【完結】捨てられ令嬢の冒険譚 〜婚約破棄されたので、伝説の精霊女王として生きていきます〜

きゅちゃん

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第32話 「別れ」

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鋭く振り下ろされた剣の前に、私は目を閉じたー。
ごめん、みんな...私はここまでみたいだ...。
全てを諦めかけた次の瞬間、落ちたのは私の首ではなく、私を拘束していた魔装具だった。

「エレナ...君の笑顔は、やっぱり素敵だな...」

気がつけば、瞳に正気の光を取り戻したレオンが、寂しそうに微笑んでいる。
その剣先は私の首ではなく、魔装具を真っ二つに切り裂いていたのだった。

「レオン...正気に戻ったのね!」

「すまない、何だかずっと夢を見ているみたいで...俺は君を殺そうとしていたのか...」

群衆も兵士たちも、何が起きたかわからずただ固唾を飲んで見守る中、私たちはしばし見つめあった。
暴風の中、突如として生じた静寂は、まるで時が止まったかのような錯覚をもたらした。
その突然の空白に終焉をもたらしたのはーミリアの声だった。

「見よ!魔女がまた篭絡した!レオン隊長は正気を失っている!アイアンメイデンは処刑を遂行しなさい!」

その号令によって、アイアンメイデンの騎士たちが抜剣し、じりじりと私たちを取り囲んだ。
レオンは私をかばうようにして彼らの前に立ち塞がる。

「エレナ...せめてもの償いに、私が少しでも時間を稼ぐ。だからその間に逃げてくれ」

「レオン...!」

「...私にこんなことを言う資格はないのはわかっているけれどー君の幸せを願っている」

そう言ってレオンは剣を構え直し、私に背を向けた。
その肩が少しだけ震えているような気がした。
私は動けない。

「エレナ!彼の思いを無駄にするな!」

アキュラのその声に、呪縛が解けたように私の足が動き出す。
そうだ。ここで死んだらレオンの想いを無駄にすることになる。

「レオン...!」

何かを伝えたい、伝えねばならない。
そんな思いは胸に溢れるが、言葉にならずただ彼の名を叫びながら走る。
群衆たちが走り出した私を見て大歓声を上げ、刑場を仕切っていた柵を壊し始めた。
警備兵たちが泡を食って止めようとするが、多勢に無勢でどうしようもない。

「エレナ様!こちらへ!」

最前線で助命を叫んでくれていたサイの声の方向へ、私は懸命に走る。
群衆たちが警備兵たちを寄せ付けないように人の壁を作り、私の逃走経路を作ろうとしてくれていた。
どうにかそこへ分け入ろうとした瞬間だった。

"Spiritus Malignus, Pedes Tene! Non Fugiat!"邪悪なる精霊よ、足を捕らえよ! 逃がすな!

何かに足を取られたような感覚に陥り、私は惨めに地面へ転がっていた。

「パーティの主賓がもうお帰り?まだまだお楽しみはこれからだってのに...」

「ミ、ミリア...」

剣を抜いたミリアがもう追いついてきていた。
その剣はべっとりと血に濡れている。
誰のものかは、考えたくなかった。

「婚約者を失うのは、こういう感覚なのね」

そういって邪悪に微笑むミリアを、私は直視できない。
もはや私の理解をとうに超える存在だ。
それでも、湧き上がる怒りを抑えることもできない。

「ミリア...あんたって女は...!」

「あら、レオンを取られて怒ってるの?そうねぇ、彼、ベッドではなかなか可愛いところもあったわよ」

「下賎な話をするな!」

「ふふ、男に抱かれたこともない小娘がよく吠えること」

「黙れ!」

怒りの余り無意識のうちに精霊術を発動しようとして、私は悶絶して地面を芋虫のように這いずった。

「まだ薬が効いていると言ったでしょ、本当にバカなんだから」

心底おかしそうに見下しながら、ミリアが剣を私の喉元に突きつけた。

「でも、もうここまでね。最初からレオンに任せず私がやればよかったんだわ」

ミリアの瞳が一際冷たく光った。
そのおぞましく空虚な瞳に、私はいよいよ絶体絶命の時を迎えたことを知る。
私の命はここで終わるの?こんなところで?この女のために?

その時だった。
群衆の叫びとは違う、大波のような地響きが伝わってくる。
軍馬の嗎と、槍や剣が鎧と触れ合う音。明らかに軍勢の気配だ。

「一体何?!」

ミリアがその気配に気を取られた瞬間だった。
私とミリアの間に一騎の騎士が飛び込んできて、ミリアの剣を弾き飛ばした。

「エレナ嬢、お待たせして申し訳ない!」

それは、誰よりも待ち焦がれた人の声。

「ーカイル!」

北の騎士団団長、カイル・ノーザンハートが帰ってきたのだ。

「さぁ、乗って!」

「ええ!ええ!」

私はカイルの差し伸べた手に縋って馬上の人となった。
周囲にもカイルが従えてきたであろう騎馬隊が次々と到着する。

「カイル、この人たちは...」

「東、西、南、すべての騎士団が我らと志を同じくしてくれました。どうかご安心を」

「...やったのね...!」

カイルは優しく微笑んだ。

「はい、しかし油断はできません。とにかく馬を飛ばしてきたので...我らの手勢はごく僅かなのです」

「では、混乱に乗じてとにかくミリアを討つべきです。彼女が国王陛下やアイアンメイデンを篭絡し、事を起こしたのです」

手短に状況を共有すると、カイルの顔は辛そうに歪んだ。

「エレナ嬢、本当に遅くなって済まなかった」

「いいえ、あなたが最善を尽くしたことは痛いほどわかります」

実際、カイルの容貌は憔悴し、鎧や騎馬もひどく汚れていた。
昼夜を問わず駆け回ってきたに違いない。
それも私の命を救うためかと思えば、ひどく愛おしい気持ちになる。
が、今は再会を悠長に喜んでいる時間はない。

「今はとにかく、ミリアを探さないと...」

「その必要はないわ。今度こそきっちり葬ってあげる」

体制を立て直し、アイアンメイデンの主力を率いて戻ってきたミリアだった。
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