【完結】悪役令嬢のスローライフ

きゅちゃん

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再会

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春の嵐から二週間が過ぎ、銀風の谷にも初夏の気配が漂い始めていた。エレノアは館の書斎で、養蜂場の復旧状況と今後の計画についての報告書に目を通していた。

「思ったより早く復旧したわね」彼女は満足げにペンで署名をした。

嵐の翌日から、村人たちが自発的に集まり、養蜂場の修復を手伝ってくれた。特に村の若者たちは、この機会にトーマスから養蜂について学びたいと熱心だった。危機を共に乗り越えたことで、村との距離はさらに縮まったように思える。

「お嬢様」マリーがノックの後、書斎に入ってきた。「アカデミーからの使いの方がお見えです」

エレノアは眉をひそめた。「アカデミー?」

「はい。アーネスト・グレイソン准教授だそうです」

エレノアの表情が一瞬固まった。アーネスト・グレイソン——魔法史の准教授であり、彼女がアカデミー時代に唯一心を許していた師だった。いわゆる「悪役令嬢」の彼女に、偏見なく接してくれた数少ない人物の一人だ。

「お通ししてちょうだい」

数分後、書斎のドアが開き、中年の男性が入ってきた。銀色の髪を後ろで束ね、知的な雰囲気を醸し出している。穏やかな青い目が、エレノアを見つけると微笑んだ。

「久しぶりだね、エレノア」

「グレイソン先生...」エレノアは立ち上がり、恭しく頭を下げた。「突然のご訪問、何かあったのですか?」

グレイソンは窓の外を見やり、谷の風景に見とれるように言った。「君が突然アカデミーを去り、領地に引きこもったと聞いて心配していたんだ。でも、」彼は微笑んだ。「心配は無用だったようだね。君は元気そうだ」

エレノアは少し緊張した面持ちで彼をソファに案内した。「お茶をどうぞ」

「ありがとう」彼はお茶を一口飲み、満足げに頷いた。「これは銀風の谷の薬草茶かな?」

「よくご存じで」エレノアは少し驚いた。

「この谷は魔法史研究の観点からも興味深い場所なんだよ。古くから特別な力が宿るとされてきた」

エレノアは思わず身を乗り出した。「特別な力...それは『谷の守護者』の伝説のことですか?」

グレイソンの目が輝いた。「そう、知っているんだね。さすがだ」

二人は次第に、谷の歴史や伝説について話し込んだ。エレノアは嵐の後に発見された「銀の鈴」のことも話した。

「それは非常に興味深いね」グレイソンは顎に手を当て、考え込むように言った。「実はね、エレノア。今回の訪問には別の目的もあるんだ」

「別の目的?」

「アカデミーでは、古代魔法と地域文化の関連を研究するプロジェクトを始めた。君の領地、銀風の谷も調査地の一つとして選ばれたんだ」

エレノアは意外な申し出に驚いた。「調査...ですか?」

「もちろん、領主たる君の許可が必要だ。一週間ほど滞在して、谷の伝説や遺物について調査させてもらえないだろうか」

エレノアは迷いなく答えた。「もちろんです。喜んで調査にご協力させてください」

グレイソンは嬉しそうに笑った。「ありがとう。実は、調査チームの一員が明日到着する予定なんだ」

「そうですか。どのような方がいらっしゃるのですか?」

「魔法史専攻の学生二人と、それから...」グレイソンは少し言いよどんだ。「クラウディア・フォン・ローゼンブルク」

エレノアの表情が変わった。クラウディア——アカデミー時代、彼女と激しくライバル関係にあった女性だ。貴族の慣習や礼儀作法に精通し、その美しさと知性で多くの学生から慕われていた。エレノアとは正反対の「模範的貴族令嬢」として称えられていた人物。

「彼女は...なぜ?」

「魔法文化史の助手として雇われたんだ。彼女の知識は貴重だよ」

エレノアは複雑な思いを抱えながらも、冷静に対応した。「わかりました。全員に適切なおもてなしをするよう準備します」

その夜、エレノアは自室のバルコニーで夜風に当たっていた。明日、かつてのライバルが訪れるという知らせに、思いのほか心が乱れていた。

(アカデミー時代、私たちは何度衝突したことか。私は彼女を「偽善的な聖女ぶった女クソ女」と呼び、彼女は私を「冷酷な策略家ゲス女」と呼んだ...)

「お嬢様、明日の準備は整いました」マリーの声が彼女の思考を中断させた。

「ありがとう、マリー」

「あの...」マリーが少し躊躇した。「明日いらっしゃるクラウディア様というお方は、お嬢様の...?」

「アカデミー時代のライバルよ」エレノアは淡々と言った。「互いに相容れない存在だった」

「そうだったのですね...」マリーは心配そうな表情を浮かべた。

エレノアは微笑んだ。「でも、それは過去のこと。今の私は違うもの」

翌日の午後、馬車の音が館の前庭に響いた。エレノアはグレイソン准教授と共に玄関で出迎えた。

馬車から最初に降りてきたのは、茶色の髪をした若い男性と、眼鏡をかけた女性だった。魔法史専攻の学生たちだろう。二人はエレノアに深々と頭を下げた。

そして最後に、一人の女性が優雅に馬車から降りた。

クラウディア・フォン・ローゼンブルク——長い黒髪と紫紺の瞳、気品あふれる立ち姿は、エレノアの記憶通りだった。

「お久しぶりです、エレノア様」クラウディアは完璧な礼儀で挨拶した。その声には、かつての敵意は感じられない。

「ようこそ、銀風の谷へ」エレノアも同様に応じた。「長旅でお疲れでしょう。どうぞお入りください」

館内に案内し、それぞれの部屋を割り当てた後、エレノアはグレイソンと調査チームを居間に招いた。お茶とケーキを用意させ、調査の詳細について話し合うためだ。

「では、調査計画を説明させてください」グレイソンが地図を広げた。「まず、村の長老たちから伝承を聞き取り、それから谷のいくつかの場所を調査したいと思います」

「特に『月影の森』と『星見の丘』に興味があります」学生の一人が熱心に言った。「古代の魔法痕が残っているという記録があるんです」

エレノアは頷いた。「村長のオスカーに案内を頼みましょう。彼なら谷のことを誰よりも知っています」

話し合いが進む中、エレノアはクラウディアが彼女に対して不思議な視線を送っていることに気づいた。まるで、何か言いたげな表情だ。
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