転生者Ｇ－転生前はゴキブリでした－

大冒険への序章

一件落着?

　「人間でもやっぱり同じリアクションになるんですね。
一度これをやってみたかったのです」

Ｇは満足げにジェイルに缶を手渡すと、耳元で囁いた。

「あなたの剣には迷いがあった。
どんな事情かは知りませんが、悪い事は悪い事ですよ」

その言葉にハッとして顔を上げるジェイル。
Ｇは片手で印を結び、指先を天に向けた。
同時に酒樽の蓋がすべて吹き飛び、娘達を拘束していたロープが次々に千切れていく。

「私達……助かったの?」
「ありがとう、ありがとうっ!」

娘達が口々に二人に礼を告げ、階段上の出口へと走って行った。
これで事件は一件落着したかに思われた、が。

「きゃあーーっ‼」

予期せず甲板の上から叫び声が響いた。
Ｇとユリカが急いで階段を駆け上がると、

「こいつはいったい、どういう事だ?
どうして俺様の商品が逃げ出してやがる!」

船乗りの男が逃げ出した一人の娘の髪を掴み、他の娘達に詰め寄っていた。

「その子を離しなさい!」

ユリカが男に向かって叫んだが、素直に聞き入れるような相手ではない。

「お前はさっきの新入りじゃねえか。
チッ、ハロルド達め、何をしてやがる」

顎髭あごひげをボリボリと指で掻き、男は片手斧ハンドアクスを構えた。

「Ｇ、あんたは下がってなさい。
ここは私が……」

甦ったばかりのＧの体を気遣い、ユリカが素手で前に出た。

「ほう?
女だてらに丸腰で俺とやり合おうってのか。
こいつは傑作だ!」

男は捕まえていた女を放り出すと、ユリカに向かって突進した。
Ｇに比べれば鈍重で欠伸が出そうな動きだ。
捕まりさえしなければ体術だけでも勝算は充分にある。
襲い来る巨体を直前でかわし足払いを見舞おうとしたところ、予想外に大きな波が押し寄せユリカの体が斜めに転倒した。

「しまっ……?!」
「ガハハッ!
貰ったぁ‼」

振り下ろされた斧が尻餅をついているユリカの顔面に迫る。
その刹那、男が白目を剥いて甲板の上へと倒れた。

「……Ｇ、ショック。
やれやれ、油断は禁物ですよ」

凸ピンのような形で男の額に照準を合わせていたＧが、指の構えを解いて汗を拭った。

「だ、大丈夫よ。
私には超回復術があるんだから!」

強がって見せるユリカに、

「残念なお知らせです、二本足さん。
そのスキルは自分自身には効果がありません」

Ｇはちっとも残念な素振りを見せずに告げた。

「へ?
私、無敵の肉体じゃないの?」
「はい。
瀕死の者をも息を吹き返す強力な回復スキルですが、その有効範囲は触れている対象のみ。
繰り返しますが自己再生能力ではありません。
『他者再生能力』です」
「そんなぁーーっ‼
せっかくチートっぽいスキルを手に入れたと思ったのにぃ」

その後、異国に売られそうになっていた娘達を全員無事に家に帰すと、二人はハロルドと船乗りの男を町の警備兵につきだした。
ジェイルの姿が船内から忽然と消えていたのには焦ったが、Ｇの説得でユリカは追跡を諦めた。
こうして長い夜が明け、朝陽が町に降り注ぐ頃、眠気と疲労で限界を迎えていたユリカは宿に戻って深い眠りについたのだった。