【完結】悪役令嬢のスローライフ

きゅちゃん

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雪解け

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会議が終わり、学生たちとグレイソンが資料を整理している間、エレノアはクラウディアに声をかけた。

「館の庭園を見てみませんか?この季節は特に美しいんです」

クラウディアは少し驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑んだ。「ぜひ拝見したいです」

二人は庭に出た。初夏の陽射しが花々を照らし、蜂が忙しそうに飛び回っている。

「素晴らしい庭ですね」クラウディアは素直に感心した。「エレノア様が手入れされているのですか?」

「ええ、一部は。特に薬草の区画は私の担当なの」

クラウディアは不思議そうな表情で彼女を見た。「変わりましたね...」

「え?」

「いいえ、その...」クラウディアは言葉を選ぶように続けた。「アカデミーでは園芸のことなど、一度も口にされなかったので」

エレノアは少し照れたように笑った。「そうね。以前の私は、実用的でないことに価値を見いだせなかったから」

「では、なぜ...」

「ここに来てから、小さな喜びを見つけることを覚えたの」エレノアは咲き誇るラベンダーに手を伸ばした。「これは私が育てた最初の植物よ」

クラウディアは素直に驚いた表情を見せた。「エレノア様...本当に変わられましたね」

「そう思う?」エレノアは彼女をまっすぐ見た。「かつての『金糸の蛇』は、もういないと?」

「いいえ」クラウディアは首を横に振った。「金糸の輝きは今も健在です。ただ、その輝きが...柔らかくなりました」

エレノアは思わず笑った。「面白い表現ね」

「失礼しました」クラウディアも少し笑みを浮かべた。

「いいえ、嬉しいわ」エレノアは正直に言った。「実は...あなたの訪問を聞いた時、少し緊張したの」

「私もです」クラウディアは素直に認めた。「アカデミー時代の『氷の女王』と『金糸の蛇』の因縁は、誰もが知るところでしたから」

二人は互いに視線を交わし、そして同時に笑い出した。長年の緊張が、不思議と解けていくような感覚だった。

「あの頃は、互いを本当の敵だと思っていたわね」

「ええ。でも今思えば、私たちは似ていたのかもしれません」クラウディアは静かに言った。「周囲の期待に応えようと、必死だったという点で」

エレノアは驚いた。クラウディアがそんな内面を持っていたとは思わなかった。

「帝都でのあなたの突然の引退は、大きな話題になりました」クラウディアは続けた。「多くの人が『エレノア・グランツェントが挫折した』と言いましたが...私はそうは思いませんでした」

「なぜ?」

「あなたは常に自分の選択に自信を持っていました。それが『挫折』によるものとは思えなかったのです」

エレノアは感謝の気持ちを込めて微笑んだ。「ありがとう。実は...」彼女は少し言いよどんだ。「新しい道を選んだだけなの」

会話は自然と、アカデミー時代の思い出や、その後の二人の人生へと移っていった。クラウディアは王立研究所で古代文化の研究を続け、エレノアは領地での新しい生活を始めた。互いの道は違えど、それぞれが自分の選択に向き合い、歩んでいることを知った。

「そうだ、聞いてください」クラウディアが急に思い出したように言った。「アカデミーのレイナ先生が、あなたの『地域経済活性化論』を今でも教材として使っているんです」

「え?あの未完成のレポート?」エレノアは驚いた。アカデミー最終年の研究課題として彼女が書いた論文だった。

「はい。特に辺境地域の資源活用の部分が優れていると。あなたは理論だけでなく、今それを実践されているんですね」

エレノアは少し照れながらも、誇らしく感じた。「まだ始まったばかりよ。養蜂事業も軌道に乗り始めたところだし...」

夕方、エレノアはクラウディアと共に村を訪れた。調査チームは村の長老たちから伝承を聞き取る予定だったが、エレノアは彼女に養蜂場を見せたいと思ったのだ。

「ここが『蜜風農園』です」エレノアは誇らしげに案内した。「嵐の被害からほぼ復旧しました」

養蜂場では、トーマスが若者たちに蜂の世話を教えていた。エレノアとクラウディアの姿を見つけると、彼は笑顔で手を振った。

「レディ・エレノア!そしてお客様。ようこそ」

エレノアはトーマスにクラウディアを紹介し、養蜂事業の説明をした。

「素晴らしいですね」クラウディアは純粋に感心した様子だった。「アカデミーでも、実際の地域開発の事例として紹介すべきです」

養蜂場を後にし、村の中心部に戻る道すがら、二人は村人たちとの挨拶を交わした。エレノアに対する村人たちの親しみのある態度に、クラウディアは驚いた様子だった。

「村の人々があなたを本当に慕っているのですね」

エレノアは微笑んだ。「最初はそうでもなかったわ。でも少しずつ、理解し合えるようになったの」

その時、リリアンが駆け寄ってきた。「エレノアお姉様!」

少女は走ってくる途中で、クラウディアの存在に気づき、急に立ち止まった。初めて見る美しい貴婦人に、緊張した様子だ。

「リリアン、こちらはクラウディア・フォン・ローゼンブルクさん。私のアカデミー時代の友人よ」

エレノアが「友人」と紹介したことに、クラウディア自身が一番驚いたようだった。彼女は優しくリリアンに微笑みかけた。

「こんにちは、リリアン。素敵な名前ね」

リリアンは恥ずかしそうに頭を下げた。「はじめまして...」

「リリアンは村の子供たちの中でも、特に読み書きが得意なの」エレノアが誇らしげに言った。「将来が楽しみな子よ」

クラウディアは感心した表情でエレノアを見た。「村の子供たちの教育にも関わっているのですね」

「週に一度、読み聞かせをしているの。そして最近は、簡単な学校を開くことも検討しているの」

リリアンは嬉しそうに言った。「エレノアお姉様が先生になってくれるの!」

クラウディアは微笑んだ。「それは素晴らしいわ。私も教育には強い関心があるの。もし良ければ、アカデミーの基礎教育カリキュラムをお送りします」

「ありがとう、助かるわ」

リリアンを見送った後、クラウディアはしみじみと言った。「アカデミー時代、あなたがこんな風に子供と接する姿は想像できませんでした」

「そうね...」エレノアは少し遠い目をした。「あの頃の私は、周囲に壁を作っていたから」

二人は夕暮れの村を歩きながら、さらに語り合った。帝都の最新情勢、アカデミーの変化、そして何より、互いの内面の変化について。
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