運命と運命の人

なこ

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第3章

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リヒトとマリが戻り、賑やかで、それでいて穏やかに、ユアンの日々は過ぎて行った。

長めで難解な翻訳や、カイゼルの処理した書類の取りまとめ、整理など、少しずつ任されることが増えてきた。

カイゼルの執務室の隣りには、2人の事務官が控えており、毎日忙しそうに仕事をしている。

いつの間にか、カイゼルと彼らの部屋を行き交い、パイプ役のような役割もこなすようになっていた。

「ユアン様が来てくださり、本当に助かっております!時間がかかる翻訳をしなくていいですし、仕事がだいぶ減りました。」

「カイゼル様のところへ、どちらが書類を届けるか揉めることもなくなりました!」

2人は、うんうんと顔を見合わせて頷き合う。

ユアンはカイゼルと2人で仕事をしていても何も感じないが、この2人にとっては、それはそれは緊張を伴う、恐ろしいことらしい。

「ユアン様のおかげで、執務室内の雰囲気もだいぶ、こう、緩やかになりました。」

「ユアン様、どうか、ずっとここにいて下さい!」

2人の、泣きそうな懇願に、ユアンは苦笑いした。




今日は、カイゼルがいない。

リヒトとマリを引き連れ、街まで視察に行ってしまったからだ。

マリのいない邸内は静かだ。

執務室内で、ユアンは1人で仕事をしている。

時折、いつもいるカイゼルの方をちらっと見るが、カイゼルはいない。

なんだか、部屋が広く感じる。

ユアンは徐ろに立ち上がると、いつもカイゼルが座る椅子の後ろまで行き、そっとかがみ込んで、自分の席の方へと目を向けた。

「ここから見ると、こう見えるのか。」

ここにいると、なんとなくカイゼルの気配を感じるような気がする。

「…早く帰ってこないかな。」

それは、無意識の呟きだった。




視察が終わった帰り道、マリがどうしても行きたいとねだるので、カイゼルとリヒトは仕方なく、マリに付き合っていた。

「ここ、ここ、最近できたお店でね~、可愛いでしょ~!」

そこは、平民向けの普段使いできるような装飾品を扱う店だった。

高価な宝石類などはなく、安価で可愛いらしい、首飾りや、ブローチ、耳飾りなどが沢山並んでいる。

「わあ、可愛いねぇ~。この間さ、あの気持ち悪いやつに舐められてさ、気持ち悪いから捨てたの。だから、新しい耳飾りが欲しいんだ~。気持ち悪すぎて、いつもより沢山刺してやったよ~。」

先日の任務の話しだろうか。
口調とは裏腹に、全く店内にそぐわない。

店内にいる客のほとんどが、辺境伯の突然の来店に驚き、マリの話しは、耳に入らなかった様子だ。

店長が慌てて、カイゼルに挨拶しようとしたが、カイゼルはそれを制し、静かに店内を見回していた。

「リヒト、どれが似合う~?」

「うーん、俺にはこういうの、よくわからないからなあ。」

「リヒトが選んだやつにする!」

「んー、じゃあ、これ。」

リヒトは、薄桃色の真珠を模した耳飾りを選んだ。

「うわあ、可愛いねえ。」

「この間の任務頑張ってたから、買ってあげるよ。」

「うわあ、リヒト大好き~!」

2人のやり取りを耳にしながら、カイゼルは目の前に並ぶ髪飾りを眺めていた。

頬にかかる薄金色の髪を、時折耳にかけながら、1人ポツンと仕事をしているユアンの姿が目に浮かぶ。

乳白色の台座に鈴蘭の花模様が施され、所々小さな緑色の石が付いた髪飾りを手に取ると、それを一つ買い求めた。

店主も、リヒトもマリも、店内にいた他の客も、皆、驚いていた。











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