アホと魔女と変態と (異世界ニャンだフルlife)

影虎

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二章 古代からの侵入者

古代からの侵入者 3

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 バルトにとって今のコントーラ大陸の道中は、懐かしくもあり新鮮でもあった。
 ただその新鮮さが今のナトゥビア全域に巣食う、カラミティーチャイルドが原因であることが忌々しくもあった。
「我々の星を、よくもっ……」
 街道を行き交う自分と見た目だけは同じ人間に見えるカラミティーチャイルドを横目に、バルトは唇の端を噛み小さく呟いた。
 彼の胸中にはダスマンたちと別れたときから溢れんばかりの怒りが燻っていた。

 半年ほど前、バルトは千二百年にも及ぶコールドスリープから目覚めた。
 そこはナトゥビアの衛星軌道上にある月“サイムーン”に作られた人口都市“トーラドーラ”の中にある、人口冬眠施設であった。
 千二百年前、災禍の獣に攻め滅ぼされ、現在では地図上には存在しない大陸があった。その大陸の名はイクリプス。現在のナトゥビアに住まう者たちが魔法文明を主軸に生活しているのに対し、イクリプスの民たちやその当時に生きていた者たちは、科学文明を支えに生きていた。
 そんな中で突如として地上に現れた災禍の獣は、当時の人々にとって正に脅威であった。
 科学文明が誇った数々の兵器では歯が立たず、例え手傷を負わせることができたとしても、その時には謎とされていた“理外の力”魔法によって直ぐさま回復され、人々は次第に戦意を失っていった。
 そしてイクリプス大陸が災禍の獣によって滅ぼされていく中、そこに住まう者たちは最後の手段を取る。
 それは他の大陸の人々を見捨て宇宙に逃げ出すことであった。
 イクリプス大陸最後の日、避難誘導を終えたバルトは自分たちが生を全うしていた大陸が焦土と化していくさまを、星の外へと飛び出していくシャトルの中で見ていたのである。

 沢山の仲間が死んでいった。
 シェルターに避難していた両親が殺された。
 自分の子供を身籠ったばかりの妻が、前線から程近い医療施設で看護師としての生を全うした。

 バルトは決して眼下に望んだあの光景を、死んでいった者たちに対する怨嗟とも呼べる哀しみを、生涯忘れないだろう。

 その想いは彼の任地となるコントーラ大陸中央都市エンタニアへと赴く道中の、一時の慰めであった。



 それから二日後……。
 街道を通ったため何事もなくエンタニアへと到着したバルトは、城門で偽造した通行証を門番にかざし、難なく街の中へと入ることができた。
 街の中へと入った彼はグルり周囲を見回し、額から流れる汗を手で拭い、大通りを行き交うカラミティーチャイルドを見ながら歯痒さを胸に目的の場所へと歩いて行く。
 途中気のよさそうなカラミティーチャイルドのオヤジが商魂逞しく話しかけてきたが、バルトはその一切を無視し大通りを抜けた辺りで裏路地へと入った。
 石造りの建物が日陰となり、程よい湿気でヒンヤリとした空気が彼の日に焼けた肌を優しく凪いだ。
 周りに人影がないのを確認したバルトは、その場に背負ったズタ袋を下ろしベストのポケットから端末を取り出しスイッチを入れた。
『オペレーティングシステム起動。エネルギー残りょ……』
 音を消し忘れていたため機械的な音声が鳴り響き、慌てて彼は端末横のミュートのボタンを押し、路地に無造作に置かれている木製の箱の影に隠れ辺りに目を向けながら端末をポケットに隠した。
「全く……。俺としたことが」
 荒くなった呼気を整えながら辺りに人影が無いことを確認した彼は、背にしていた箱の縁に片手をつきゆっくりと立ち上がった。
「手を上げろ」
「っ!」
 バルトは背中から聞こえたその声に、心臓にナイフを突き立てられたような想いで聴覚に全神経を集中させた。
 先程自分の目に見える範囲には誰もいなかったはずであり、コールドスリープから目覚めて半年ほどとは言え、災禍の獣と直に戦った経験を持つ自分の背中を捉えるとは只者ではないと、バルトの頭の中では警鐘が鳴り響いていた。
 バルトは言われた通りに緩慢な動作ではあるが両腕を上げて、横目にチラリと背後を覗き見る。その瞬間、背中の影が動きだし後頭部に何かを突き付けられ上にかざした左手を組伏せられそうになった。
「なめるなぁ!」
 バルトは首を素早く右下へ身体ごと移動させ、捕まれている左手に重点を置き後方宙返りの捻りの力で捕まれた手を振りほどいた。それと同時に後ろにいるであろう相手の銃口を視界の端に捉えた瞬間、宙で逆さまの体勢から右足を振り抜き銃を蹴り落とした。
 金属質な音を響かせながら床を銃が転がり、着地したバルトがサッと振り替えると、その影は右手を庇うように左手を前にかざし「待った待った待った!」と叫んできた。
 バルトはいつでも上着の下に忍ばせたガンベルトからレーザーガンを抜けるように右半身を手前に乗り出し、相手の姿を見極めるように目を細めた。
「バルト、俺だよ」
 階級を付けないのは敵地であるからいいとして、それでも気安い態度で話しかけてくるその相手の顔を見て、バルトは首を捻った。
 長い期間コールドスリープされていた後遺症として、バルトには時折り記憶が定まらないことがしばしば起こる。その度に脳天からハンマーで殴られたような酷い頭痛がしたが、今回もバルトは額に手を当てて壁に左手をついた。
「記憶障害か? バルト中尉……」
 気遣わしげな声でその男はバルトの肩に手を置いた。

 バルトが頬に傷を負ったあの日。
『大丈夫か! バルト中尉!』
 気遣わしげな声、深いほりの刻まれた表情、白髪混じりの黒い頭髪……。

 遠い昔の戦地での記憶が、バルトの脳内を駆け巡った。
「ば、バース大尉。大丈夫です」
 肩で息をしながらバルトは一つ大きく息を吸い込むと、ゆっくりと息を吐き出しバースの方へと目を向けた。
「白髪が増えましたね」
「うるせぇ。オメェみたいな部下を持つ、俺の気持ちにもなれってんだ」
 バースは愚痴りながらバルトの肩を叩き、互いに笑いあった。
「まぁ、こんな所じゃなんだ……。俺たちの隠れ家に案内しよう」
「はい。お願いします」
 バルトは自分で蹴落とした銃を拾いながら頭を下げる。
「それと、言う必要はないかもしれないが、一応ここは敵地だ。階級で呼ぶなよ」
「分かってますよ」
 バルトから銃を手渡されながら「さっきのは無しだがな」とバースは口の端を歪めた。
「はいはい。大尉殿」
「オメェはなぁ」
 バルトはクツクツと笑い、バースは頭を掻いて苦笑した。
「まぁいい。付いてこい」
「了解です」
 踵を返すバースの後ろを、バルトは路地に置きっぱなしにしていたズタ袋を拾いあげ暫くの間無言で付いて行った。
 ここが敵地でなければ互いに旧交を温めるような会話もあっただろうが、バルトとしては酷い頭痛が治まったとは言えバースとの過去を思い出そうとする度に、頭に直接釘を刺されたかのような痛みが走って会話どころではなかったため、ある意味今の状況は助かっていた。
 額に汗を浮かべて苦痛で目頭に皺を寄せると時折り気遣わしげな視線が向けられるが、彼が話しかけてくることはなかった。
 バルトの記憶は大して甦ってこないが、バースの向ける視線の優しさが記憶がなくても心に馴染み心地よかった。

 そうして二人は裏路地を右へ左へと曲がり歩いて行くと、表通りから聞こえていた喧騒がパッタリと止み建物に日差しが隠されているその雰囲気も相まって、昼から夜の世界に迷い込んだかのようであった。
「こっちだ」
 辺りを見回すバルトに彼は手招きすると、三階の部分が崩れて蔦の葉が壁を覆い尽くした建物の中へと入って行った。
 バルトはその背中を追いかけ建物の中に入ると、バースは暗がりの中でも手慣れた様子で奥へと進んでいき、突き当たりの扉の中へと入った。
「入れ」
 バルトは頷き先に部屋の中に入ると、センサーがあるのか自動で光が点った。
 後から入ったバースは扉を背にし横目で誰も付けてくる者はいないか確認しながら、ゆっくりと扉を閉めた。
「そこの机の引き出しが、承認センサーになってる」
 バースはそう言いながら部屋の左側にあった長机に近付くと、引き出しを開けてバルトを手招きした。
「このぐらいの記憶はあるよな」
「くくっ。ありますよ」
 苦笑しながらバルトは背負ったズタ袋を下ろしポケットから端末を取り出すと、端末の中に入れてあるクリスタルを取り出し、引き出しの中に内蔵された機械に板状のクリスタルを挿入した。それから左側にある突起のような部分に自分の左手首を当てると、ピリッと電流が全身を走った。
『マギニ七番隊、バルト・グレフェン中尉。登録完了しました』
 バルトは左手首を離し挿入口から吐き出されたクリスタルを取り出すと自分の端末にそれを差し込み、またポケットに端末を入れた。
「これで晴れてスパイの仲間入りだ」
 バースはニカッと笑うとバルトの肩を叩いた。
「少しは加減してくださいよ」
 苦笑しながらバルトは彼に目を向けると、ズボンのポケットに入れてある偽造した通行証を取り出した。
「で、俺は今日から何の職業に就くんですか?」
「ん? そうだなぁ……」
 バースはその通行証を受け取り顎に手を当てると、それを先程バルトが使っていた端末に挿入した。
「まぁ取り敢えず“薬売り見習い”てことで、俺の紹介でこの街に来たってことにしておく」
 引き出しの中のパネルを操作し、バースは偽造し直した通行証を機械から取り出しバルトに手渡した。
「バルト。これは任務なんだからな」
「分かってますよ……」
「いくらカラミティーチャイルドが相手だからって……」
「分かってます!」
 思わず大声を出してしまったバルトは、バツが悪そうに顔をしかめた。
「皆想いは同じさ。カラミティーチャイルドの相手なんざ、誰もしたくはねぇさ。でもな……」
「分かってますよ。俺たちがこれをやらなきゃ上層部の連中は、ナトゥビアの自然を無視してコロニーを落とす腹積もりなんでしょ」
「あぁ……」
 二人には千二百年前のナトゥビアに対する愛着があった。
 その想いはカラミティーチャイルドが地上に蔓延ってしまった今でも変わらず、自分たちの手で地上を解放できると思えば寧ろ強まっていく程だ。
 だから二人は、正確に言うならばナトゥビア上陸作戦を押し通した現在の指令部と、この作戦に従事している者たちの殆どは、カラミティーチャイルドを一掃するためには手段を選んで戦うべきだと判断していた。
 自分たちを育んできた母星を傷付け人が住めなくなるようにしてまでカラミティーチャイルドからナトゥビアを解放するという、気違いじみた気概を持ち合わせている者など殆どいないのだ。
 だからこの作戦は何としてでも成功させなければいけない。
 上層部が強硬派に乗っ取られる前に。

 二人は遥か天空にあるであろう現在の祖国に想いを馳せ、決意を新たにするのであった。
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