アホと魔女と変態と (異世界ニャンだフルlife)

影虎

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四章 遺跡探索

遺跡探索 15

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 それは一時間ほど前の出来事だった。

 フェデリコにとって女神ディーテ様の言葉、そしてその子孫シュナ・プロバンスと女神様から寵愛を受けし猫ニートは、何よりも優先すべき事柄である。
 そのシュナより、竜の子ジンバラエを探し出してくるという命を受けた時点で、彼は死んでもいいと思っていた。
 これまで何度も何度も女神様に祈り、愛を授かってきた身でありながら、ついにはその女神様の子孫たちと共に旅ができたのだ。これは教会のどんな役職に就いていようができるようなことではない。だからフェデリコは、このジンバラエの捜索に全身全霊を以て挑むのである。
 竜の子がどんな風に女神様に必要なのか分かりはしないが。

「こっちにいるのですか、竜の子よ!」
 フェデリコは特に足跡の追跡などできる訳ではないが、とにかく勘が昔からよかった。
 だから今回も闇雲にその勘を頼りにしながら森の中を突き進んでいく。
 これだけ適当に歩き回りながら一度も危険なモンスターに遭遇しないのは、フェデリコの勘が示す方向が何故かモンスターの死角を突くものであったからだ。本人には全く自覚はないが。

 そうして十分ほど歩いた頃、フェデリコは森を抜け小高い丘で切り株に座り俯くジンバラエが夕日に照らされているのを発見した。
「ここにいましたか。竜の子よ」
 彼はゆっくりとジンバラエの元へと近付いて行く。
「ん……? あぁ……。我輩の友、神に遣えし人の子か」
 そう呟いたジンバラエは一時だけ嬉しそうに彼の顔を見上げたが、直ぐにまたフェデリコから目線を外し俯いてしまった。
「どうしたというのですか、竜の子よ? あなたは何を、そんなに苦しんでいるのです」
 フェデリコは柔らかい笑顔を携えて、ジンバラエの肩に自分の片手を乗せる。
「人の子よ……。聞いてくれるのか?」
 ジンバラエは驚いたように顔を上げ、目を見開いた。
「何を言っているのですか? 私はあなたの友であり続けると誓ったのですよ」
「おぉあぁぁ…… あぁぁ、あぁ、ありが、ひっく、ありがとう、ひっく……」
 ジンバラエはフェデリコの胸に抱き付き涙を流す。
「泣きたい時は泣きなさい、竜の子よ。女神ディーテ様はきっと、その嘆きを聞き届けてくださいますよ」
「ああぁぁ……! うああぁぁ……!」
 フェデリコの言葉でジンバラエの泣き声は更に大きく森の中に響き渡った。

 子供のように泣き叫んだジンバラエがようやくフェデリコの胸から顔をあげたのが、それから五分ほど後のことだった。
「ひっく……、人の子よ……。ひっく……、我輩は、女性が大好きなのだ……、ひっく」
 泣き止みはしたが、時折嗚咽混じりの言葉でジンバラエは話し始めた。
「我輩は昔から、女性しか目に入らなかった……。この世の中全て、我輩以外は女性だけ住んでいればいいと、そう思っておった……、ひっく……。そんな時だった。我輩の頭が、こんな風になったのは……。それまで我輩に優しかった女性たちが急に態度を変え『薄らハゲ!』、『変態!』、『近寄るな!』と罵ってくるようになってしまったのだ」
 ジンバラエは昔を思い出すようにフェデリコから離れ、地平線に沈み行く太陽を眺めた。
「これまでの伝を頼り、それまでお付き合いしてきた女性たちに蔑まれながらも、我輩は何とか今日を生き抜くために身を粉にして頭を下げて回った。そんな生活を続けておった我輩だったが、もう疲れ果ててしまった……。もういっそ、どこかに消えてしまいたい……」
 そう呟いてジンバラエは切り株に力なく腰を下ろし、顔を両手で覆って項垂れた。
「その懺悔の言葉、確かにこのフェデリコ・ビアンコが聞き届けました。女神ディーテ様に変わって、あなたに神の言葉を届けます」
 フェデリコは子供を慰めるように優しくジンバラエの頭を撫でながら語りかける。
「人間の作りし神などに……、我輩の苦しみが、分かるのか?」
 大きく息を吸い込むフェデリコを見上げ、ジンバラエは疑問の目を向けた。
 人間の神に自分を救うことなどできるのか、と……。
「竜の子よ。あなたは愛を求め過ぎたのです。これからはあなたが率先して愛を与える立場になりなさい。さすれば道は、自ずと開かれるでしょう」
 ジンバラエの頭の中で何度も言葉が流れる。

 愛を求め過ぎていた……。愛を求め過ぎていた……。愛を求め過ぎていた……。

 愛を与える立場になりさい……。愛を与える立場になりなさい……。愛を与える立場になりなさい……。

「そうか! そういうことだったのだな!」
 驚きに目を見開き、ジンバラエは知らず知らずの内にフェデリコの手を握っていた。
「我輩はこれまで、数多の女性たちから愛をもらい過ぎていた。だから世の女性たちが、我輩の中にある愛の多さにたじろぎ、罵声を浴びせるようになったのだな……。気付かなかった……! 本当にありがとう。神に遣えし人の子よ」
 嬉しそうに目を輝かせて、ジンバラエは握る手に力を込める。
「お気付きになって何よりです。竜の子よ、これで女神ディーテ様の偉大さが、お分かりになったでしょう」
「うむ! 確かに分かった! 我輩はこれからは、女性に愛を求めるのではなく、全ての女性を愛する気持ちを持って、接していけばいいのだな! 何故こんな単純なことに気付かなかったのだろう……!」
 頭を下げて首を横に振ったジンバラエは、決意の籠った目をフェデリコに向けた。
「我輩の友、いや……、親友である神に遣えし人の子よ。頼みがある!」
「なんでしょうか?」
 互いの目を見つめ会い、フェデリコは次の言葉を待つ。
「我輩も……、我輩も、貴様と同じ神に遣えたい! 我輩を目覚めさせてくれた女神ディーテ様の偉大さが、今ようやくにして分かったのだ! 頼む! 我輩を、女神ディーテ様の信徒にしてくれ! この通りだ!」
 地に頭を擦り付けてジンバラエはフェデリコに頼み込む。彼と同じように愛の伝道師となるために。女神ディーテの偉大さを、この世に伝えるために。
「立ってください、竜の子よ。いえ、私の親友よ。あなたの心は既に、女神ディーテ様の信徒です。いつでも女神ディーテ様は見ておられます。あなたが私と同じように聖プエゴ教の信徒となったことに、大変喜んでおられますよ」
「ほ、本当か!?」
 勢いよく立ち上がったジンバラエは声を荒げて神父の肩を掴んだ。
「勿論です、私の親友よ。あなたを女神ディーテ様の遣い、聖プエゴ教教会の信徒として、このフェデリコ・ビアンコ首都大司教の名において認めます」
「あ、ありがとう! ありがとう! 我輩の親友よ! 本当にありがとう!!」
 フェデリコはゆっくりと嬉しそうに頷き、ジンバラエの肩に両手を置いた。
「それでは、すぐにでもできる教義が二つあります。なので今から実践していきましょう。まず私たちは自然と共に生きる存在でなければいけません。ですから竜の子よ、その服を脱ぎ捨て自然と一体になりなさい」
「うむ! わかったのだ!」
 何の躊躇いもなくジンバラエは全裸となった。
「さあ、後もう一つです。そしてこれが一番大事です!」
 フェデリコの目に気圧されて、ジンバラエはゴクリと唾を飲み込む。
「女神ディーテ様へ祈りを込めて、身体を浄めながら沐浴するのです!」
「う、うむ! 分かったのだ! 今すぐにでもやろうではないか!」
 そう言って二人は頷き合うと、フェデリコの勘を便りに川へと向かって行った。

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