【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

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第21話 「勇気」

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真っ白になった頭でどこをどう歩いたかわからない。
気がつけば、村から少し離れた茂みの陰にぼんやりと座り込んでいた。

「お父様が...クレイトンが...」

そこから先はもはや言葉にならない。いや、言葉にしたくなかった。
言葉にしてしまえば、認めたくない事実が確定してしまう気がしたから。

「エレナ...」

アキュラも悲しげに瞳を伏せて、あとはただ優しく沈黙した。
安易な慰めの言葉など、私にとって何にもならないとわかっているのだろう。
私とて、ここで取り乱しても何の解決にも繋がらないと理性ではわかっていた。
しかし、父やクレイトンがもうこの世にいないであろうこと。
その受け入れ難い事実と私の心が激しい葛藤を起こして、何もかもが凍結しているような気持ちだった。

エリックやサキたちの生死もわからず、カイルとも別れ、そして父とクレイトンが命を落とした。
あらゆる最悪な状況を前にして、私の心はひどく脆弱だった。
なぜ自分がこのような目に?いったい私や父、クレイトンが何をしたというのか?
頭の中がぐるぐると回転し、何もかもどうでも良いという気持ちが抑え難く湧き起こってくる。
身体中の力が抜けて指先一つ動かせないまま、それでいて頭の片隅で茫然自失とはこういうことを言うのだな...などと俯瞰する自分もいたりする。人はこのような時、いったいどうしたらいいのだろう。
その時だった。

「エレナ...周りを見てごらん」

投げやりな気持ちになって呆然としている私の声に、かろうじてアキュラの声が微かに届いた。

「なんだというの...」

気がつけば、さまざまなかたちをとった精霊たちがとおまきにわたしたちを取り囲んでいた。
大きいもの、小さいもの...力あるもの、よわよわしいもの...彼らの姿形は千差万別だ。
そんな彼らは、私の慟哭に呼応して集まってきたようだった。

一見表情のない彼らの瞳にーしかしよく見れば、深い哀しみと同情の念が宿っているような気がした。
慰めの言葉をかけるでもなく、私に触れるでもない。
ただ遠巻きにーそれでいてやさしく、穏やかにわたしを囲んで見守ってくれている。
同じように黙って私を見守っていたアキュラが、静かに口を開いた。

「エレナ...君を慰める言葉を我らは持たない...君を励ます手段も我らは持たない。でも、わたしたちは

「...ぐすっ...ひぐっ...」

慰めの言葉を持たないと言ったそのアキュラの言葉にー私の中につかえていた大きな氷のようなものが、少しずつ溶け出していくのを感じる。その溶け出した氷は、熱い涙のかたちをとって私の瞳からこぼれ落ちていく。

「うぁぁっ...!!」

一度溢れ出始めた哀しみは、言葉にならない慟哭となって私の口から飛び出していく。
言葉に尽くせぬ哀しみは、言葉にせぬままただ放つしかない。
私は涙と鼻水にまみれてグジャグジャの顔になりながら、生まれたばかりの赤児のように泣きじゃくった。
アキュラと精霊たちは、静かにそんな私を見守ってくれていた。
絶望に覆われたこの状況で、ただその事実だけがひどく優しく、かけがえのないものに思えた。

「...みんな、ありがとう...」

枯れ尽くすことがないと思えた涙も、やがては止まる時が来るのだと知る。
悲しみが癒えたわけではない。痛みを忘れたわけではない。
けれど、それらを抱えたままでも、人はまた立ち上がれるのだと。
精霊たちの優しい瞳は、そう告げているような気がしたのだ。

まだ少し目尻に残った涙を、決意を込めて拭う。
微かな熱のこもったその雫を、ことさらに力強く振り払う。
私のために父とクレイトンが命を落とした。エリックやサキの生死もわからない。
カイルと北の騎士団にも犠牲を強いてしまった。
彼らのためにも、私はここで立ち止まるわけにはいかなかった。

「...わたし、覚悟を決めた」

「...ああ」

私とアキュラは、精霊たちに見守られながら茂みを後にする。
この先に待ち受けるであろう苦難に、恐怖や不安はある。
ここからは、自分の力で未来を勝ち取らなければならない。
その力とはー精霊術だけではない。自身の存在を賭けて、生き抜こうとする根源的なものだ。

「お父様...クレイトン、見ていてね。わたし...負けないから」

そうすることが、きっと彼らへの何よりの手向けになるだろうから。
そっと呟いた言葉は、風に流されていく。
そして...カイルにまた会いたい。彼の優しい微笑みをまた見たい。
でもその想いは、そっと胸の奥にしまった。
照れくさいと言うのもあるし、何よりその想いは言の葉にして彼に伝えるべきだとわかっていたからだ。
アキュラと二人、生き延びるための道へと歩き出す。

「いきましょう、王都へ」
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