【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

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第11話 「エルグランデ」

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「私も殺気を感じたので周囲を探ったのですが、気配はすぐに消えました。...恐るべき手練れかと」

険しい表情でカイルがそう言うと、アキュラも頷いた。

「ガーデンでの痕跡のこともあるからね。それなりに警戒はしていたつもりだったのだが...その外から見事な手際での射撃だった。が、引き際の良さを考えると、何が何でも我々を殺そうという感じでもなかったな」

「ガーデンでの痕跡というと?」

けげんそうな顔をするカイルに、私が説明した。

「あの...ガーデンが枯れかけていたのは、何者かの魔法による仕業ではないかと」

「ほう、それは物騒な...エレナ嬢には何か心当たりが?」

「いえ、それは特に...」

再びミリアの勝ち誇った顔が脳裏を掠めたが、今回のことも証拠がないのに名前を出すわけにもいかない。
黙り込んだ私をみて、落ち込んだと思ったのかカイルが励ますように声をかけてくれた。

「ともかく、今日はもう街の宿に入ってしまいましょう。相手が何者であれ、この街中で騒ぎは起こすまい」

「わかりました」

そうして、カイルが探してきてくれた宿で一夜を明かすことになった。
カイルが公用でよく使っている宿らしく、珍奇な組み合わせの私たちを詮索するでもなく、奥の一室を案内してくれた。

「ここなら、守りやすく、かついざという時に脱出もしやすいでしょう」

「...ありがとうございます」

「念のため、私は騎士団に護衛の派遣を要請してきます。宿には腕利きの用心棒もいますし、アキュラ殿、サキ殿もいらっしゃるので大丈夫かと思いますが、何かあったらこの笛を思いっきり吹いてください」

カイルはそういって銀の呼子笛を渡してくれた。
この笛を吹くことにならなければいいのだが。そう思いつつ、私はカイルの細やかな気配りに感謝した。
出会ってまだそんなに時間が経つわけではないけれど、私はこの一見突き放したような雰囲気を持つ北方の騎士が、気遣いと優しさに満ちていることに気付きはじめていた。

「で、高鳴る思いはこの笛のように響いて君の元へ...って感じっすかねー」

「やめなさい」

「そんぐらい言わせてくださいよー」

「君意外といい性格してるね」

カイルがいなくなった途端豹変するサキにアキュラも苦笑いする。

「お嬢様だけずるいずるい」

サキがまだぶつくさ言っていたが、とりあえず無視してベッドに寝転んだ。
馬車で発動した術を応用し、部屋の周囲にも既に結界は展開済みだ。
ああ見えてサキの武術も相当なものだし、アキュラもいる。
カイルも言っていたが、宿にはお抱えの用心棒もいたので、まずは安心といっていい環境だ。
しかし、婚約破棄からはじまって怒涛のような展開が続き、まるで自分の人生が滝のように激しく流れ始めたような気がして、どっと疲れてしまった。

ー気がつけば、眠りの中にいた。
ぼんやりと自分の周りに浮かぶたくさんの精霊たちから力が流れ込んでくるーそんな夢だ。
火、水、大地、雷...無数の精霊の姿がふわふわと集まっている。
彼らから流れ込んでくる力は次第に抑えきれなくなり、自分という器から溢れ出していく。
その奈落に落ちていくような感覚に恐怖し、大声で助けを求めようとするが、声は出ない。
絶望的な気持ちになったその刹那ー目の前に手が差し伸べられる。
必死になってそれを掴んだ瞬間、温かなその感触に不安が一気に掻き消えー

「...大丈夫ですか」

「あ、え、いや、はい...」

あろうことか、私がしっかりと握りしめていたのは、カイルの手だった。

「こ、これは失礼を...」

頬が火で炙ったかのように熱くなっている。あわてて手を離し、ベッドから起き上がって何度も頭を下げた。

「わたしったら寝ぼけていたみたいで...」

「いえ、私こそ女性の居室に立ち入るのは申し訳ないことは承知していたのですが...ずいぶんうなされているとサキ殿がおっしゃるゆえ」

そう言って目を逸らしたカイルの頬も、いつもよりほんのりと血色がよく見えたのは気のせいだろうか。

「ちょっ...」

カイルを部屋に入れたのはサキの仕業だったのか。

「オジョウサマガアマリニシンパイデツイカイルサマニオスガリシテシマッタノデスモウシワケゴザイマセン」

サキは棒読みで言い訳する。おおかた、カイルに話しかけるきっかけを作りたかったに違いない...
それが、この生真面目な騎士が心配して部屋にまで入ってきてしまったということらしい。

「元はと言えば私が無理を言ってご同行願ったのが、ご心労の種になったのではないかと申し訳なく...」

「い、いえ...ちょっといろんなことがありすぎて、でももう大丈夫です。ご心配をおかけしました」

「で、ではこれで私は失礼します。数日もすれば部下たちもこの街へ着くでしょう。それまではゆっくり静養なさってください」

そう言ってカイルは自分の部屋へ引き上げていった。
手のひらには、微かにカイルの手のひらの温もりが残っているような気がした。
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