からかさお化けと彦吉

香橙ぽぷり

文字の大きさ
2 / 4

壱 彦吉と

しおりを挟む
まだ人が着物を着ていた頃のこと、ここ、ある下町の通りにまつわる話がある。
今と変わらず、その頃もいろいろな商店が軒を連ねていた。
しかし雨が降ると、人通りが少ないうえに、からかさお化けが出たそうな。
からかさをさして歩いていると、自分の仲間と思うのか、愉快な顔をしたからかさお化けがおどかしにやって来る。
人が自分に驚いて逃げていくのを、からかさお化けは喜んでいるようだった。
なんと、そのからかさお化けと仲良くなった若者がいたそうな。

さて、雨が降る中、この通りの店の軒下に25歳ほどの若者が立っていた。
若者は振り出したばかりの雨空を見てため息をつく。
「さっきまで降っていなかったのだが…」
若者は隣村から用事があって、この下町の通りの店に来たのだが、からかさを持っていないのだ。
しばらく軒下にいたが、若者は心を決めた。
「ええい、走って帰ろう!」
そう自分に言って勢いよく走り出す。
ぴょんっ ぴょんっ
そんな若者の前に、愉快な顔をしたからかさお化けが現れた。
からかさお化けは、からかさをさしていない人間の前にも現れるらしい。
普通なら逃げ出すところだ。
からかさお化けは、若者が驚くのを楽しみにしていた。
しかし若者は驚いた様子を見せず、からかさお化けをじっと見ていた。
そしてからかさお化けに話しかけた。
「これがうわさのからかさお化けか。
なあお前、かさになってくれないか?」
若者は細かいところにこだわらない性格だったらしい。
からかさお化けは、動くことはできても、話すことはできない。
若者の行動に驚いていたけれど、しかし逃げることもなく、その場に立っていた。
若者はそんなからかさお化けの様子を見て、同意したと思った。
そこでからかさお化けの足を持ってかさにすると、自分の村へと歩き始めた。
若者は明るい顔をして、からかさお化けに話し掛ける。
「おらは彦吉ひこきち。この町の隣村に住んでるんや。
おらの家はかさを買う余裕はなくてなあ。だからお前がいてくれてうれしかったんよ」
からかさお化けは、彦吉の頭の上で静かに話を聞いている。
からかさお化けは、話さない、顔も変わらない、しかし彦吉に付き合っているのを嫌がってはいないようだった。
帰り道は誰にも会わず、彦吉達だけだった。
雨の音が聞こえる中、静かな時間だった。
家に着くと、からかさお化けを降ろしてお礼を言う彦吉。
「からかさ、ありがとうな。おかげでぬれずにすんだ」
からかさお化けの頭をぽんぽんとたたく。
ぴょんっ♪ ぴょんっ♪
からかさお化けはいつもよりもうれしそうにジャンプして帰っていったそうな。

からかさお化けは相変わらず人を驚かせていたが、変わったこともある。
彦吉に感謝されたのがよほどうれしかったらしい。
それとも1人ぼっちだったから、彦吉と一緒にいたかったのかもしれないなあ。
雨の中彦吉がやって来ると、からかさお化けはすぐに跳んでいった。
「からかさ、来てくれたんか!」
そして彦吉のかさになったそうな。
彦吉もそのうちからかさを買う余裕ができたのだが、からかさお化けが来てくれるので、かさは生涯買わなかったそうな。
時代は変わり、からかさをさす人もなくなり、通りは姿を変えた。
しかし今でも、雨の日かさを持っていない人の前に、愉快な顔をしたからかさお化けはあらわれるそうな。
もし逃げたりしないで話し掛ける勇気があれば、お前さんもそのからかさお化けと友達になれるかもしれんよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

【完結】誰かの親切をあなたは覚えていますか?

なか
児童書・童話
私を作ってくれた 私らしくしてくれた あの優しい彼らを 忘れないためにこの作品を

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

ぴょんぴょん騒動

はまだかよこ
児童書・童話
「ぴょんぴょん」という少女向け漫画雑誌がありました 1988年からわずか5年だけの短い命でした その「ぴょんぴょん」が大好きだった女の子のお話です ちょっと聞いてくださいませ

処理中です...