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第2章「仮面の下の顔、愛は誓いか呪いか」
第11話「青い仮面と誓いの舞踏」
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仮面舞踏会の夜が来た。
学院中央の大広間は、百本のキャンドルと魔導燈の明かりに照らされ、まるで夢のような光景を映していた。
貴族の子女たちは仮面をまとい、それぞれの“恋と策略”を胸に、優雅に踊る。
音楽が流れ、笑い声と囁き声が交差する中――その姿は、まるで“幻想の劇場”。
けれど、誰もが知っていた。
この夜の主役は、ただひとり。
――白の女王、リリアーナ=エグレア。
彼女が現れた瞬間、空気が変わった。
純白のドレスに、銀糸で施された精緻な刺繍。
腰に巻かれたリボンには、青い蝶の翅をかたどった飾りがつけられていた。
そして仮面は、顔の左半分を覆う片翅型。
その下からのぞく朱の唇が、静かに、微笑んでいた。
「……ごきげんよう、皆さま。今宵は、よくお集まりくださいましたわ」
リリアーナは、舞踏会の中央をゆるやかに歩く。
誰もが道を開ける。まるで、王妃の戴冠を待つかのように。
その足元を、一匹の青い蝶が舞った。
それはまるで、ある人物を導くように――
「……リリアーナ」
振り返れば、そこにいたのは、仮面をつけたアレン=ヴァルフォード。
彼は、王家の紋章を刺繍された黒い仮面をまとい、白手袋の手を差し出していた。
「今夜の君は……まるで、本当に“女王”のようだ」
「まあ……それは、未来の予兆かもしれませんわね」
彼女は、そっとその手を取った。
音楽が変わる。
ゆるやかな三拍子の旋律――それは、誓いのワルツ。
二人は舞い始めた。
誰よりも美しく、誰よりも静かに。
誰よりも、“絵に描いたように”完璧に。
けれど――アレンの瞳は、仮面の奥でかすかに揺れていた。
リリアーナの瞳は、そのすべてを見逃さない。
「……王子様。なぜ、そんなに目を逸らされますの?」
「いや……その、なんというか……」
「仮面越しでも分かりますわ。あなたは、“誰か”に見られているような気がしているのでしょう?」
「……」
リリアーナは踊りながら、一歩近づいた。
その距離は、もはや“舞踏”ではない。
まるで、囁くように彼の耳元へ口を寄せ――
「だいじょうぶ。もうすぐ、何もかも、わたくしだけになりますわ」
「……リリアーナ?」
彼女は、微笑んだ。
「ですから、この一曲――どうか、しっかりと覚えていてください。
今宵を最後に、あなたは“誰にも奪われない”のですから」
その言葉と共に、ワルツはクレッシェンドを迎える。
観客たちは息を呑んだ。
それは舞踏というより、“契約”に見えた。
儀式のような、婚礼のような、逃げ道のない呪いのような――
やがて音楽が止み、二人はぴたりと動きを止める。
リリアーナは、そっと仮面を外した。
「王子様、仮面の下のわたくし――好きでいてくださいますか?」
彼女の笑顔は、どこまでも穏やかで。
それでいて、底知れぬ深さを持っていた。
アレンは、返事をしなかった。
ただ、その手を離すこともできず、仮面を外すこともできず――
その場に、縫いつけられたかのように、立ち尽くしていた。
観客たちは、割れるような拍手を送った。
だが誰ひとり気づいていない。
この舞踏会は、ただの“恋の戯れ”ではないことを。
これは、“永遠”を縫うための最終ステッチ――
リリアーナの手によって、静かに未来が仕立て上げられた瞬間だった。
学院中央の大広間は、百本のキャンドルと魔導燈の明かりに照らされ、まるで夢のような光景を映していた。
貴族の子女たちは仮面をまとい、それぞれの“恋と策略”を胸に、優雅に踊る。
音楽が流れ、笑い声と囁き声が交差する中――その姿は、まるで“幻想の劇場”。
けれど、誰もが知っていた。
この夜の主役は、ただひとり。
――白の女王、リリアーナ=エグレア。
彼女が現れた瞬間、空気が変わった。
純白のドレスに、銀糸で施された精緻な刺繍。
腰に巻かれたリボンには、青い蝶の翅をかたどった飾りがつけられていた。
そして仮面は、顔の左半分を覆う片翅型。
その下からのぞく朱の唇が、静かに、微笑んでいた。
「……ごきげんよう、皆さま。今宵は、よくお集まりくださいましたわ」
リリアーナは、舞踏会の中央をゆるやかに歩く。
誰もが道を開ける。まるで、王妃の戴冠を待つかのように。
その足元を、一匹の青い蝶が舞った。
それはまるで、ある人物を導くように――
「……リリアーナ」
振り返れば、そこにいたのは、仮面をつけたアレン=ヴァルフォード。
彼は、王家の紋章を刺繍された黒い仮面をまとい、白手袋の手を差し出していた。
「今夜の君は……まるで、本当に“女王”のようだ」
「まあ……それは、未来の予兆かもしれませんわね」
彼女は、そっとその手を取った。
音楽が変わる。
ゆるやかな三拍子の旋律――それは、誓いのワルツ。
二人は舞い始めた。
誰よりも美しく、誰よりも静かに。
誰よりも、“絵に描いたように”完璧に。
けれど――アレンの瞳は、仮面の奥でかすかに揺れていた。
リリアーナの瞳は、そのすべてを見逃さない。
「……王子様。なぜ、そんなに目を逸らされますの?」
「いや……その、なんというか……」
「仮面越しでも分かりますわ。あなたは、“誰か”に見られているような気がしているのでしょう?」
「……」
リリアーナは踊りながら、一歩近づいた。
その距離は、もはや“舞踏”ではない。
まるで、囁くように彼の耳元へ口を寄せ――
「だいじょうぶ。もうすぐ、何もかも、わたくしだけになりますわ」
「……リリアーナ?」
彼女は、微笑んだ。
「ですから、この一曲――どうか、しっかりと覚えていてください。
今宵を最後に、あなたは“誰にも奪われない”のですから」
その言葉と共に、ワルツはクレッシェンドを迎える。
観客たちは息を呑んだ。
それは舞踏というより、“契約”に見えた。
儀式のような、婚礼のような、逃げ道のない呪いのような――
やがて音楽が止み、二人はぴたりと動きを止める。
リリアーナは、そっと仮面を外した。
「王子様、仮面の下のわたくし――好きでいてくださいますか?」
彼女の笑顔は、どこまでも穏やかで。
それでいて、底知れぬ深さを持っていた。
アレンは、返事をしなかった。
ただ、その手を離すこともできず、仮面を外すこともできず――
その場に、縫いつけられたかのように、立ち尽くしていた。
観客たちは、割れるような拍手を送った。
だが誰ひとり気づいていない。
この舞踏会は、ただの“恋の戯れ”ではないことを。
これは、“永遠”を縫うための最終ステッチ――
リリアーナの手によって、静かに未来が仕立て上げられた瞬間だった。
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