディーはホッとため息をつき、ダスマンは背もたれに項垂れて天井を仰いだ。
「まだだ! エネルギー残量チェック! 直ぐに底をつくぞ!」
そう言ってバルトは立ち上がり、元いた席へと戻って行った。
「え、エネルギー残量チェック……! 中尉! エネルギーの消費速度が!」
「想定内だ! 総員、対ショック体制!!」
「りょ、了解!」
二人はバルトの指示に従いシート横のレバーを握り締め俯いた。
『エネルギー低下、エネルギー低下。当機は緊急着陸後、スリープモードへ移行します。各搭乗員はシートレバーから手を離さないでください』
ガクンと機体は下方に傾き急降下し始めた。
「くぅぅぅ……」
リディーの呻き声が聞こえる中、目の前の操縦席のモニターにやがて陸上が映り始めた。
その陸上は島だったのかあっという間に通り過ぎ、自分たちが乗っている機体が摩擦熱で燃える光を反射した海面が迫ってきた。
「か、海面に! 激突します!!」
ダスマンの声で二人とも、身体を強張らせた。
その瞬間、耳をつんざくような爆音と、先程までとは比べ物にならない程の衝撃と揺れに晒された。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「くぅっ……!」
やがて揺れが収まると、バルトは首を振って頭を片手で押さえ左手でシートベルトを外した。
『当機は無事、ナトゥビアへ着陸しました。エネルギー残量低下のため、オペレーティングシステムはスリープモードへ移行します』
「うぅ……。何が“無事”だ!」
ダスマンが毒づきながらモニターを殴った。
「状況を確認しろ」
「……」
「リディー軍曹!」
ダスマンに肩を揺さぶられ彼女は「はっ」と目を覚ました。
「状況確認!」
「りょ、了解です!」
急いでリディーはシートベルトを外すと、座席下にあるレーザーガンも持たずに機体のハッチを開いた。
「ちゅ、中尉!」
眼下に広がる海と機体の下から溢れ出すあぶくを見て、リディーは直ぐに地上学を思い出した。
「急がないと海に沈んでしまいます!」
「なに!?」
二人は直ぐさま座席から立ち上がると、バルトはシート下からレーザーガンを持ち出し腰の着脱部に備え付け、ダスマンは操縦席のパネルを急いで操作し始めた。
「リディー軍曹! 武器を持てるだけ用意しろ!」
「りょ、了解しました!」
バルトに敬礼したリディーは、機内の後ろ側にあるドアを開け黒い光沢のあるカバンを幾つか取り出した。
その間にバルトは海上に即席のゴムボートを浮かべ、リディーが用意したカバンをそこへ放り投げていった。
数えて十二個目のカバンを放り投げ振り返ると「これで最後です、中尉」とリディーがカバンを持って話しかけてきた。
「リディー軍曹、それを持って先に乗船しろ」
「りょ、了解しました!」
リディーは勢いよく跳ねゴムボートに飛び乗ると、ボートの上に散乱したカバンを重心が偏らないように三ヶ所に集め始めた。
「ダスマン曹長。まだか……」
「今、終わります」
手早くキーを操作するダスマンを横目に、バルトはリディーの座っていたシート下からレーザーガンを持ち出し、ハッチから身を乗り出した。
「リディー軍曹! 忘れ物だ!」
その声に振り返った彼女の前に、レーザーガンが降ってきた。
慌てて彼女は受け取ると「も、申し訳ありません!」と敬礼した。
「バルト中尉! 虹彩認証を!」
「うむ」
バルトはその声を受けて振り返り、首もとのロックを解除しヘルメットを脱いだ。
短く切り揃えられた黄土色の頭髪には若干の汗が浮かび、左頬に大きな三本の古傷がある顔がそこにはあった。
意思の強そうな真っ直ぐな瞳をダスマンが操作していたパネル横に近づけると、そこから赤い光線が発射されバルトの網膜に反射した。
「終わりました、中尉」
先程まで地上の様子が映し出されていたモニターには今はその映像は一切映らず、代わりに古代語で『解析終了』の文字が浮かんでいた。
ダスマンはパネル横に空いている細長い溝の上に手をかざすと、三秒程で透明な四角形のパネルが吐き出された。彼はそのパネルを掴み取り「どうぞ中尉」とバルトに手渡した。
バルトは手渡されたパネルを手の中で転がすと、片手に収まる程の大きさのソレは真ん中が微かに赤く発光していた。
「よし。離脱するぞ、ダスマン曹長」
「了解!」
ダスマンは座席の下からレーザーガンを取り出し腰に据えると、手招きするバルトの手を取ってゴムボートへ飛び降りた。
ダスマンが降りた後機内をぐるりと見回したバルトは右手を左胸に当て、誰も居ない機内に向かって敬礼した。
「中尉!」
その声で振り返ったバルトは左手に持ったヘルメットを機内に投げ捨て、ゴムボートに飛び降りた。
「出せ。リディー軍曹」
「はい!」
勢いよく発進したゴムボートは意外な程に小さいエンジン音を響かせながら海の中を突き進んでいく。
後方ではブクブクと音を立てて青白い光を放つ三角形の機体が沈んでいく。
その光景をリディーは敢えて見ないように前方に目を向け、ヘルメットを外したダスマンは苦い表情を浮かべてその光景を望んでいた。
「これから、どうするんですか中尉殿?」
奥歯に物の挟まったような声音でダスマンはバルトに声をかけた。
「一度止まってくれ、リディー軍曹」
指示通りにリディーはスピードを落とし、やがてゴムボートは慣性よりも摩擦の方が高くなり波に揺られるだけとなった。
「曹長、明かりを」
手に持っていたパネルを胸ポケットに備え付けられていた端末に装着すると、ブーンと小さな電子音を上げて画面が仄かに光を発した。
バルトが端末を操作している間にリディーもヘルメットを外し、波風に素肌を晒した。
暗がりの中で青いカールのかかった髪が風に揺れた。
「リディー軍曹。方角を」
「は、はい!」
初めて目にする海を眺めてぼんやりしていたリディーは、慌ててゴムボートに備え付けられていたコンパスを取り出した。
「我々は現在、インラドゥー大陸の北西、約七十キロメートル離れた沖合いにいる」
バルトは端末から目を離し、二人の顔を見た。
「そこで二人にはこれからの作戦について、意見が聞きたい」
彼の言葉に二人は顔を見合せ、ゆっくりと頷いた。
そんな代わり映えのしない神秘的な夜に、パメラの視線の先にいた者は……。
『異常発生! 異常発生! 各搭乗員は衝撃に備え、シートレバーから手を離さないで下さい』
激しく揺れる機体の中で機械的な女性の声が響き、白い全身スーツを着た三人の人物は、頭を屈めて必死にその状況に耐えていた。
「くぅぅぅっ!!」
皆頭をスッポリ覆うヘルメットを被っているため、男か女か定かではないが、左前の席に座る呻き声をあげた人物は声のトーンから女性と分かる。
「か、神様ぁぁぁっ!!」
何の前触れもなく激しい揺れから急激に機体が左へと流れていく。
『オートフライトシステム・オールクリア。当機のオペレーティングシステムには、異常は見られません』
「そんな訳があるかぁぁ! 何とかしろぉぉ!」
先程声が聞こえた右横に座る人物から、しわがれた男性の叫び声があがる。
『ディフェンスシールド、通常展開モードから戦術展開モードへ移行します』
その声と同時に目の前のフロントガラスにシャッターが被せられ、操縦席のモニターと機内に明かりが点った。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
今度は機体が無理矢理上昇させられ、声を荒げていた右側の男性がシートの前にある操縦席に頭をぶつけ、その瞬間にヘルメットの防護カバーが音を立てて砕け散ってしまった。
ガクリと力なくその男性は項垂れてしまった。
「曹長ぉぉ! お、起きて下さい! 曹長おおぉぉ!」
左の女性が声を震わせて叫ぶ。よく聞けば、嗚咽も混じっている。
その時後ろの真ん中に座っていた人物がその身にかかる重圧に負けじとシートベルトを外して立ち上がった。そして前の席の中央へと摺り足で歩いて行き、曹長の左頬へヘルメット越しにストレートをかました。
「起きんかダスマン曹長! ここは敵地であるぞ!!」
「はっ」
気絶していた彼はその一撃で目を覚まし、ふりかかる重圧に構わず右手を自身の左胸に当てて上官に敬礼した。
「申し訳ありません、バルト中尉!」
ダスマンが言いきるのと同時にまた機体が重力に逆らい、今度は右下へと急降下していった。
「くっ!」
「ば、バルト中尉!」
急降下で浮き上がったバルトの左手を咄嗟に左の女性が掴み、強引に自身に引き付けた。
その結果二人は抱き合う形でシートに身を預けることになったが、今はそれ所ではなかった。
「PP60! 状況を説明しろぉぉっ!」
『現在当機はコントロール不可能です。想定される現象は、魔法によるエネルギー干渉と考えられます』
「くっ! 災禍の獣の子孫共か!!」
ヘルメットのせいで表情は見えないが、バルトから漏れた声は明らかに怒りが籠っていた。
「マジックキャンセラー、始動!」
「ちゅ、中尉! あれは、まだ試作段階です! あれを使ったら、我々はグレイス星団へ戻ることが!」
「構わん! 我々の任務を忘れたか! 祖国を襲った災禍の獣への恨みを、貴様は忘れたかのか!!」
「ぴ、PP60! マジックキャンセラー始動!」
「ま、待て! リディー軍曹!」
『マジックキャンセラー、始動します』
操縦席に幾つもあるランプの内、青色の物が発光し始めた。
『マジックキャンセラー、正常に作動しました』
機械的な声と共に機体の揺れが収まり、重力に逆らった動きもしなくなった。
リディーはホッとため息をつき、ダスマンは背もたれに項垂れて天井を仰いだ。
「まだだ! エネルギー残量チェック! 直ぐに底をつくぞ!」
そう言ってバルトは立ち上がり、元いた席へと戻って行った。
「え、エネルギー残量チェック……! 中尉! エネルギーの消費速度が!」
「想定内だ! 総員、対ショック体制!!」
「りょ、了解!」
二人はバルトの指示に従いシート横のレバーを握り締め俯いた。
『エネルギー低下、エネルギー低下。当機は緊急着陸後、スリープモードへ移行します。各搭乗員はシートレバーから手を離さないでください』
ガクンと機体は下方に傾き急降下し始めた。
「くぅぅぅ……」
リディーの呻き声が聞こえる中、目の前の操縦席のモニターにやがて陸上が映り始めた。
その陸上は島だったのかあっという間に通り過ぎ、自分たちが乗っている機体が摩擦熱で燃える光を反射した海面が迫ってきた。
「か、海面に! 激突します!!」
ダスマンの声で二人とも、身体を強張らせた。
その瞬間、耳をつんざくような爆音と、先程までとは比べ物にならない程の衝撃と揺れに晒された。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
「くぅっ……!」
やがて揺れが収まると、バルトは首を振って頭を片手で押さえ左手でシートベルトを外した。
『当機は無事、ナトゥビアへ着陸しました。エネルギー残量低下のため、オペレーティングシステムはスリープモードへ移行します』
「うぅ……。何が“無事”だ!」
ダスマンが毒づきながらモニターを殴った。
「状況を確認しろ」
「……」
「リディー軍曹!」
ダスマンに肩を揺さぶられ彼女は「はっ」と目を覚ました。
「状況確認!」
「りょ、了解です!」
急いでリディーはシートベルトを外すと、座席下にあるレーザーガンも持たずに機体のハッチを開いた。
「ちゅ、中尉!」
眼下に広がる海と機体の下から溢れ出すあぶくを見て、リディーは直ぐに地上学を思い出した。
「急がないと海に沈んでしまいます!」
「なに!?」
二人は直ぐさま座席から立ち上がると、バルトはシート下からレーザーガンを持ち出し腰の着脱部に備え付け、ダスマンは操縦席のパネルを急いで操作し始めた。
「リディー軍曹! 武器を持てるだけ用意しろ!」
「りょ、了解しました!」
バルトに敬礼したリディーは、機内の後ろ側にあるドアを開け黒い光沢のあるカバンを幾つか取り出した。
その間にバルトは海上に即席のゴムボートを浮かべ、リディーが用意したカバンをそこへ放り投げていった。
数えて十二個目のカバンを放り投げ振り返ると「これで最後です、中尉」とリディーがカバンを持って話しかけてきた。
「リディー軍曹、それを持って先に乗船しろ」
「りょ、了解しました!」
リディーは勢いよく跳ねゴムボートに飛び乗ると、ボートの上に散乱したカバンを重心が偏らないように三ヶ所に集め始めた。
「ダスマン曹長。まだか……」
「今、終わります」
手早くキーを操作するダスマンを横目に、バルトはリディーの座っていたシート下からレーザーガンを持ち出し、ハッチから身を乗り出した。
「リディー軍曹! 忘れ物だ!」
その声に振り返った彼女の前に、レーザーガンが降ってきた。
慌てて彼女は受け取ると「も、申し訳ありません!」と敬礼した。
「バルト中尉! 虹彩認証を!」
「うむ」
バルトはその声を受けて振り返り、首もとのロックを解除しヘルメットを脱いだ。
短く切り揃えられた黄土色の頭髪には若干の汗が浮かび、左頬に大きな三本の古傷がある顔がそこにはあった。
意思の強そうな真っ直ぐな瞳をダスマンが操作していたパネル横に近づけると、そこから赤い光線が発射されバルトの網膜に反射した。
「終わりました、中尉」
先程まで地上の様子が映し出されていたモニターには今はその映像は一切映らず、代わりに古代語で『解析終了』の文字が浮かんでいた。
ダスマンはパネル横に空いている細長い溝の上に手をかざすと、三秒程で透明な四角形のパネルが吐き出された。彼はそのパネルを掴み取り「どうぞ中尉」とバルトに手渡した。
バルトは手渡されたパネルを手の中で転がすと、片手に収まる程の大きさのソレは真ん中が微かに赤く発光していた。
「よし。離脱するぞ、ダスマン曹長」
「了解!」
ダスマンは座席の下からレーザーガンを取り出し腰に据えると、手招きするバルトの手を取ってゴムボートへ飛び降りた。
ダスマンが降りた後機内をぐるりと見回したバルトは右手を左胸に当て、誰も居ない機内に向かって敬礼した。
「中尉!」
その声で振り返ったバルトは左手に持ったヘルメットを機内に投げ捨て、ゴムボートに飛び降りた。
「出せ。リディー軍曹」
「はい!」
勢いよく発進したゴムボートは意外な程に小さいエンジン音を響かせながら海の中を突き進んでいく。
後方ではブクブクと音を立てて青白い光を放つ三角形の機体が沈んでいく。
その光景をリディーは敢えて見ないように前方に目を向け、ヘルメットを外したダスマンは苦い表情を浮かべてその光景を望んでいた。
「これから、どうするんですか中尉殿?」
奥歯に物の挟まったような声音でダスマンはバルトに声をかけた。
「一度止まってくれ、リディー軍曹」
指示通りにリディーはスピードを落とし、やがてゴムボートは慣性よりも摩擦の方が高くなり波に揺られるだけとなった。
「曹長、明かりを」
手に持っていたパネルを胸ポケットに備え付けられていた端末に装着すると、ブーンと小さな電子音を上げて画面が仄かに光を発した。
バルトが端末を操作している間にリディーもヘルメットを外し、波風に素肌を晒した。
暗がりの中で青いカールのかかった髪が風に揺れた。
「リディー軍曹。方角を」
「は、はい!」
初めて目にする海を眺めてぼんやりしていたリディーは、慌ててゴムボートに備え付けられていたコンパスを取り出した。
「我々は現在、インラドゥー大陸の北西、約七十キロメートル離れた沖合いにいる」
バルトは端末から目を離し、二人の顔を見た。
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