『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第1章:優等生令嬢は、完璧で、恐ろしい

第4話「王子様と、少しだけ“普通の恋”」

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放課後の学院庭園は、春の陽射しに満ちていた。

整えられた花壇には、色とりどりの花が咲き誇り、その中央には紅茶用の木製テーブルが設けられている。
そこは“王太子とその婚約者のための席”と呼ばれており、生徒たちの間では立ち入りを遠慮される特別な空間だった。

「今日は……わたくしが、お茶をご用意いたしましたの」

リリアーナは、柔らかな笑みを浮かべながらティーポットを差し出した。
アレン=ヴァルフォードは、その仕草を静かに見守っていた。

「ありがとう、リリアーナ。……君のいれるお茶は、いつも香りがいいね」

「ええ、今日は“ブルーム・エメラルド”。お気に召していただければ、幸いですわ」

アレンは一口啜り、小さく頷く。
その動作ひとつが、リリアーナにはまるで契約の儀式のように尊いものだった。

「リリアーナ」

「はい、王子様?」

「……いつも、ありがとう。君が僕の隣にいてくれて、本当に……助けられてるよ」

リリアーナの微笑みが、ほんの少しだけ柔らかくなる。

「そんな……もったいないお言葉ですわ。わたくしは、ただ“好きな人の役に立ちたい”と思っているだけですもの」

「でも、たまには……普通にさ。君と、ただ話をしたいんだ。君がどんな花が好きかとか、何が好きで、何が嫌いかとか……そういうこと、知らない気がして」

その言葉に、リリアーナは瞬きを一度した。

“普通に恋をしたい”――
それは、リリアーナの辞書には存在しない概念だった。

「……わたくしの好きな花、ですか?」

「うん。言ってくれたら、今度プレゼントするよ」

「……では。もし“王子様”という花があれば、それが一番ですわ」

「……リリアーナ」

アレンは困ったように笑う。
だが、その笑みに――確かに、少しだけあたたかい感情が宿っていた。

リリアーナは胸の奥で、小さな疼きを感じていた。

これは“普通の恋”の一幕。
誰も傷つけず、誰も見張らず、ただ隣で静かに紅茶を飲むだけの、穏やかな時間。

それが、彼の望む“愛”なのだろうか?

彼女の中に、ほんの一瞬だけ“揺らぎ”が生まれた。
だがそれは、紅茶の香りにかき消されていく。

「王子様。……次は、どんな紅茶がお好きか、教えてくださいませんか?」

「うん……“一緒に選ぼう”」

その返事に、リリアーナは再び笑った。

それは、とても“普通”に見える微笑だった。
だが、その背後――遠くの木陰に立つマルシェの視線だけが、静かに緊張の色を帯びていた。

彼女は知っている。
リリアーナが“普通”に見えるときこそ――心の奥で何かが、軋む音を立てていることを。

甘い紅茶の香りに包まれた午後の庭園。
そこに咲く笑顔は、本物か、偽りか。
答えを知る者は、まだいない。
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