黒獅子の愛でる花

なこ

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第八章

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歴史を感じさせる重厚な造りの門を通り抜けると、黄色や橙色、薄い檸檬色、クリーム色の柔らかな色合いをした花々が迎えてくれる。

落ち着いた雰囲気のこの庭を、サフィアは好ましく感じた。

つんつんと袖を引くのは、少し緊張ぎみのルイだ。

「…サリエル閣下はこちらに滞在していらっしゃるとのことです。ルイ王子のことを心待ちにしているそうですよ。」

こくこくと頷くルイの手をとって、安心させるように先を促す。

出迎えてくれたグレファム公爵は恰幅が良く、柔和な面立ちをしていた。

「まあ、ようこそいらっしゃいました。どうぞごゆっくりお寛ぎ下さいませ。」

その後ろから、同じように柔和な面立ちをしたマリアが顔を覗かせる。

おっとりとした、柔らかな声をしている。

リヒトが選んだ女性だ。

「ルイ王子、どうぞこちらへ。」

よく通る聞き慣れた声が、案内してくれる。

もうすっかり、このグレファム公爵家の一員のようだ。

リヒトと目を合わせないように、サフィアはルイと共にサリエルのいる部屋まで案内された。

屋敷の内部も由緒ある公爵家そのもので、艶々に磨かれた装飾品の数々には趣が感じられる。

自分の生家も伯爵家ではあるが、格の違いは一目瞭然だ。

リヒトからの視線を感じつつも、サフィアは気が付かないふりをし、決して目を合わせようとはしなかった。

「ルイ、よく来てくれたな。」

サリエルが訪れたルイのことを抱え上げると、ルイはふあっと声を上げた。

「お、おじいさま…」

「はは、大きくなったなあ、ルイ。」

突然抱き抱えられ、ルイは少しの戸惑いをみせる。

「…父上からは、小さいままだと…」

「いつも見ていると気が付かないものだからな。」

大きくなったと言われ、ルイは嬉しそうにサリエルへと抱擁を返す。

二人見つめ合い、笑顔でまた抱擁し合う様子は微笑ましい。

グレファム家への訪問には、サフィアも躊躇いがあったが、やはりルイを連れ出して良かった。

ルイがこのような姿を見せられる相手はなかなかいない。

「…サフィア君と言ったか?君もよく来てくれた。」

「いえ、こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。」

「我が家でないのが残念だが、此処はとても居心地がいい所だ。それに、君とリヒト君は学生時代からの親友だというじゃないか。まるで、わたしとグレファムのようだな。」

サフィアはどきりとする。

ずっと避けていたリヒトを振り向くと、リヒトはサフィアへと、満面の笑みを浮かべた。

親友?

サフィアはその言葉に、違和感を覚える。

リヒトは今でもサフィアのことを親友だと思っているのだろうか。

「…サフィアのお友達なのですか?」

ルイもリヒトへと興味を抱いたようだ。

「ええ、サフィアだけが唯一の親友です。いや、それ以上の存在です。」

グレファム公爵やマリアのいる前で、リヒトはさらりと、そんな言葉を吐いた。

「…学生時代は確かに…、ですがここ最近は疎遠になっていましたから…」

「そうなんですよ。サフィアは薄情なもので、ルイ王太子のお付きになったことも、王宮で過ごしていることも、何も教えてくれなかったんです。ひどいと思いませんか?」

この場にいる全員からの視線を浴び、サフィアは言葉に詰まる。

確かに親友だった。

そして、それ以上の関係だったのも間違いない。

でもそれを覆したのは、リヒト自身だ。

まるでサフィアの所為だとでもいうばかりに詰めて来るリヒトのことを、恨めしく思う。

「ふむ。ルイの世話で忙しかったのだろう。せっかくだから、君たちも久しぶりの親交を深めるといい。なあ、グレファム?」

サリエルのその一言に、サフィア以外の全員が同意を示した。

そんなつもりはなかった。

此処に来たのはルイのためで、リヒトとは距離をおいて接するつもりでいたのに、これ以上どんな親交を深めるつもりなのか。

「主人はサフィア様とお会いできることも楽しみにしておりましたのよ。よろしければ、別室をご用意してあるので、そちらでお寛ぎいただければ。」

マリアの柔和な笑顔は変わらない。

本当にただの親友だと思っているのだろう。

いや、当時あんな想いを抱いていたのは、もしかしたら自分だけだったのではないかと、サフィアは益々困惑した。

「…今日、訪れたのは、あくまでルイ王子の付き添いですので…」

なんとか振り絞ったサフィアの本気の断りは、誰からも受け入れられることはなかった。







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