【完結】悪役令嬢のスローライフ

きゅちゃん

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過去からの手紙

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帝都出発の三日前、エレノアは最後の村の視察を行っていた。紅葉が深まる秋の午後、蒼穹の湖畔を歩いていると、セバスチャンが急ぎ足で近づいてきた。

「お嬢様、館に特別な手紙が届いております。差出人は...お母様です」

エレノアは驚いた。母からの手紙は月に一度程度で、緊急の用件でもない限り特別便で送られてくることはない。

館に戻ると、書斎の机に母の筆跡で書かれた封筒が置かれていた。封蝋には見慣れないグランツェント家の古い紋章が使われている。

封を切ると、母の普段の上品な文字とは違う、急いで書かれたような手紙が出てきた。

*「エレノア、急ぎお知らせしなければならないことがあります。私たちの家系について、あなたが知らなかった重要な事実が判明しました。」*

エレノアは続きを読み進めた。

*「実は、グランツェント家は単なる子爵家ではありません。三百年前、初代皇帝の時代に『銀の守護騎士』という特別な称号を与えられた家系なのです。その証拠が『銀の鈴』でした。」*

エレノアの手が震えた。銀の鈴がそれほど重要な意味を持っていたとは。

*「この事実は長い間秘匿されてきました。なぜなら『銀の守護騎士』は帝国に危機が迫った時、特別な権限を行使できる立場にあるからです。しかし最近、帝都の古文書館で偶然この記録が発見され、一部の貴族の間で話題となっています。」*

手紙は更に衝撃的な内容に続いた。

*「シュヴァルツ伯爵がこの情報を入手し、あなたの持つ『銀の鈴』の正当性に異議を申し立てる準備をしているようです。彼は古い法廷記録を盾に、鈴の所有権を主張するつもりのようです。」*

エレノアは深呼吸をした。状況は想像以上に複雑だった。

*「王太子の婚礼で、あなたが注目を集めることを見越して、伯爵は法的な手段で『銀の守護騎士』の地位とその象徴である鈴を奪取しようとしています。十分注意してください。そして、必要であれば帝都行きを延期することも検討してください。」*

手紙を読み終えたエレノアは、しばらく椅子に座ったまま動けなかった。グランツェント家の隠された過去、銀の鈴の真の意味、そしてシュヴァルツ伯爵の狙い。すべてが繋がり始めていた。

「お嬢様」マリーがお茶を持って入ってきた。「お顔の色が優れませんが...」

「マリー、オスカーとアイリスを呼んでもらえる?緊急に相談したいことがあるの」

一時間後、書斎にはオスカー、セバスチャン、そしてアイリスが集まっていた。エレノアは母からの手紙の内容を説明した。

「銀の守護騎士...」アイリスが深く頷いた。「やはりそうでしたか」

「あなたは知っていたの?」エレノアが尋ねた。

「薄々感じてはいました。あなたが銀の鈴を手にした時の谷の反応、守護者の強い共鳴...通常の領主では説明がつかなかったのです」

セバスチャンが古い記憶を辿るように言った。「確かに、私の祖父から聞いた話では、初代様は皇帝から特別な任務を負っていたと...詳細は秘密とされていましたが」

オスカーは実用的な観点から問題を整理した。「つまり、シュヴァルツ伯爵はお嬢様の地位そのものを脅かそうとしているということですね」

「そういうことになるわね」エレノアは立ち上がった。「でも、私は帝都行きを延期するつもりはない」

全員が驚いた表情を見せた。

「お嬢様、危険です」セバスチャンが反対した。

「いいえ」エレノアは決然と言った。「逃げていては何も解決しない。むしろ、王太子の婚礼という公の場で、私の正当性を証明してみせる」

アイリスが微笑んだ。「さすがです。それでは、準備をしましょう」

「準備?」

「銀の鈴の真の力を部分的に覚醒させる儀式です。完全な覚醒は帰国後に行いますが、最低限の守護力は必要でしょう」

その夜、蒼穹の湖畔で密かに儀式が行われた。月明かりの下、アイリスの指導でエレノアは古い言葉を唱えた。

「銀風よ、我に力を。守護者よ、我に加護を」

銀の鈴が青白く光り始め、エレノアの周りに微かな風が吹いた。鈴は以前より温かく、まるで生きているかのように感じられた。

「これで帝都でも最低限の守護を受けられるでしょう」アイリスが安心したように言った。

翌日、エレノアは村人たちに出発の挨拶をした。不安な表情を見せる人々に、彼女は力強く語りかけた。

「私は必ず戻ってきます。そして、銀風の谷の素晴らしさを帝国中に示してきます」

リリアンが泣きながら花束を差し出した。「お姉様、気をつけて...」

「大丈夫よ、リリアン。あなたたちがここで頑張っているから、私も強くいられるの」

トーマスと若者たちは、特製の蜂蜜セットを最終確認していた。

「レディ・エレノア、最高の品をお届けします」ノアが誇らしげに言った。

「ありがとう。みんなの想いと一緒に持参するわ」

出発の朝、エレノアは館のバルコニーから谷を見渡した。紅葉に染まった美しい風景、静かに流れる銀流川、そして遠くに見える蒼穹の湖。すべてが愛おしく思えた。

「お嬢様、馬車の準備が整いました」セバスチャンが報告した。

荷物には、蜂蜜製品、村の工芸品、そして何より大切な銀の鈴が含まれていた。エレノアは深呼吸をし、新たな戦いへの決意を固めた。

馬車が動き出すと、村人たちが手を振って見送ってくれた。エレノアは窓から手を振り返しながら、心の中で誓った。

*必ず勝利して帰る。銀風の谷のために、そして愛する人々のために*

馬車は帝都への道を進んでいく。車窓から見える風景が変わっていく中、エレノアは母からの手紙を読み返していた。過去の秘密が明かされ、新たな戦いが始まろうとしていた。

しかし、彼女にはもう恐れはなかった。村人たちとの絆、守護者の加護、そして自分自身の成長。すべてが彼女を支えている。

「シュヴァルツ伯爵...あなたの思い通りにはさせない」

エレノアは銀の鈴を握りしめ、帝都での決戦に備えた。運命の舞台が、まもなく幕を開けようとしていた。​​​​​​​​​​​​​​​​
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