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Ⅰ 父と子
モルトンの変心
しおりを挟むそれらしく胸元で斜めに十字を切ってみせる。
この地方で崇められている祭神と言えばナーシェの筈だ。
嫌々通っていた神官学校の授業がこんな所で役立った事に、ユリカはこっそりほくそ笑んだ。
「おぉ、あのセントフィルマの?!
ファラン様にそんなパイプがあったとは」
「いったい、裏でどれだけの金が動いたんだ」
「パイプとか金とか言うでないっ。
大司祭様はあくまでも御厚意でマラカーンに来て下さったのだ。
さぁ、道を開けよ!
私はこれよりユリカ様と白聖祭の準備に取り掛かる」
ファランの一声で男達は街道の脇へと退いた。
ただ一人、痩せ細った老人を除いては-。
「皆の者、騙されるでないぞ。
こやつは大司祭の名を騙る、真っ赤な偽者じゃ!」
口から心臓が飛び出そうになる三人。
ここで嘘がばれては全てが水の泡になる。
「も、も、モルトン神父。
大司祭に失礼であろう!
貴殿は唐突に何を言い出すのだ」
そう言うファランの目は明らかに泳いでいた。
「ファラン様、お戯れが過ぎますぞ。
こんな怪しい風貌の者達が、セントフィルマの司祭である訳がないでしょう。
毎年、白聖祭の祈祷は我が教会の者が行っておる事をお忘れか。
見たところ手ぶらのご様子ですが、生け贄の月光蝶はどうしたのです?
まさか丸一日、花冠を作って遊んでいた訳でもありますまい」
次々に痛い所を突かれて口をつぐむファラン。
そこにGが助け船を出した。
「これはモルトン神父様。
お久しぶりに御座います」
「……なんじゃお主は。
儂には詐欺師の知り合いなぞおらんぞ」
「アハハ、これは手厳しいですね。
僕は三年前の王都でナーシェ教団の方々に祝福を受けた者の一人なのですが」
モルトンは穴の空くほどGの顔を覗き込むと、やがて何かに気付いて薄い唇を震わせた。
「三年前の、王都?
あ、あな……貴方様はまさかぁっ?!」
「シーッ。
ここからは二人だけで話しましょうか」
モルトンの口を塞ぎ、にこやかに微笑むG。
一方で訳が解らず困惑しているのはそれ以外の面々である。
モルトンとGは二人でしばらく内緒話を交わし、やがて折り合いがついた様子で皆の元へと戻ってきた。
「だ、大司祭ユリカ様。
先程はとんだご無礼を働きました事、何卒御容赦願いたい」
「……え?」
「白霊祭はこの地方で行われる祭祀の内、もっともナーシェの御心を感じ取れると古来より伝えられておりまする。
その年一度の大祭で大司祭様に御祈祷頂けるなど、ナーシェ教会マラカーン支部始まって以来の光栄の極み。
ささ、時間が御座いませんぞ。
すぐにお支度をば整えませぬと!」
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