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第20話 「王都へ」
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翌朝早く、私たちはそれぞれの道へと出立することにした。
名残は惜しいが、それ以上に惜しむべきは時間だ。
「エレナ嬢...どうか、ご無事で」
「はい、カイル様も...」
「さぁ、行こうか」
それだけの言葉交わしただけで、私たちの道は再び別れることになった。
振り向いてカイルの姿を一目みたいという気持ちがなかったかといえば嘘になる。
でも、その気持ちを振り切って、今はただ歩くことに集中する。
きっと背中の向こうでは、カイルも同じように馬を急がせているに違いない。
もし彼も...私と同じように別れを惜しむ気持ちが少しでもあるのなら...それはとても嬉しいのだけれど。
それを振り返って確かめるのは、ちょっと怖い気がした。
「王都までの道のりは、できるだけ人目につかないよう気をつけないといけないわね」
「そうだね。先ほど施した偽装の術で、大抵の目は誤魔化せると思うが...油断はできない」
主要な街道はアイアンメイデンなどの中央の部隊が警戒している恐れがあった。
だから、近隣の住民たちがスピードを重視する際にしか使わないような裏道をできるだけ選んでいく。
もちろん私たちがそういう細かい道のことを知っているわけではないので、街の人々の出入りを観察したり、あたりの精霊の声に耳を傾けてどうにか辿っていくことになる。さいわいにして、津々浦々の街道を全て抑えられるほど中央の兵力が豊富なわけではないようで、裏道のような街道はほぼ無警戒だった。
「きっと、北のあたりをまだ重点的に捜索してるんじゃないかな」
「そうね、まさか私が単身王都に戻るとは考えていないでしょう」
「うむ、灯台下暗しという。実に妙案ではあると思うよ」
読みが当たって敵の姿はないとはいえ、やはり心細い。それを誤魔化すように二人で会話を交わしながらとぼとぼと王都へ歩んでいく。いつもの馬車も、お供のサキもいない。そしてカイルも。
思えばこんな旅をすることになるとは思わなかった。
ともすれば暗い方向に思考が行ってしまうので、話題を無理やり別の方向に持っていくことにする。
「そういえば...母や祖母たちってどんな人たちだったの?」
「そうだな。君と同じで、芯の強い娘たちだったよ」
「芯の強い...私も強いのかしら?」
「ああ、そっくりだ。外に誇示するようなものばかりが強さではない。たとえ外からは見えなくても、内面でしっかりと根を張り、揺らがぬ...そういう強さがあると思うよ」
「そ、そうかな...そうだといいんだけど」
「今回の王都行きも、その強さがなければできない決断だ。もっと自信を持つがいい」
少し照れるが、そう言われると悪い気はしなかった。
祖母はもちろん、母のこともほとんど記憶にない。
でも、似ていると言われればなんだか嬉しい気がした。
「もっとも、私もその頃はぼんやりとしていたというか...今ほどはっきりした意思がなかったというか。君と出会ってから、ようやく目覚めたと言ってもいい」
「...そうなの?」
「おそらく、王国の結界と私の眠りは連動しているのかもしれない。結界に綻びが生まれ...王国に危機が生じた今だから、私の意識も覚醒している。そんな気がするな」
「...それは責任重大だね」
「...今はただ進むしかないな。私もできることをする」
どうしても話はそこに戻ってきてしまうので、私たちは再び黙々と歩くことに専念した。
理不尽な状況に思い悩み始めたら、きっとどこまでも奔流のように不安や怒りが噴き出しそうな気がした。
だけれど、一歩足を前に出せば、その一歩分は確実に前に進む。
当たり前のことだけれど、ただその事実に没頭するだけで、辛い状況を少しだけ忘れられる気がした。
ーそうしていく日かの辛い旅路を重ねて。
私たちはようやくガーデンまで戻ってきた。
ダメ元で、王都に潜入する前に少しでも情報を集められればと思ったのだった。
ここから旅立ったのは遥か遠い昔の日にも思えるが、実際にはそれほど長い月日が経ったわけではない。
それほどまでに、ここ最近の日々が濃密で激動のものだったということだろう。
「...いよいよ戻ってきたわね」
「だが...やはり見張の騎士がいるな」
予想通り、ガーデンにはすでにアイアンメイデンの手が回っていた。
ガーデンの周囲は厳重に包囲されており、蟻の這い出る隙もない。
私の実家の領地だということは周知の事実だから、ミリアが手を回さないはずはなかった。
やはり、屋敷に入ったりサイラスと接触をするのは難しそうだ。
「せめて街で情報収集しましょう」
「うむ、そうしよう」
私たちはガーデンに入ることを諦め、近場の村で人々の会話に耳を傾けることにした。
ローズウッド家の領土でもある村に足を一歩踏み入れると、一瞬で異質な空気が支配していることに気づく。
もちろん要所要所にアイアンメイデンの目が光っていることもあるが、それだけではない。
人々の表情が明らかに暗く哀しげで、村全体が不吉な雰囲気に満ちていた。
私は嫌な予感を振り払うように、そっと街の人々の声に耳を傾ける。
「...まさか伯爵様が...」
「クレイトンさんまで...」
大切な人たちの名前が、不吉な口調で語られていると気づいた時、私は戦慄する。
無意識に精霊の力が増幅して聴力が強化され、遠く離れた人々の声が急速にクリアに聞こえ出す。
「伯爵様自ら剣を取られて、見事な最期を遂げられたとか...」
「ほんに、あのお優しい伯爵様が...叛乱などなさるはずがないのに、何かの間違いとしか思えぬ」
「しっ...アイアンメイデンの奴らに聞かれたら...それにしてもおいたわしいことじゃ」
「お嬢様はどうしておられることやら...ご無事だといいのじゃが」
たちまち私の目は眩み、立っていることすらおぼつかない。
お父様にとクレイトンの身に何が起きたのか、言葉では理解できても精神と肉体の全てがその事実を受け入れることを拒んでいた。たちまち状況を察したアキュラが、鋭く私を叱咤した。
「エレナ!エレナ!ここから離れよう」
名残は惜しいが、それ以上に惜しむべきは時間だ。
「エレナ嬢...どうか、ご無事で」
「はい、カイル様も...」
「さぁ、行こうか」
それだけの言葉交わしただけで、私たちの道は再び別れることになった。
振り向いてカイルの姿を一目みたいという気持ちがなかったかといえば嘘になる。
でも、その気持ちを振り切って、今はただ歩くことに集中する。
きっと背中の向こうでは、カイルも同じように馬を急がせているに違いない。
もし彼も...私と同じように別れを惜しむ気持ちが少しでもあるのなら...それはとても嬉しいのだけれど。
それを振り返って確かめるのは、ちょっと怖い気がした。
「王都までの道のりは、できるだけ人目につかないよう気をつけないといけないわね」
「そうだね。先ほど施した偽装の術で、大抵の目は誤魔化せると思うが...油断はできない」
主要な街道はアイアンメイデンなどの中央の部隊が警戒している恐れがあった。
だから、近隣の住民たちがスピードを重視する際にしか使わないような裏道をできるだけ選んでいく。
もちろん私たちがそういう細かい道のことを知っているわけではないので、街の人々の出入りを観察したり、あたりの精霊の声に耳を傾けてどうにか辿っていくことになる。さいわいにして、津々浦々の街道を全て抑えられるほど中央の兵力が豊富なわけではないようで、裏道のような街道はほぼ無警戒だった。
「きっと、北のあたりをまだ重点的に捜索してるんじゃないかな」
「そうね、まさか私が単身王都に戻るとは考えていないでしょう」
「うむ、灯台下暗しという。実に妙案ではあると思うよ」
読みが当たって敵の姿はないとはいえ、やはり心細い。それを誤魔化すように二人で会話を交わしながらとぼとぼと王都へ歩んでいく。いつもの馬車も、お供のサキもいない。そしてカイルも。
思えばこんな旅をすることになるとは思わなかった。
ともすれば暗い方向に思考が行ってしまうので、話題を無理やり別の方向に持っていくことにする。
「そういえば...母や祖母たちってどんな人たちだったの?」
「そうだな。君と同じで、芯の強い娘たちだったよ」
「芯の強い...私も強いのかしら?」
「ああ、そっくりだ。外に誇示するようなものばかりが強さではない。たとえ外からは見えなくても、内面でしっかりと根を張り、揺らがぬ...そういう強さがあると思うよ」
「そ、そうかな...そうだといいんだけど」
「今回の王都行きも、その強さがなければできない決断だ。もっと自信を持つがいい」
少し照れるが、そう言われると悪い気はしなかった。
祖母はもちろん、母のこともほとんど記憶にない。
でも、似ていると言われればなんだか嬉しい気がした。
「もっとも、私もその頃はぼんやりとしていたというか...今ほどはっきりした意思がなかったというか。君と出会ってから、ようやく目覚めたと言ってもいい」
「...そうなの?」
「おそらく、王国の結界と私の眠りは連動しているのかもしれない。結界に綻びが生まれ...王国に危機が生じた今だから、私の意識も覚醒している。そんな気がするな」
「...それは責任重大だね」
「...今はただ進むしかないな。私もできることをする」
どうしても話はそこに戻ってきてしまうので、私たちは再び黙々と歩くことに専念した。
理不尽な状況に思い悩み始めたら、きっとどこまでも奔流のように不安や怒りが噴き出しそうな気がした。
だけれど、一歩足を前に出せば、その一歩分は確実に前に進む。
当たり前のことだけれど、ただその事実に没頭するだけで、辛い状況を少しだけ忘れられる気がした。
ーそうしていく日かの辛い旅路を重ねて。
私たちはようやくガーデンまで戻ってきた。
ダメ元で、王都に潜入する前に少しでも情報を集められればと思ったのだった。
ここから旅立ったのは遥か遠い昔の日にも思えるが、実際にはそれほど長い月日が経ったわけではない。
それほどまでに、ここ最近の日々が濃密で激動のものだったということだろう。
「...いよいよ戻ってきたわね」
「だが...やはり見張の騎士がいるな」
予想通り、ガーデンにはすでにアイアンメイデンの手が回っていた。
ガーデンの周囲は厳重に包囲されており、蟻の這い出る隙もない。
私の実家の領地だということは周知の事実だから、ミリアが手を回さないはずはなかった。
やはり、屋敷に入ったりサイラスと接触をするのは難しそうだ。
「せめて街で情報収集しましょう」
「うむ、そうしよう」
私たちはガーデンに入ることを諦め、近場の村で人々の会話に耳を傾けることにした。
ローズウッド家の領土でもある村に足を一歩踏み入れると、一瞬で異質な空気が支配していることに気づく。
もちろん要所要所にアイアンメイデンの目が光っていることもあるが、それだけではない。
人々の表情が明らかに暗く哀しげで、村全体が不吉な雰囲気に満ちていた。
私は嫌な予感を振り払うように、そっと街の人々の声に耳を傾ける。
「...まさか伯爵様が...」
「クレイトンさんまで...」
大切な人たちの名前が、不吉な口調で語られていると気づいた時、私は戦慄する。
無意識に精霊の力が増幅して聴力が強化され、遠く離れた人々の声が急速にクリアに聞こえ出す。
「伯爵様自ら剣を取られて、見事な最期を遂げられたとか...」
「ほんに、あのお優しい伯爵様が...叛乱などなさるはずがないのに、何かの間違いとしか思えぬ」
「しっ...アイアンメイデンの奴らに聞かれたら...それにしてもおいたわしいことじゃ」
「お嬢様はどうしておられることやら...ご無事だといいのじゃが」
たちまち私の目は眩み、立っていることすらおぼつかない。
お父様にとクレイトンの身に何が起きたのか、言葉では理解できても精神と肉体の全てがその事実を受け入れることを拒んでいた。たちまち状況を察したアキュラが、鋭く私を叱咤した。
「エレナ!エレナ!ここから離れよう」
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