21 / 32
第六章
20
しおりを挟むライが王になることを望んでいたのは、カリンの父であるザギエラだ。
幼い時に母を亡くし、西宮の離れでずっと冷遇されていたライのことを、唯一気にかけてくれたのがザギエラだった。
当時、他にライを気に掛ける者は誰もいなかった。
ザギエラの望む通りに感情を殺し、ひたすら学び、剣を振るった。
ザギエラの望む通りに、カリンを王妃とし、世継ぎをもうけた。
ザギエラの望むことは全てやり遂げた。
感情を殺し、その時が来るまで耐えろと言われ続け、漸く手に入れた玉座に腰を据えた時、何かが変わっただろうか。
玉座から見下ろした景色は、ただの血塗られた景色でしかなかった。
「陛下、ご無沙汰しております。お変わりありませんか?」
久しぶりに訪ねてきたザギエラは、幼いライにとってはとても大きな存在だった。今ではどこか、一回り程も小さくなったように見える。
「…そうだな。見ての通りだ。」
「お元気そうで、何よりでございます。」
「何の用だ。」
「王妃が静養されているとお聞ききしまして、見舞いに参りました。」
「…見舞い?」
はっと、ライは鼻で笑う。
「ではゆっくり王妃を見舞うといい。せっかくなのだから、親子水入らずで過ごせばいいではないか。」
「陛下、王妃は陛下のお心遣いにより、静養はもう不要とのことです。それよりも、陛下が訪ねて下さらないことを気に病んでおります。どうか…」
とんとんと、指先で机を叩くと、ライは退屈そうに視線を窓の外へと移した。
「…訪ねてどうする?」
「陛下!王妃は…」
「約束しただろう?」
ザギエラの言葉を、有無を言わさぬ強い口調でライは遮る。
「カリンを王妃にし、世継ぎが生まれるまでだと。其方の望みは全て叶えた筈だが?これ以上何を望む?」
「王妃は、カリンは誰よりも陛下のことをお慕いしているのです。ですから、もっと王妃に寄り添って頂きたいと。」
「其方の言い分も、カリンの要望も余が受け入れる筋合いはない。それ以上余計な言葉を発するのなら、其方の首を刎ねるまでだが、どうする?」
ライの表情は何も変わらない。
前王、前王妃、半分血の繋がった弟の首を躊躇なく刎ねたときと同じ、全くの無表情だ。
黒獅子と呼ばれるようになってからのライには、ザギエラさえも畏怖してしまう。
ここで何かまた一つ、ライの機嫌を損ねるような発言をすれば、間違いなく自分の首は飛ぶとザギエラは理解した。
「…一つだけ、お聞きしたいことが。グレファム公爵から頼まれたことです。」
これまで無表情だったライが、微かに眉を顰める。
「レノアール家の者が王子の世話係として雇われていると噂がたっております。それは誠のことでしょうか。」
暫くの沈黙が続いたが、ライは何も答えようとはしない。
とんとんと、もう一度ライが指先で机を叩くと、ザギエラはそれ以上何も言うことはできず、静かにその場を立ち去るしかなかった。
ザギエラの去った部屋で、ライは一人反芻する。
…グレファム公爵?
サフィアが唯一親しくしていた相手が、グレファム公爵家に婿入りした者だとエリクから報告を受けていた。
その者の前では、いつもあのような笑みを浮かべていたのだろうか。
そう思い当たって、ライは考えるのをやめた。
だから何だと言うのだろう。
ライには関係のないことだ。
昨晩の酒が甘すぎたせいかもしれない。
何が嬉しかったのか、サフィアはライの前で初めて綻ぶような笑みを浮かべた。
しっとりとした庭園で、少し汗ばんだサフィアの姿は艶やかだった。
今まで気にしたこともなかったが、サフィアの言うように、昨晩庭から望んだ花々は本当に美しかった。
ただ、それだけのことだ。
93
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
君に捧げる紅の衣
高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。
でも、その婚姻はまやかしだった。
辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。
ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。
「辰を解放してあげなければ……」
しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
たとえば、俺が幸せになってもいいのなら
夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語―――
父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。
弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。
助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。
【第二章開始】死に戻りに疲れた美貌の傾国王子、生存ルートを模索する
とうこ
BL
その美しさで知られた母に似て美貌の第三王子ツェーレンは、王弟に嫁いだ隣国で不貞を疑われ哀れ極刑に……と思ったら逆行!? しかもまだ夫選びの前。訳が分からないが、同じ道は絶対に御免だ。
「隣国以外でお願いします!」
死を回避する為に選んだ先々でもバラエティ豊かにkillされ続け、巻き戻り続けるツェーレン。これが最後と十二回目の夫となったのは、有名特殊な一族の三男、天才魔術師アレスター。
彼は婚姻を拒絶するが、ツェーレンが呪いを受けていると言い解呪を約束する。
いじられ体質の情けない末っ子天才魔術師×素直前向きな呪われ美形王子。
転移日本人を祖に持つグレイシア三兄弟、三男アレスターの物語。
小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結。ぼちぼち番外編を投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる