オトガイの雫

なこ

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雫と伊央

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「…で、その後どう?何か、変わった?」

「…変わったと部分と、変わらない部分と…。正直、よくわからないんです。」

伊央と付き合うことになったと小夜先輩に告げると、小夜先輩はなんとも言えない複雑そうな顔をした。

伊央のことが信じられないからだと言う。

俺自身もよくわからない。

付き合うことになり、すぐに先輩に報告し、それからもう2週間が経った。

学食で向かい合う小夜先輩は、眉間に皺を寄せたままだ。

伊央との生活は不思議なほど今まで通りで、あの出来事は夢だったんじゃないかと思っていると、ふいに抱きしめられたり、軽くキスをされたりする。

それから、伊央が夜遅く帰ってくることもなくなった。

女の人の影は見当たらない。

「…本気、なのかな。」

「……どうでしょう。」

「なんとなく、そんな気もしなくもなかったんだけど、なんか、なんか、気に食わない。」

「どうしてそう思うんですか?」

「だって、あの人が付き合う相手って、どことなくいつも顔だけは、少ーしだけ雫君に似ていたから。顔だけね。ほんとに、すこーーーしだけね。」

親指と人差し指を使って、先輩は何度も少しを強調した。

「そうですかね。全然似てないと思うんですけど…」

「うわっ!」

小夜先輩の声に驚いて後ろを振り向くと、伊央が俺の肩に手を置いて隣りに座ってきた。

周りの人も驚いているようで、周囲の視線が痛い。

「雫がお世話になっているようで。」

「…僕はまだ信じてないから。」

小夜先輩が、うーーーっと震える声を出して威嚇している。

本人は威嚇しているつもりだろうけど、むしろ可愛いく見えてしまう。

「…俺は本気なんで。雫に信じてもらえればいいんです。そんな威嚇しても、怖くないですよ。」

「本当に、大事にする?信じていいの?」

小夜先輩の言葉は、そのまんま俺の気持ちを代弁している。信じていいんだよ、ね?

「ええ、雫がいればいいんで。他はどうでもいいから。雫に変なのが近寄らないように、威嚇頼みますね。雫、バイトが終わったら、早く帰ってこいよ。」

そう言って、俺の頭を一撫ですると、伊央は行ってしまった。

「何あれ!なんか、なんか、むかつく!…ちょっと、雫くん、顔、赤いよ。」

伊央に頭を撫でられただけで、胸が高まる。

「もう!こうなったら、ちゃんと上手くいってね!!」

小夜先輩の言葉に頷く。

もう、とっくに信じているんだと思う。

馬鹿で単純だと言われても、いいんだ。




「ちょ、イオ、今のなんだよ!」

「何が?」

席に戻ると、友人二人がけたたましく話しかけてくる。

「一緒に暮らしてるのって、ほんとにあの雫くんなのか?」

「…そうだけど。」

「まじか!え、紹介してよ。」

「やだ。」

「は?なんで?」

「やだから。お前らには紹介しない。」

友人たちが、文句を言ってくるが聞き流す。

「なんでだよ。俺も話してみたいのに。」

「だめ。」

「は?減るもんじゃないだろ。けち!」

つい今し方頭を一撫でしてきた雫の方を見ると、まだ頬を赤らめて麺をすすっている。

あのまま隣でずっと見ていたかったが、そのまま抱きしめてしまいたい衝動に耐えてこの席に戻ってきた。

いい加減信じて欲しいところだが、まだまだ無理なんだろうか。

「…はあ。」

深くため息が出る。

「なんだよ、イオ、最近ため息が多くね?」

「悩みでもあるのか?女?んな訳ないか。で、あのこっちを睨んでる女とは別れたんだろ。また違う女できたのか?」

「…付き合ってる奴いる。」

「へえ、まさかその子のことで、悩んでるとか?」

「イオに限って、んなことないだろ。どうせすぐまた別れるんだから。こっちにも回してくれよ、少しぐらいさ。」

「…別れる訳ないだろ。やっと手に入ったんだ。」

え???

二人のきょとんとした顔を見て、また深くもう一度ため息が出た。




テレビ画面には、抑揚のないフランス映画が流れている。

フランス語特有の心地いい響きを耳にしながら、ぼうっと色彩豊かな画像を眺めていると、伊央が肩を組んできて、軽く額にキスをする。

「…雫、なんだかぼうっとしてるけど、どうした?これ雫が観たかった映画だろ?」

「ん、今日は、ちょっと。先にお風呂入ってくる。」

バイトから帰ると、伊央が夕飯を作って待っていてくれた。

それから、俺が観たいと言っていた映画を観ようと準備してくれていたのに、全然集中できない。

伊央は、キス以上はしてこない。

俺が信じられるまで待つと言っていた通り、キス止まりだ。

それ以上を期待して、眠れずに過ごしているのは俺だけなのかもしれない。

明日は休みで、二人とも何の予定もない。

念入りに身体を洗って、後ろをほぐす。

伊央は本当に抱いてくれるんだろうか。

男の身体に欲情してくれるんだろうか。

お風呂から上がると、スマホに目を通していた伊央が顔をあげる。

「体調悪いのか?早めに寝るか?」

「…伊央、…伊央も、シャワー浴びてきて。俺、信じてるから。信じたい。」

「…雫?」

「…何度も言うようだけど、俺、男だよ。伊央、俺のこと本当に抱ける?」











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