『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第1章:優等生令嬢は、完璧で、恐ろしい

第6話「ゴシップ誌の囁きと、青い蝶」

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翌朝。学院の食堂前に、奇妙な空気が漂っていた。

原因はただひとつ――
小さな冊子が、上級生の机にひっそりと置かれていたからだ。

それは表紙のない“無記名の新聞”だった。
けれど、生徒たちは皆知っている。
これは、《リュミエール・シャドウ》――学園非公認のゴシップ誌である。

『特集:白百合令嬢の舞踏会準備、完璧すぎる“未来”とは?』

……彼女の裁縫技術は学院随一。
“誰かのため”に縫われた衣装が、果たして本人の意志によるものかどうかは、さて――。
青い蝶は、金の檻を好むか? それとも自由を渇望するか?

文章は曖昧だが、読める者には分かる。

“白百合令嬢”とはリリアーナ=エグレア、
“青い蝶”はアレン=ヴァルフォードを意味していた。

セシリアは、冊子の隅に貼られた“蝶の切り絵”に目を留めた。
それは、アレンがかつて学院庭園で飼っていた蝶と、まったく同じ柄だった。

「……やっぱり、誰か、気づいてる」

彼女は小さく呟いた。

思い出すのは、あの“告白の回廊”での出来事。
そして、あの笑顔。
まるで“拒絶する余地すら与えない”ような、支配の笑顔。

「……セシリア嬢?」

その声に振り返ると、そこにいたのは王太子――アレンだった。

「あっ……王子様。おはようございます」

「うん。……なんだか、少し元気がないように見えるけど」

彼女は慌てて首を横に振った。

「いえっ……あの、なんでもありません。ただ……最近、誰かに見られてる気がして」

「……君も?」

アレンは、視線を落とした。

「僕もだよ。いつからだろう……たぶん、仮面舞踏会の準備が始まってからかな。
なにか“未来を先回りされている”ような……そんな気がするんだ」

“未来を先回りされている”――
その言葉に、セシリアの背筋が凍る。

まさか、リリアーナは――
王子の動きすら、“予測して”、縫い合わせているのでは……?

「ねぇ、セシリア嬢。君は……リリアーナのこと、どう思う?」

アレンの問いかけは、真剣だった。

けれどその瞬間。
二人の頭上を、ひとひらの蝶が通り過ぎた。

蒼い翅をひらめかせ、ひっそりと咲く白百合の上へと舞い降りる――
それは、どこか悲しげで、閉じ込められたような蝶だった。

「……とても、美しい方、です」

セシリアは、静かに答えた。

だがその目は、もう一度《リュミエール・シャドウ》の紙面を見つめていた。

そこに添えられた小さな一文。

“純白は、時に、最も濃い影を隠している”

誰がそれを書いたのかはわからない。
けれど、学園のどこかには“見ている者”がいる。

リリアーナの影を、
そして彼女の“裁縫された未来”を――切り裂こうとしている者が。
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