アホと魔女と変態と (異世界ニャンだフルlife)

影虎

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四章 遺跡探索

遺跡探索 11

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「目がぁぁぁ!! 目がぁぁぁ!!」
 人がゴミのようにでも見えたのかね?
 両目を手で押さえて床をゴロゴロ転がる神父の上に飛び乗り、僕はシュナの方に目を向けた。
 彼女の身体の周りには紫の電流がバチバチと流れ、その電流がアトラスデルタより少し小さいくらいの鳥の形を作り出していた。
「ちょっ!? 押さないで!」
「よく見えないのよ!」
「私にも見せてください!」
「ぐえっ! わ、私のことは……」
 僕の後ろでその光景をよく見ようと三人の女性たちが神父を足蹴に前に出てくる。
「「「凄い……」」」
 ギュイィィィィン……!
 バチバチバチバチ……!
 アトラスデルタの突き出したドリルが紫色の雷鳥に阻まれ火花を散らす様子に、彼女たちは息を飲み込んだ。
 何度も何度もアトラスデルタはドリルを振りかぶり、シュナへと殴りかかるが全て雷鳥に阻まれてしまう。
「くははははは! 我の紫雷は、そんな柔な攻撃じゃびくともせぬぞ!!」
 腰に手を当てシュナが高笑いすると、ドリルではどうにもならないと悟ったのかアトラスデルタは背中の三本の腕で雷鳥に殴りかかった。
 バチバチバチバチ……!
 拳が当たる度に紫の火花と金属の破片が辺りにバラ撒かれ、僕たちはそそくさと壁際に身を隠す。
「さて、そろそろ終いにしようかのぉ……!」
 シュナが片手を上げキラリと目を光らせる。
「行けええぇぇぇ! アブソリュート・インパクトォォォ!!」
 勢いよく振り落とした手と共に雷鳥が勢いよく飛んでいく。
 アトラスデルタは即座に全ての腕を使い体の前でバッテンの形を作って防御するが、そんなものなどなかったかのようにシュナの雷鳥はアトラスデルタの上半身を吹き飛ばした。
 バランスを失った下半身が後ろ向きに倒れ、それでも勢いの止まらない雷鳥はシュナが腕を上に向けると同時に天井を突き抜け空へと向かって行った。
 その瞬間、天井に開いた穴に向かって白煙が抜けていき、僕たちはほんの暫くの間突風に晒されていた。

「「「「……」」」」
 風が止み周りの状況を確認できるようになった僕たちは、余りにも呆気ない幕切れに呆けてしまう。
 あのデッカイロボットを一撃で倒すとか……。
 姐さん、あんたスゲェよ!
 辺りに撒き散らされた残骸の上を歩き、僕たちはシュナの元へと近付いた。
「シュナ! あんな魔法使えるなんて凄いよ!」
「本当ですよ、シュナさん!」
「さすがは先生です!」
「あれが究極魔法なんですね!」
 僕たちが興奮しきって口々にシュナに賛辞を送ると、彼女は胸を張り口の端を吊り上げた。
「ははは! これくらいの魔法なら、我の元で五十年は修行すれば、直ぐに覚えさせるぞ!」
 その言葉にナスカたちは揃って背筋を震わせた。
 彼女に連れられて無理矢理修行させられたあの日々を思い出したのだ。
「どったの、先生?」
 僕は彼女たちに目を向けて首を傾げると、彼女たちは同時に首を横に振り「何でもない!」と声を揃えた。
「ん? まぁよい。探索を再開するとしようかのぉ」
「「「は、はい」」」
「うん」
 僕たちはシュナの言葉に頷くと、アトラスデルタが壊した扉へと歩みを進める。
 部屋に入らなくても強烈な熱気が身体の全面に叩き付けられてきたが、扉を抜けて部屋の中に入った途端にそれどころではないモワッとした熱風が僕たちの身体を包み込んできた。
「熱っ!」
 余りの熱さに女性陣の額には玉のような汗が浮かび、神父は身体中から汗をダラダラと流していた。
「熱いのぉ……」
 腕で額の汗を拭いながらシュナが呟くの聞きつつ、僕はその部屋の中を見回してみる。
 天井はドーム状になっいるのか弧を描いており、僕たちの真向かいには三十メートルほど隔ててもう一つ扉があった。そしてこの部屋の丁度真ん中辺りの床からゆらゆらと白煙が上がってきており、その周りは鉄製のフェンスで覆われているようだった。
 そんな風に僕が周囲の状況を確認していると「何をしておるんじゃ?」とシュナが後ろを向いて言葉を発した。
「ん?」
 僕も彼女に倣って後ろを見ると、壊れた扉の影に隠れたナスカたちが、こちらに首だけを覗かせてこっちを見ていた。
「だ、だって……」
「熱過ぎるんですよ……」
 げんなりした表情で彼女たちは弱々しい声をあげる。
「なんじゃ! だらしのない!」
 それを見たシュナが腕を組み彼女たちを睨み付ける。
 その拍子に何かを察した神父が脱兎の如き勢いで扉の向こうの彼女たちの更に後ろへと逃げ出して行った。
「だってシュナさん……」
「うるさいわ!! 我はお主らを、そんな軟弱に育てた覚えはないぞ!」
 ヤバっ……。
 熱い所で更に熱くなっていく彼女を見て、僕はそぉっと踵を返す。
「まったく! お主らがそんなつもりじゃったらな、ニート!」
 遅かった……!
「は、はいぃ!」
 シュナがギロリと僕に目を向けるので、思わず声が上ずってしまった。
「再現魔法で直してやった、奴らの服を元に戻してやれ! そうすれば、少しは涼しくなるじゃろぉ!」
 鼻息荒く笑みを浮かべるシュナに彼女たちは「ま、待って!」と声をかける。
「さっさとやらんか!」
「は、はい!」
「ちょっ!? ニートちゃん」
 ナスカたちの纏っていた服が、僕の魔法を解除したことによってボロボロの状態へと戻ってしまう。
「「「きゃああぁぁぁぁぁぁ……!!」」」
 彼女たちは際どくなった胸を押さえてその場に座り込み、僕を睨んでくる。
「ニートちゃん! 早く戻して!」
「エロ猫! 早く戻しなさい!!」
「に、ニートさん! ハレンチなことはダメですわ!」
 僕だって、やりたくてやったんじゃないや……!
 なんてことは言えず、僕は彼女たちから顔を背けシュナに目を向けた。
「よーしよし、ニートはいい子じゃのぉ」
 シュナは膝を曲げて僕の頭を撫でてくるが、僕は気が気じゃない。
「まったくいい子じゃない! 早く戻しなさいよ! エロ猫!」
「うるさいやつじゃのぉ!」
 喚きたてる彼女たちにシュナは一喝し僕を抱き上げた。
「ニートよ、あ奴らにお主の再現魔法を使って、更にあられもない姿に変えてやるのじゃ!」
「……」
「聞いておるのか!? ニートよ!」
 今の僕はそれどころじゃなかった。
 人間だった頃の数倍も鋭くなった僕の聴力には今、何かが羽ばたいて来るのが聞こえている。
 僕はシュナの腕から飛び降りると、その音の聞こえる方へと耳を傾けた。
「どうしたのじゃ?」
 さすがのシュナも僕の異変に気が付いて近寄って来た。
「聞こえない? 何かが羽ばたいて来てるのが……」
「ん……?」
 僕の言葉に散々喚いていた三人も揃って静まり返り、シュナと一緒に耳をそばだてた。
「何も、聞こえないわよ……」
 ナスカたちが首を傾げ互いの顔を見回すと「静かに!」とシュナが真剣な表情で彼女たちを窘めた。
「どぉぉぉこぉぉぉだぁぁぁぁ……!」
「「「「「……!」」」」」
 羽ばたく音はまだ彼女たちは聞こえていないようだが、さすがに今の怒声は聞こえたらしい。
 彼女たちは先ほどまでの騒ぎなど忘れ、各々の武器に手をかけて魔力を練り周りに目を向けた。
 バッサ……! バッサ……!
 力強い羽ばたきの音が少しずつ近付いてくると共に、彼女たちの耳にも遂にこの音が聞こえたらしく緊張が走った。
「この魔力反応って……!?」
「恐らく、竜じゃな……」
「「「竜!?」」」
 シュナの言葉に僕たちは驚きの声をあげる。
 だって竜だよ!!
 ファンタジー世界あるあるモンスターの代表格だよ!!
 めっちゃヤバいじゃん!!
 僕たちは緊張を隠せずゴクリと唾を飲み込む。
「どおおぉぉぉぉこおおぉぉぉぉだあああぁぁぁぁぁ! 女性を泣かせる奴はぁぁぁぁぁ……!」
「「「「「……?」」」」」
 あれ? 何か、言ってることおかしくない?
「どぉぉこぉぉにぃいるんだぁぁぁ!! 女性を泣かせるぅ! 不届き者めぇぇぇぇぇ!!」
 段々近付いてくるその声と羽音に、僕たちは揃って嫌な汗をかいていた。
 もしかしたら、なんか違う意味でヤバいかも……。
 そしてとうとうその羽音は直ぐ近くで聞こえるようになると、シュナの空けた穴から全身真っ黒な四つ足の竜が顔を覗かせ、ヒューンと風を切って僕たちのいる部屋へと入り込んで来た。
「見ぃぃぃつけたぁぁぁぁぁぞおおぉぉぉぉぉ!! 女性を泣かせる不届き者めえええぇぇぇぇ!!」
 空中でホバリングしながら叫び声をあげる竜を見て、何故か女性陣が僕を置いてさっさと逃げ出した。
「ちょっ!? 待ってよ! 置いてかないで!」
「嫌よ!」
「その竜、何か面倒臭そうなんですもの!」
「お願い! ニートちゃん!」
 壊れた扉の影から顔を覗かせていた神父を押しやり、今度は彼女たちが僕のことを影から覗く立場となっていた。
「ちょ、ちょっと!!」
「おい! 聞いておるのか!? 小さき獣よ!」
 小さき獣って、僕のことだよね?
 僕はガックリと首を落として振り返り「なんだよ」とその竜に向かって声をあげる。
「貴様であろう! 女性たちを泣かしたのは!」
 もうこいつ、本当に面倒臭い……。
「はぁぁぁぁぁ……」
 僕は大きくため息をつき、壊れた扉の影に逃げ込んだ女性たちに恨みの籠った目を向けた。

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