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第1章:優等生令嬢は、完璧で、恐ろしい
第3話「告白の回廊と、静かな制圧」
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学院西棟にある「告白の回廊」は、魔術学院内で最も有名な“恋の聖地”だ。
伝説によれば、ここで愛を告げた者たちは必ず結ばれるという。
貴族たちはそれを半ば本気で信じ、放課後になると静かな回廊に人影が絶えない。
――だが今日、その回廊は異様な静けさに包まれていた。
白い石造りの壁に、夕陽が斜めに差し込む。
誰もいないはずのその場に、一歩、また一歩と足音が響いた。
リリアーナ=エグレアだった。
彼女はすでに、“告白の回廊”に関する全記録を調査済みである。
過去十年間、ここで告白が成功した例は47件。そのうち、32件がリリアーナの指示または操作によるものだった。
――そして、今日。
セシリア=ロートベルクが、この場所に“誰か”を呼び出すという噂を聞きつけたのは、今朝のこと。
「夕刻、彼女はここで、王子様と話す予定――だったのですわね」
回廊に設置された魔導水晶がほのかに光る。
リリアーナはその下に立ち、光の中で静かに微笑んだ。
“先に待っている”という選択は、彼女にとって当然の行為だった。
数分後。
セシリアが、誰にも見られぬよう気配を潜めて現れた。
「あ……リリアーナ様……? なぜ……」
「あら、お気づきになりませんでした? わたくし、この場所でよく魔導水晶の光を楽しむんですの。偶然にも、今日の光は……まるで“契約の儀式”のように綺麗ですわね」
セシリアは言葉を失い、その場から立ち去ろうとする。
だが、リリアーナの声が背後から響いた。
「セシリア嬢。ひとつ、お願いがございますの」
「……なんでしょうか」
振り返った彼女の視線は、怯えと困惑に揺れていた。
リリアーナはそっと、一歩前に出る。
「明日から、王子様への“お声掛け”を、一日三回までにしていただけませんか? わたくし、数えておりますの」
「……え?」
「お忘れでした? 昨日は五回、一昨日は七回。そして今朝は――八回でしたわ。ほら、この帳簿をご覧になります?」
差し出されたのは、花柄の上質な小冊子。
中には日付と時間、セシリアが王子に話しかけた“秒数”まで克明に記録されていた。
「わたくし、間違ったことをしているとは思っておりません。ですけれど、“度が過ぎれば”――他の方に迷惑がかかってしまうかと」
「……それは、脅しですか……?」
「まあ。そんなふうに受け取られるなんて。悲しいですわね」
リリアーナはゆっくりと本を閉じると、静かに微笑んだ。
「わたくしは、ただ、お願いしているだけです。――あなたが、明日も元気で学院にいらっしゃるように、ですわ」
沈黙が落ちる。風が一陣、回廊を抜けていく。
セシリアは唇を噛んだまま、その場を去った。
その背中を見送りながら、リリアーナはそっと仮面のような微笑を浮かべる。
「……お願いは、したはずですわ。あとは“お応え”いただくだけ」
彼女の足元、魔導水晶の影に落ちた白い花弁が――ゆっくりと、血のように赤く染まり始めていた。
それは“制圧”という名の優しさ。
静かに、確実に、誰にも気づかれぬまま、世界を染め変えてゆく。
伝説によれば、ここで愛を告げた者たちは必ず結ばれるという。
貴族たちはそれを半ば本気で信じ、放課後になると静かな回廊に人影が絶えない。
――だが今日、その回廊は異様な静けさに包まれていた。
白い石造りの壁に、夕陽が斜めに差し込む。
誰もいないはずのその場に、一歩、また一歩と足音が響いた。
リリアーナ=エグレアだった。
彼女はすでに、“告白の回廊”に関する全記録を調査済みである。
過去十年間、ここで告白が成功した例は47件。そのうち、32件がリリアーナの指示または操作によるものだった。
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「夕刻、彼女はここで、王子様と話す予定――だったのですわね」
回廊に設置された魔導水晶がほのかに光る。
リリアーナはその下に立ち、光の中で静かに微笑んだ。
“先に待っている”という選択は、彼女にとって当然の行為だった。
数分後。
セシリアが、誰にも見られぬよう気配を潜めて現れた。
「あ……リリアーナ様……? なぜ……」
「あら、お気づきになりませんでした? わたくし、この場所でよく魔導水晶の光を楽しむんですの。偶然にも、今日の光は……まるで“契約の儀式”のように綺麗ですわね」
セシリアは言葉を失い、その場から立ち去ろうとする。
だが、リリアーナの声が背後から響いた。
「セシリア嬢。ひとつ、お願いがございますの」
「……なんでしょうか」
振り返った彼女の視線は、怯えと困惑に揺れていた。
リリアーナはそっと、一歩前に出る。
「明日から、王子様への“お声掛け”を、一日三回までにしていただけませんか? わたくし、数えておりますの」
「……え?」
「お忘れでした? 昨日は五回、一昨日は七回。そして今朝は――八回でしたわ。ほら、この帳簿をご覧になります?」
差し出されたのは、花柄の上質な小冊子。
中には日付と時間、セシリアが王子に話しかけた“秒数”まで克明に記録されていた。
「わたくし、間違ったことをしているとは思っておりません。ですけれど、“度が過ぎれば”――他の方に迷惑がかかってしまうかと」
「……それは、脅しですか……?」
「まあ。そんなふうに受け取られるなんて。悲しいですわね」
リリアーナはゆっくりと本を閉じると、静かに微笑んだ。
「わたくしは、ただ、お願いしているだけです。――あなたが、明日も元気で学院にいらっしゃるように、ですわ」
沈黙が落ちる。風が一陣、回廊を抜けていく。
セシリアは唇を噛んだまま、その場を去った。
その背中を見送りながら、リリアーナはそっと仮面のような微笑を浮かべる。
「……お願いは、したはずですわ。あとは“お応え”いただくだけ」
彼女の足元、魔導水晶の影に落ちた白い花弁が――ゆっくりと、血のように赤く染まり始めていた。
それは“制圧”という名の優しさ。
静かに、確実に、誰にも気づかれぬまま、世界を染め変えてゆく。
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