アホと魔女と変態と (異世界ニャンだフルlife)

影虎

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二章 古代からの侵入者

古代からの侵入者 7

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 リディーはしつこい神父の追跡から何とか逃れ、やっとの思いでレトラバの町に辿り着いた。

 はずだった。
「遅かったですね。お嬢さん」
 門番に羽交い締めにされた全裸の神父が顔だけを上に向けて彼女に笑いかけた。
「あなた、この不審者の知り合いですか!?」
「いいえ違います」
「ちょっ! えぇぇ!?」
 リディーがその横をさっさと通り過ぎようとすると、フェデリコはわたわたと身じろぎ、何とか片腕だけ脱して彼女の足にしがみついた。
「お、お嬢さん! それはあんまりじゃないですか!! あんなに一緒だったじゃないですか!!」
 この変態神父と出会ってからの三日間が、一瞬の内にしてリディーの脳内で流れていった。

 追いかけられた初日は木の上で野宿するハメになった。この神父、訳分かんないことに異常に勘がよくて、木ノ上にいることまでは突き止められなかったが、まさかその木の下で野宿しだすとは思わなかった。
 お陰で夜の内に逃げ出すこともできず、結局この神父が目覚めて川に沐浴しに行くまで待つことになった。
 「ハイダァァホゥレェ」と裏返った声を聞きながら神父が沐浴している隙に街道を走り抜けてダカルヤ草原に出ると、木の柵で囲われた小さな村が見えたのでリディーはそこで泊めてもらい、一日遅れてもいいからあの神父をやり過ごす作戦に出た。
 この時のリディーの誤算は神父の勘のよさを舐めてかかっていたことだった。
 彼女はナルン村に一つしかない宿の三つしかない部屋の一つに昼から泊まったのだが。
 その日の夕方、一階の酒場兼宿屋のカウンターから「きゃぁぁぁ!」と女の悲鳴と共に床を駆けて行く音が聞こえてきた。
 この騒ぎに軽いデジャブを感じ、リディーは鍵の備え付けられていない扉に閂代わりに椅子を立て掛け、粗末な藁のベットに入りランプの火を吹き消して布団を被った。勿論、枕元にレーザーガンを置くのは忘れていない。
 それから暫くするとドタドタと床を踏み鳴らす音と怒声が階下から聞こえ、リディーはその怒声の中にあの情けない裏返った声が混じっているのを理解したが「聞こえない聞こえない……」と両耳を押さえ呪文のように唱えながらその夜を過ごした。
 次の日の朝。
 いつの間にか銃を握りしめたまま眠っていたリディーは、前日も聞こえてきた「ハイダァァホゥレェ」という声にビクッと飛び起きると、銃口を眼前に向けながら辺りをキョロキョロと見回した。そしてその声が村の外から聞こえてきていたことに安心した彼女は、今度は時間をずらして遅くこの村を出ようと決め、枕元に銃を置きもう一度布団を被って二度寝した。

 そして昼近くに遅い朝食を取り、ゆっくりとレトラバの町へと歩き、到着する時にはあの神父と出会うことはないと思っていたのだが……。
「助けてくださいよぉぉぉぉ! 私とあなたの仲じゃないですかぁぁぁぁぁ!」
 この馬鹿神父、泣きながら鼻水を垂らしその鼻水を人のスカートで拭っている。
「……」
 ギリギリと右の拳に力が入っていくのが止められない。
「そ、そうだ! あ、あ、あ、あの不思議な魔法でこいつらに、私が聖なる神父フェデリコ・ビアンコであると、力尽くで分からせてやってくださいよ!」
 “不思議な魔法”という言葉にリディーは目を見開き、神父の顔をこれでもかと殺気を込めて睨み付けた。
「こいつの話しを信じる訳じゃないが……。お嬢さん。本当にこの不審者の仲間じゃないんですか? ちょっとこっちでお話しを伺っても」
 門前にいたもう一人の門番が彼女の肩に手を置いて詰め所に連れて行こうとした。
「ま、待って下さい! 本当に私は、この馬鹿神父とは、全くの他人なんです!」
「何故、神父だと?」
 ハッとした表情でリディーは口を押さえた。
「どうやらこいつの言うことの方が本当のようだな。ちょっとこっちまで」
「ちょっと! 痛い!」
 足にすがり付く神父を引き摺る形で、リディーは門番の手によって詰め所に連れられて行く。
 こんなはずじゃなかったのに……。
何でこんな馬鹿のために……。
彼女は自分の足にすがり付くフェデリコの頭をゲシゲシと蹴りつけ「離せ! この変態!」と叫んでいた。



詰め所に連れてこられた彼女は背負っていた荷物を取られたが、女ということで拘束はされずに「この町の責任者が来るまで待っていろ」と言われて小窓の付いた三畳程の石造りの部屋に入れられていた。
女だと侮られたお陰でベストに隠していたレーザーガンを取られなかったことに、リディーは一先ず安心した。
このカラミティーチャイルドたちの世界が自分たちの世界より文明が遅れていることは知っていたが、女だからと拘束もせず、あまつさえ身体検査もしないとは蛮族は馬鹿だな、とリディーはほくそ笑んでいた。
ただその蛮族の町にきて速攻で捕まった自分は一体何なんだ、と思うと情けなくて涙が出そうになる。
「あの、馬鹿神父ぅぅぅ……」
 フツフツと沸き上がる怒りを右手に込めて、リディーは頭を抱えた。
「おぉ、神よ! 私をお救い下さい! 私はあなたの忠実なる僕! あなたの愛を伝える伝道師です! あなた様のお力で……」
「うっさい! 馬鹿神父!!」
 隣の牢屋から聞こえる裏返った叫びに彼女は牢屋の壁を蹴りつけることで威嚇した。
「ひっ!」
 隣の牢屋からガタガタと音がして何かが倒れると「よかった!」と声が聞こえた。
「お嬢さんも無事だったのですね! しかも隣合わせるとはなん……」
「何がよかったって言うのよ!!」
 リディーはもう一度力任せに壁を蹴ると、石の壁にすっぽりと穴が空き「はぐわでぃゃぁぁ!」と変な叫びがあがった。
「ふん! これで少しは静かになったでしょ!」
 リディーは頬を膨らませて腕を組み、椅子も何もない剥き出しの石造りの床に胡座をかいて座り込んだ。
「お、お、お、お、おじょ、お嬢さん!」
「まだ生きてたの!」
 彼女は神父の声の聞こえてくる自分の空けた穴に背を向けて座り直す。
「あ、あ、あ、あの、不思議な魔法で、助けてください! お願いじまず! わだじには、わだじにはやらなければいけないこどがあるんでずぅぅぅぅ!」
 壁に直接顔を張り付けて話していたのか言葉が聞き取り辛かったが、またこの神父は“不思議な魔法”と言葉にした。
「不思議な魔法って、これのこと?」
 門番たちと一悶着あった時は確認できなかったが、最初出会った時から言っている“不思議な魔法”とはこれのことだったはず、と思いリディーはベストの裏からレーザーガンを取り出す。
「ほが? ぶぁいぶぁい! ぞれでずぁっいたぁっ!」
 ドタッと落ちる音がして、横目で見ていた穴から神父が消えた。
「ふーん……」
 リディーは鉄格子の隙間から外へ通じる扉を見た。
 まだ誰も来そうにもないし、あれだけ神父が騒いでも誰も来ない。ということは、ここで神父を殺しても、バレる可能性は……。
 しかしとリディーは頭を降る。
 今ここで殺せば必ず自分に嫌疑がかかる。死体を消すなんてことは、カラミティーチャイルドであるこいつらならできるだろうが、魔法が使えない自分には無理だ。なら……。
「お嬢さん! 私には神の声が聞こえるんです! こんなところで立ち止まっている訳にはいかないんです!! ですから!」
「はいはい。なら、これあげるから、自分で使って」
 ポイと後ろに銃を放ると床に落ちた銃は金属の擦れる音を立てながら丁度穴の前まで転がっていった。
「あ、あ、あの。スミマセン」
「あー、使い方ね。持ち手を持って、人差し指が当たるところをクイッと引けば勝手にあの魔法が出るから、好きにして」
「い、い、いえ、そういうことではなくて、ですね……」
「じゃぁ何よ!」
 イラッときたリディーは声を荒げて訊ねた。
「わ、わ、わ、私、今、後ろ手で拘束されてまして……。まともに身動きが」
 壁の向こうからジタバタともがく音が聞こえてくる。
「そんなこと知らないわよ! 自分で何とかして!」
 リディーはその場で横になると、左の腕を枕に目を瞑った。
「よっ……、はぁ……、くぅっ……、もぅ、ちょ」
 しきりに神父はもがいていたが、五分も経った頃に「ひょわぁぁぁぁぁ!」と情けない雄叫びを上げて静かになった。
 やっとこれで静かに眠れると思いリディーは佇まいを直すと「たしゅけてくだしゃい」と情けなさに拍車がかかる声が聞こえてきた。
「おねがいしぃましゅ。たしゅけてくだしゃい。いっしょうのおねがいでしゅ……」
「もう、なによ……」
 しょうがなくリディーは壁の穴に近寄り転がした銃を回収しながら「で?」と声をかけた。
「はしゃまっちゃいました……」
「はぁ!?」
 あの馬鹿神父は全裸だ。
 何がとは聞けなかった。
 
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