アホと魔女と変態と (異世界ニャンだフルlife)

影虎

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四章 遺跡探索

遺跡探索 12

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「聞いているのか!! 小さき獣よ!! 答えろ!!」
 今にも唾が飛んできそうな怒声でその竜は一人(?)喚き立てている。
「うっさいなぁ! 半分は確かに僕のせいだけど、話せば長いんだよ!!」
 僕はウンザリしながら竜に叫び返すと、その竜は「やはりな!!」と僕を睨み付けた。
「貴様のような小さき獣は、男の風上にもおけんな!! 恥を知れ!!」
 その言葉と同時に竜は口から火の玉を吐き出してきた。
「うわっ!?」
 僕は咄嗟に結界を張り、その火の玉を防ぐ。
 結界に当たった瞬間その火の玉は爆発し、結界のない向こう側の床が三メートルほど黒く焦げ痕がついていた。
「ちっ! 今ので楽に死んでいればいいものを、小賢しいことをするな!! 小さき獣よ!」
 竜は大きなアギトを開き「死ねええぇぇ!!」と叫びながら今の火の玉を連発してくる。
 ブチッ!
 結界でその火の玉を遮る中、何かが僕の中で弾け飛ぶのが聞こえた。
 この野郎……。
 さっきから好き放題、やりたい放題やりやがって……。
 僕は結界で火の玉を受け続けながら魔力を練り上げていく。
 二つの魔法を同時に発動するのはまだやったことはないし、身体を流れる魔力の感じだと絶対に後でキツいことになるだろうけど今はそんなの関係ない。
 先ほどアトラスデルタに使おうと思っていた魔法を、ここで使う。さっきはただアトラスデルタを止めればよかったから、大きなブーメランのようなカッターを創造しようとしたが、今回は違う。今度のカッターはギザギザのノコギリのような刃のついた車輪だ。一番近いのはチャクラム。アレを僕の魔力で操り、さっきからうるさいアノ竜をギッタギタにするんだ!
「再現魔法! “怒りのチャクラム”!!」
 想像通りノコギリ状の刃の付いたチャクラムが四つ、僕の魔力で空中に出現した。大きさは一つが五十センチほどと小さいが、僕の魔力でそのチャクラムは今も回転し続け風を切り続けている。
「行けぇ!! あん畜生を、切り刻め!!」
 僕は掛け声と同時にチャクラムを竜に向けて解き放った。
 ギュオオォォォン! と空を裂く音を立てて、チャクラムは勢いよく竜へと迫って行く。
「フン! そんな貧弱な魔法で、我輩の身体に傷を付けることなぞできはしまい!」
 そう言いながら竜は僕のチャクラムに向かって火の玉を吐き出した。
 ぶつかった瞬間に爆発を起こし、黒煙の中にチャクラムが消えてしまった。
「くははは! しょせん小さき獣の魔法などその程度なのだ!! 大人しく女性を泣かせた罪で、我輩のブレスで焼かれ、て……!?」
 そう言いながら後ろを振り向いた時にはもう遅かった。
 パスッ! ザッ! ザクザクッ!
 四つのチャクラムが竜の頭にあったトサカ、左の羽の皮、右の羽の爪、右後ろ足の付け根を斬り付けていった。
「な、な、何故だ!? 我輩の身体を斬れるなど……。それは聖剣でできているのか!?」
 驚いたように叫び声をあげ羽に大穴を開けられたことで飛べなくなった竜が、きりもみ回転しながら鋼鉄の床へと落下した。
 ガシャアアァァァン!
 けたたましい音と共に砂埃が白煙に混じって辺りに充満する。
 アトラスデルタに壊された入り口から、急な圧力によって押された空気がベルヌーイの定理に従って風と共に砂埃を連れ去っていく。
「ぐぐぐ……」
 僕は唸り声をあげ這いつくばる竜の鼻先にピョコンと飛び乗る。
「きさまぁ……!」
 僕のことを睨み付け今にも噛みつきそうに歯軋りするが、僕の後ろで風切り音を鳴らすチャクラムを見て言葉をなくす。
「これは聖剣なんかじゃない。タングステンだ。ダイヤモンドよりも硬い、人間が造り出した超合金。詳しいことはお前なんかに教えてやらないけど……」
 僕はそう言いながら竜の鼻先をスタンピングした。
 バキィッ!!
「ぐはぁっ! は、は、は、鼻が……!? 鼻がぁぁ!?」
 鋼鉄を易々と砕くことができるようになった僕のスタンピングだ。これぐらいはできて当然だろう。
「ギャグってのはなぁ、殺しちゃダメなんだよ! よくも僕を“本気で”殺そうとしたな!! 僕の怒りを思い知れ!! “チャクラム”!!」
 僕は叫ぶと同時に後ろへと飛び退く。
 ギュオオォォォン! と音を立てて僕の耳の横をチャクラムが飛んで行く。
「ま、ま、ま、待ってくれ!! 話せば分かる!! は、話し、話し合おうではないか! 小さき…… ぎゃああぁぁぁ!」
 僕のチャクラムで斬り裂かれていく竜から血飛沫が舞う。
「た、助けっ! 助けて! も、もう止めて!! 助けてええぇぇ!!」
 自分でさっき言ったけど、ギャグ回で僕は殺さない。
 だけど……。
「ハハハハハハハハハハ! アーッハハハハハハハハハハ!!」

「に、ニートちゃんがキレてる……」
「近付いちゃダメよ!」
「目が、逝っちゃってますわね……」
 ナスカたち三人は僕の一方的な戦いを見て若干引いていた。
「そこら辺にしてやってくれんか、ニートよ」
 魔力で操っていたチャクラムをピタリと止めて、僕はシュナの方を振り向いた。
「そやつは我の昔の知人でな。女が関わるとヤバい奴になってしまうのじゃ」
 彼女が竜の方を顎で指すと、竜はみるみる内に小さくなり人型へと変わっていた。
「ほ、本当に……、本当に、申し訳ございませんでした!!」
 さっきまで竜の身体で偉そうにしていたのが嘘みたいに、彼は綺麗な土下座で僕の前に額を擦り付けていた。
「ぷぷっ……!」
 僕は思わずその頭を見てちょっと吹き出してしまった。
 だって、カッパみたいに禿げてるんだもん。
「も、もういいよ。許すよ」
 さっきまでの怒りなんか吹き飛んだよ。その頭のお陰で。
「おお! なんと!? 小さき獣よ! 貴様は心だけは大きいのだなぁ!」
「あんたの態度ほどじゃないよ!」
 そう言って抱きついてくる男に、僕は悪態をつく。
 てか、何で薄らハゲのくせしてイケメンなんだよ!
 無駄にハイクオリティーに青い瞳してんじゃないよ!
「まったく。そんなんだから、友達ができんのじゃぞ。ジンバラエよ」
 呆れた口調でシュナは頭を振る。
「えぇ!? こんなんがシュナの知り合いなの!?」
「こんなんとは冷たいではないか! 貴様と我輩はもう、共に戦った仲ではないか!」
「いやいやいやいや! そういう意味じゃないからね! ちゃんと辞書見ようよ!」
「何だ!? 貴様は、貴様は……、我輩のことが、嫌いなのか……」
 尻すぼみに言葉が小さくなり目の端に涙を貯めている。
 もう! 何なんだよ、コイツ!!
 ある意味で、神父より質が悪い!
「もう! 分かったよ! 友達でいいよ!」
「おお!! ありがとう! ありがとう!! 我輩の友達になってくれて、本当にありがとう!! 我輩、我輩は……、う、う、う、うわぁぁぁぁん!!」
「ちょ、ちょっと! やめっ! 鼻水! 鼻水!」
 僕のモフモフを涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、大声でジンバラエが泣き喚く。
「おお! さすが女神ディーテ様の寵愛を受けし猫様! 何と心の広いことか! さぁ、竜の子よ。我らが愛の友、女神様より寵愛を受けられし猫様に、友として熱き抱擁を」
 なんでだよぉぉぉ!!
 てかお前! さっきまで向こうで隠れてたじゃん!!
 何で一番来て欲しくないタイミングで来るんだよ!!
「いた! いだだだだっ!!」
 止めろ! バカ竜!!
 背骨が折れる! 折れるったら!!
 やめろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!
 それから僕はこのバカ竜が泣き止むまで、熱い抱擁から逃れることができなかった。

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