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Ⅰ 父と子
ただの務めだ
しおりを挟むファランはぎこちない動きでGの傍を離れた。
その両手はしっかりとスカートの裾を押さえたままだ。
「今ので何処かお怪我でもされましたか?」
おどおどしながら戸惑うGに、ファランは数歩後退りする。
「き、貴殿は本当にゴキブリなのか?」
「はい。
正確にはゴキブリだった、が正しいですが」
Gはファランにこれまでの経緯を説明した。
「転生者の噂は耳にした事があったが、いきなり現れてそうだと言われても俄には信じられんな。
話の真偽はともかく、門が開かなくて困るから私を捜索しに来たと?」
チラチラと視線を落としながら、ファランはGに問い掛けた。
「じきに陽も暮れます。
いくら弱いモンスターしかいない森の中とはいえ夜は危険でしょうし、今日のところは出直してはどうですか?」
「それは出来ない。
私は一人でも立派に領主の務めを果たすと、亡き父上の墓前で固く誓ったのだ。
このまま生け贄一匹捕えられず、おめおめと舞い戻っては街中の笑い者となろう」
「人間が拘りがちな体裁ってやつですか?」
「……いいや、ただの務めだ」
ファランは少し寂しげに俯いた。
-女の子には常に優しく!
ユリカの言葉を思い出し、Gはファランの肩に手を置いた。
「ではこのGが、生け贄とやらを捕まえるお手伝いを致しましょう」
「なっ、何を言っているのだ。
助けに来てくれた事は感謝するが、あれを捕らえるとなると無事で済むかも解らんのだぞ?!」
「案外、すんなり行くかも知れませんよ」
どんな狂暴なモンスターや獣が相手だろうと勝てる自信はある。
その余裕があればこその発言だった。
「しかし、敵は素早く用心深い。
二人がかりでも捕獲できる確率は、万に一つもあるかどうか」
「どんな強敵なのか会うのが楽しみになってきました。
ではファラン様、こんな洞窟さっさと抜け出してしまいましょう!」
Gがファランの腕を引っ張った拍子に、破れたスカートの隙間からチラリとストライプの下着が見えた。
「……見たな」
頬を真っ赤に染めたファランの目に涙が浮かぶ。
「え、ええと。
じ、Gはですね。
水色と白はあまり好きでは、じゃなくて、人間の下着を見ても何も感じませんので」
人間の雌が下着や裸体に異常な羞恥心を持っている事を、Gはユリカとの一件で学習していた。
それがどんなに恐ろしい結果を招くのかも。
「……色まではっきり言い当ておって。
ゴキブリ、殺す」
「ほ、ほ、本当に気にしないで下さい。
その破れた箇所、直しておきますね」
Gは落ちていた枯れ葉をそそくさと拾い集めると、損傷したスカートの上に貼り付けた。
「コロエコロコエコ、エコロG」
ふざけた呪文だと自分でも思う。
しかし、この特殊スキルもユリカが転生神に注文して無理矢理作らせたもの。
その効果は折り紙つきだった。
「スカートのほつれが葉っぱで補修されていく?
こんなスキルは見た事がないぞ」
ファランは先程までの恥ずかしさも忘れて一回転すると、元通りになった赤いスカートを風に翻した。
「エコロGは自然界にある物質を使ってアイテムを修理する特殊スキルです。
地味ですが、これが結構便利なんですよ」
「えころじー?
聞いた事もない言葉だが」
「要するに、限りある資源を大切にって事です」
よく解らない説明をされ、尚更考え込むファランだった。
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