転生者G-転生前はゴキブリでした-

花鳴カナリア

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    大冒険への序章

 二本足のG

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 Gは階段を降りて室内に入るなり両手を上げた。
挙げ句は大袈裟に首を振り、溜め息までこぼす始末だ。

「町中探し回ってようやく見付けたかと思えば、こんな物騒な人達を相手に何をしているのやら。
二本足さんの運の無さには流石のGもお手上げです」
「へっ、なんだ。
ただのチキン野郎かよ」

その奇行を降参の意思と読み取ったハロルドが、Gの首に短剣を突き付けた。

「安心しな。
お前みたいな優男でも性奴隷として需要がない訳じゃねぇ。
金持ちの太ったマダムに男色家のオッサン、相手は選べねえけどな」

Gの指がゆっくりと短剣を一撫でする。
すると刃が氷のように砕け散り、束だけを残してその形を一瞬で失った。

「なんだぁ?!
じ、ジェイル、こいつぁ化けモンだっ!」

後退りしてジェイルの元に逃げ帰ると、ハロルドは背中の杖を手に取った。

「お前が発動までの時間を稼げ!
とっておきの魔法であいつを灰にしてやる」
「……解った」
 
無表情のまま、ジェイルが剣を正面に構えた。
何を考えているかは解らないが、それだけに不気味な雰囲気を漂わせている。
気品のある顔立ちからは想像出来なかったが、ハロルドに加担する以上、彼も悪党に違いない。
酒場で一瞬でも好感を抱いた自分をユリカは恥じた。

「さっきのは闇属性の消滅魔法だろう?
お前、どこでそんなものを覚えた」

間合いを探りながらジェイルがGに問い掛ける。

「ほほう、剣士様は禁術の知識がおありなのですか?
僕の指先は万物の分子配列を強制的に組み換えて瞬時に分解します。
まぁ、常駐スキルなので魔法とは少々異なりますが」
「魔族の幹部クラスのスキルだぞ?!
そんなものを常駐だと……」

ポーカーフェイスを貫いていたジェイルの表情が初めて崩れた。
長年の相棒を確かめるように剣の束を握り直し、じりじりと間合いをはかる。

「どうやら貴様を人間と思わない方がいいらしいな」
「Gですからね。
それよりずっとそうしてるつもりですか?
後ろの人も呪文の詠唱始めちゃってるし、僕は二本足さんを連れて早く帰りたいんですけど」

Gがくるりと後ろを向けた。
その背中はあまりにも無防備で隙だらけだ。

「なあに、直ぐ終わるさ。
お前がこいつでくたばったらな!」

ジェイルは一気に間合いを詰めると長剣を振り上げ、Gの首筋から斜めに袈裟斬りにしようとした。
だが、次の瞬間。
攻撃を繰り出した側のジェイルの手から、剣がごとりと床に落下する。
まるで岩か金属にでも斬りつけたかのような衝撃が手首に走り、思わず柄から手を離したのだ。

「あ。一つ言い忘れてましたけど、僕の体は金剛石級の硬度を誇ります。
普通の武器じゃ傷ひとつ付けられませんのであしからず。
常駐スキルその二、超硬質強化です」
「……また幹部クラスのスキルか。
二つもの特殊スキルを修得しているとは恐れ入る」

ジェイルの顔色が青ざめて見えるのは気のせいではないだろう。
それでも逃げずに落とした剣を掴む辺りに、彼の剣士としての誇りが垣間見えた。

「いえいえ、二つじゃありません。
誰かさんが欲張って神様と交渉してくれたお蔭で、僕は最上級特殊かわりだねスキルを四十八種修得しています。
中には魔神召喚のスキルなんてのもありますよ。
宴会芸代わりに御披露目しましょうか?」

呆然とするジェイル。
そこに-。

「ジェイル、そこを退けぇっ‼」

ハロルドの甲高い声が響いた。
背後に猛烈な熱気を感知したジェイルは、素早く横っ飛びして回避行動をとる。

「……ハァ、ハァ。
ようやく完成したぞ、ゴキブリ野郎。
お前はもうおしまいだ。
火炎系上級魔法、炎精王の槍イフリートジャベリンの威力。
とくと味わえ‼」

その頭上に巨大な火炎槍を従えたハロルドが、狂気じみた雄叫びを上げた。
と同時に放たれた槍がG目掛けて襲い来る。
-なんて強力な炎の魔法なの。
ユリカは邪悪な魔導師の底力に驚愕した。
ジェイルもその場で硬直し、炎の矛の向かう先を見詰めている。

「ゴキブリなんてこうやって、燃やしちまえばイイのさぁ!
キィハハハハハハッ‼」

それぞれの思いが交錯するなか、Gはその攻撃を受けるでもなく、避けるでもなく、再び背中を向けた。

「バカめっ!
炎精王の槍は山をも穿うがつ破壊力を持っている。
さっきと同じ手が通用すると思ったら大間違いよ!」

轟々と唸りを上げて飛来した火炎槍がGの背中を焼き、その体を貫通した。

「Gーーーーっ!」



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