オトガイの雫

なこ

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雫と伊央

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「ふ、はっ!…雫は、本当に何もわかっていないんだな。」

手にしていたスマホを置くと、伊央は立ち上がって俺の真向かいに立ち塞がった。

何がおかしいのか、声を出して笑い続けている。

「……なんで、笑うんだよ。」

「雫が全然わかっていないから。」

「…何を?」

「ふはっ、まあいいか、すぐにわかる。俺の部屋で待っててくれるか?」

軽く頬に撫でるように触れると、伊央はシャワールームへ行ってしまった。

流しっぱなしだった映画の中では、愛の言葉を囁きながら、男女二人が激しく睦み合っている。

テーブルの上に置かれた飲みかけの炭酸水を口にすると、口の中にしゅわっと広がり、びりびりと舌に残る。

伊央がいつも飲んでいる無糖の炭酸水だ。

「…ぴりぴりする。」

テレビの電源を落とせば、部屋の中は急にしんと静まりかえった。

ほとんど入ることのなかった伊央の部屋に踏み入る。

伊央の匂いに満ちている、伊央の部屋。

「伊央…。」

少しだけ空いたままのカーテンを閉じようとして、足が止まる。

薄らと結露が浮かぶ窓に映るのは、顔だけは女のようだと言われても、身体つきはどう見ても男でしかない自分の姿だ。

「………。」

さっとカーテンを閉じて、ベッドに横たわる。

伊央のベッドは、自分のそれとは比べものにならない程広くて大きい。

「……い、、お。」

ずっと待ち望んでいた時が近づいているかもしれないのに、どうしてだろう、怖くてたまらない。




風呂上がりの雫は目に毒だ。

スマホでどうでもいいくだらない動画を観て、なんとか気を紛らわそうとする。

今日の雫はいつもより口数が少なく、どこかぼうっとしている。

観たいと言っていた映画を流しても、心ここにあらずといった様子で、さっさと風呂に行ってしまった。

体調でも悪いんだろうか。

こんな時、せめて隣りで眠れたらと思う。

隣の部屋、壁一枚といっても、そこにはまだ大きな距離を感じる。

_____何もしないから、一緒に寝ないか?

そう言いたいのに、そんないかにも何かが起こるフラグのような台詞、口にすることができない。

実際、起こしかねない。

「……はあああ。」

いい加減、このため息もなんとかしたい。

そんな俺に、風呂上がりの雫が無防備な台詞を吐いた。

____抱ける?

引き金を弾いたのは、雫だ。




部屋の中は薄暗く、雫は俺の枕に顔を埋め
て横たわっている。

雫が、俺のベッドに横たわっている。

「具合、悪いのか?」

顔だけを起こして、雫は首を振る。

「…大丈夫。なんでもないから…。伊央、髪濡れたままだね。少し、乾かそうか?」

「いや、今日はいい。」

「…伊央?」

横たわるその上に跨ると、その下の華奢な身体が固く強張るのがわかる。

「…雫が言い出したんだろ。今日はもう止められないから。」

「…あ、まっ、」

何度か啄むようにその口を喰むと、緩く開いたその中に舌を滑り込ませる。

遠慮がちな雫の舌に何度も絡ませるように吸い付くと、少しずつそれに応えようとする拙さが、たまらなく愛おしい。

くちゅくちゅと響く舌の絡み合う音と共に、口端からは二人の唾液が混ざり合って滴りおちる。

「ん、まっ…い、お、ん…、あっ」

まだ、まだだ…

雫の口腔全てを貪り尽くし、やっと口を離すと、唾液が細く糸を引くその先で、はあはあと口で息をする雫が見上げてくる。

ぷつり、と音がした。

その瞬間、確かに理性が切れる音が聞こえた。

「…い、お、苦し…」

「雫は、まだまだわかっちゃいない。」

「…い、お?」

不思議そうに見上げる雫にもう一度深く口付けし、真っ白なうなじに舌を這わせる。

高校の頃、いつも後ろから眺めていたあの真っ白なうなじを軽く甘噛みすると、雫の身体はびくっと震える。

ずっと、ずっと、俺はこうしたかったんだな。

あの頃から、ずっと。

「服、脱いで。」

上半身裸の俺とは違い、雫はTシャツを着たままだ。

そのTシャツに手を伸ばすと、雫は少しの抵抗をする。

「…脱がなきゃ、だめ…?」

「ああ、全部脱いで欲しい。」

「………、だっ、て、」

「全部、見たい。」

「だって、こんな身体見たら、きっと、きっと…」

「きっと?」

「やっぱり、無理だって、なる、から、」

そう言うと、両手で顔を隠すように覆ってしまった雫は、やっぱりなんもわかっちゃいない。

「…雫、顔隠すなよ。」

「伊央の……がっかりする顔、見たくない。」

「ほんとに、何もわかっちゃいないんだな。…ほら。」

顔を覆う左手をとって、すっかり反り上がった俺のモノを握らせる。

「…え」

「まだキスしかしてないのに、わかるか?」

耳元でそう囁くと、ぎゅっと閉じられていた目が少しずつ開いていく。

「…い、お?」

「ちゃんとわかるまで、今日はずっと離さないから。」

その耳に舌を滑り込ませると、雫の身体は面白いほどに、またびくっと跳ね上がった。




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