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第1章:優等生令嬢は、完璧で、恐ろしい
第10話「仮面舞踏会の招待状と、仕立て屋の祝福」
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セント・リュミエール魔術学院の春の終わりを告げる行事――仮面舞踏会。
貴族の子女にとって、それは“恋と未来を選ぶ夜”であり、
学院の誰もが夢見る一夜限りの幻想舞踏会である。
その朝、リリアーナ=エグレアの元に、ひときわ豪奢な封筒が届けられた。
白金の封蝋に、“双翼の紋章”。
――王太子アレン=ヴァルフォードの印である。
リリアーナは、微笑みを湛えたまま手紙を開いた。
『親愛なるリリアーナへ
来たる仮面舞踏会の夜、どうか君と踊りたい。
その一曲に、誠実を込めて。――アレン・V』
「まあ……“誠実”ですって。素敵な言葉ですこと」
リリアーナはゆっくりと瞳を閉じた。
その心の中で、すでに音楽が流れ始めている。
“わたくしの描いた未来”に、ようやく彼が足を踏み入れた。
招待状は、その証。
「……マルシェ」
「はい、リリアーナ様」
「ドレスの準備を。例の“白の絶対誓約”――明かりに透けるほどの、あれを」
「承知しました。仮面は、蝶型で?」
「いいえ。“顔半分を覆うもの”にしましょう。
……仮面の下で微笑むのは、わたくしだけでいいのですから」
マルシェは何も言わず、主の指示を受け取る。
部屋の片隅には、舞踏会用の試作品が並ぶ。
どれも美しい。けれど――どれも、どこか“異様”なほど完成されていた。
それは衣装というより、“運命の台本”。
リリアーナが縫い上げた布には、彼女の意思が宿っている。
「きっと、この夜で全てが決まりますわ。
彼がわたくしを“見つけ”、手を取り、踊り、誓う。
それが“仮面舞踏会”という形式の、美しさですもの」
彼女は手紙を胸に抱きながら、ふっと笑った。
それは少女らしい夢見る笑顔――
だがその裏に、“どれだけの仕込み”がなされているかは、誰も知らない。
***
その頃、セシリア=ロートベルクは、自室で手紙を見つめていた。
彼女にも仮面舞踏会の招待状が届いていた。
だが、そこに書かれた名前は“王子”ではない。
「……『誰と踊るか』が、こんなに重く感じるなんて」
彼女はひとつ、深く息を吐いた。
彼女の手元には、縫い目が解けかけた制服と、もう読めなくなった《リュミエール・シャドウ》の切れ端がある。
誰かが、何かを止めようとしている。
けれど、それは“美しすぎる未来”に、どこまで抗えるのだろう。
***
そしてその夜、エグレア侯爵邸の地下温室では、ひとつの儀式が行われていた。
「これが、“祝福”ですのね」
リリアーナが手にしたのは、薄い青の布地に散らした“蝶の翅”。
それをドレスの裏地に縫い込む。
彼の“象徴”を、彼に気づかれぬように――
「祝福とは、“意志を埋め込む行為”。
さあ、王子様。あなたは知らずに、わたくしと同じ翅を持つのです」
そうしてドレスの針は進む。
未来を縫う、音のない夜。
仮面舞踏会の幕は、静かに、確かに――上がり始めていた。
貴族の子女にとって、それは“恋と未来を選ぶ夜”であり、
学院の誰もが夢見る一夜限りの幻想舞踏会である。
その朝、リリアーナ=エグレアの元に、ひときわ豪奢な封筒が届けられた。
白金の封蝋に、“双翼の紋章”。
――王太子アレン=ヴァルフォードの印である。
リリアーナは、微笑みを湛えたまま手紙を開いた。
『親愛なるリリアーナへ
来たる仮面舞踏会の夜、どうか君と踊りたい。
その一曲に、誠実を込めて。――アレン・V』
「まあ……“誠実”ですって。素敵な言葉ですこと」
リリアーナはゆっくりと瞳を閉じた。
その心の中で、すでに音楽が流れ始めている。
“わたくしの描いた未来”に、ようやく彼が足を踏み入れた。
招待状は、その証。
「……マルシェ」
「はい、リリアーナ様」
「ドレスの準備を。例の“白の絶対誓約”――明かりに透けるほどの、あれを」
「承知しました。仮面は、蝶型で?」
「いいえ。“顔半分を覆うもの”にしましょう。
……仮面の下で微笑むのは、わたくしだけでいいのですから」
マルシェは何も言わず、主の指示を受け取る。
部屋の片隅には、舞踏会用の試作品が並ぶ。
どれも美しい。けれど――どれも、どこか“異様”なほど完成されていた。
それは衣装というより、“運命の台本”。
リリアーナが縫い上げた布には、彼女の意思が宿っている。
「きっと、この夜で全てが決まりますわ。
彼がわたくしを“見つけ”、手を取り、踊り、誓う。
それが“仮面舞踏会”という形式の、美しさですもの」
彼女は手紙を胸に抱きながら、ふっと笑った。
それは少女らしい夢見る笑顔――
だがその裏に、“どれだけの仕込み”がなされているかは、誰も知らない。
***
その頃、セシリア=ロートベルクは、自室で手紙を見つめていた。
彼女にも仮面舞踏会の招待状が届いていた。
だが、そこに書かれた名前は“王子”ではない。
「……『誰と踊るか』が、こんなに重く感じるなんて」
彼女はひとつ、深く息を吐いた。
彼女の手元には、縫い目が解けかけた制服と、もう読めなくなった《リュミエール・シャドウ》の切れ端がある。
誰かが、何かを止めようとしている。
けれど、それは“美しすぎる未来”に、どこまで抗えるのだろう。
***
そしてその夜、エグレア侯爵邸の地下温室では、ひとつの儀式が行われていた。
「これが、“祝福”ですのね」
リリアーナが手にしたのは、薄い青の布地に散らした“蝶の翅”。
それをドレスの裏地に縫い込む。
彼の“象徴”を、彼に気づかれぬように――
「祝福とは、“意志を埋め込む行為”。
さあ、王子様。あなたは知らずに、わたくしと同じ翅を持つのです」
そうしてドレスの針は進む。
未来を縫う、音のない夜。
仮面舞踏会の幕は、静かに、確かに――上がり始めていた。
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