19 / 80
第2章「仮面の下の顔、愛は誓いか呪いか」
第19話「仮面の下で交わされた誓いの行方」
しおりを挟む
学院東側の古塔にある回廊――
そこは“誓いの回廊”と呼ばれ、かつて恋人たちが秘密を交わした場所として知られていた。
雨が止んだばかりの午後、アレン=ヴァルフォードは、静かにその場所に立っていた。
足元には濡れた石畳、壁にはうっすら苔が這う。
けれど、そこにはかつての仮面舞踏会の記憶が残っていた。
リリアーナと踊った夜。
彼女の仮面の下に見た、微笑と狂気の境界線。
「……僕は、何を誓ったんだっけな」
ひとりごちたその声に、応える声があった。
「王子様は、“何も誓っていません”でしたわ。
わたくしが誓っただけです。未来を、幸福を、永遠を――あなたにすべて差し上げると」
そこに立っていたのは、リリアーナ=エグレアだった。
白い制服に、例の青いリボン。
そして今日は、仮面を持っていなかった。
だが、微笑みの奥に――“それよりも硬質な何か”が貼りついていた。
「王子様、どうかいたしましたの?
最近、わたくしとのお時間を“避けて”おられるように感じまして」
「……リリアーナ。君は、僕に“自由”をくれたことってある?」
その言葉に、空気が一瞬凍る。
リリアーナの微笑みが、ほんの少しだけ止まる。
けれど彼女は、すぐに優雅に首を傾げた。
「自由? 王子様……それは、“不確かな未来”のことを指すのでしょうか?」
「そうだ。“自分で選ぶ”ってことだ。
たとえば、誰と話すか、何を考えるか、どこへ行くか……」
「それなら、もうすでに選んでいらっしゃいますわ。
――“わたくしの隣”という最善を」
「……違うよ」
その言葉は、リリアーナの心を静かに裂いた。
アレンは続ける。
「君の言う“未来”は、あまりにも綺麗すぎる。整いすぎてる。
まるで……君が僕を、仮面のままにしておきたいように思えるんだ」
「……」
リリアーナは、返事をしない。
けれど、沈黙が彼女の中で何かをかき乱していた。
「君が僕を想ってくれていることは分かってる。
でも、君は“僕の心”が動くことさえ、計算してる。
“好き”って気持ちを、“記録の一部”みたいに扱ってるんじゃないかって――怖いんだ」
その言葉に、リリアーナはそっとまぶたを閉じた。
そして、ほんの一言。
「……なら、どうしてわたくしの手を取ったのですか?
舞踏会の夜、仮面を外して、わたくしと踊ったのは――王子様でしょう?」
「……君に、抗えなかった」
アレンの答えは、静かで正直だった。
「君が、あまりにも“僕の理想通り”で。
優しくて、完璧で、何でも叶えてくれるから――
でも、気づいたんだ。
君の“好き”は、僕の“好き”とは、少し違う」
それは、拒絶ではなかった。
けれど、はっきりとした線引きだった。
リリアーナは、ゆっくりと足元を見つめた。
「……では、これで終わりですの?」
アレンは、答えなかった。
その沈黙こそが、返答だった。
***
その夜、リリアーナはひとり、温室にいた。
手には、あの青いリボン。
結び目は、崩れていた。
「王子様。
あなたは、仮面の下で誓ったことを、忘れてしまったのですね。
でも、わたくしは忘れませんわ」
彼女はリボンを静かに握りしめた。
「……愛とは、“どちらか一方”が続けていれば、永遠になりますの。
だから――まだ、ほどけてなどいません」
その声は静かに、けれど確かに、狂気の端を帯びていた。
微笑の裏側に、剥き出しの感情が芽吹きはじめている。
仮面が外れたその先にあるもの。
それは――愛か、それとも破滅か。
次の幕が、ゆっくりと降り始めていた。
そこは“誓いの回廊”と呼ばれ、かつて恋人たちが秘密を交わした場所として知られていた。
雨が止んだばかりの午後、アレン=ヴァルフォードは、静かにその場所に立っていた。
足元には濡れた石畳、壁にはうっすら苔が這う。
けれど、そこにはかつての仮面舞踏会の記憶が残っていた。
リリアーナと踊った夜。
彼女の仮面の下に見た、微笑と狂気の境界線。
「……僕は、何を誓ったんだっけな」
ひとりごちたその声に、応える声があった。
「王子様は、“何も誓っていません”でしたわ。
わたくしが誓っただけです。未来を、幸福を、永遠を――あなたにすべて差し上げると」
そこに立っていたのは、リリアーナ=エグレアだった。
白い制服に、例の青いリボン。
そして今日は、仮面を持っていなかった。
だが、微笑みの奥に――“それよりも硬質な何か”が貼りついていた。
「王子様、どうかいたしましたの?
最近、わたくしとのお時間を“避けて”おられるように感じまして」
「……リリアーナ。君は、僕に“自由”をくれたことってある?」
その言葉に、空気が一瞬凍る。
リリアーナの微笑みが、ほんの少しだけ止まる。
けれど彼女は、すぐに優雅に首を傾げた。
「自由? 王子様……それは、“不確かな未来”のことを指すのでしょうか?」
「そうだ。“自分で選ぶ”ってことだ。
たとえば、誰と話すか、何を考えるか、どこへ行くか……」
「それなら、もうすでに選んでいらっしゃいますわ。
――“わたくしの隣”という最善を」
「……違うよ」
その言葉は、リリアーナの心を静かに裂いた。
アレンは続ける。
「君の言う“未来”は、あまりにも綺麗すぎる。整いすぎてる。
まるで……君が僕を、仮面のままにしておきたいように思えるんだ」
「……」
リリアーナは、返事をしない。
けれど、沈黙が彼女の中で何かをかき乱していた。
「君が僕を想ってくれていることは分かってる。
でも、君は“僕の心”が動くことさえ、計算してる。
“好き”って気持ちを、“記録の一部”みたいに扱ってるんじゃないかって――怖いんだ」
その言葉に、リリアーナはそっとまぶたを閉じた。
そして、ほんの一言。
「……なら、どうしてわたくしの手を取ったのですか?
舞踏会の夜、仮面を外して、わたくしと踊ったのは――王子様でしょう?」
「……君に、抗えなかった」
アレンの答えは、静かで正直だった。
「君が、あまりにも“僕の理想通り”で。
優しくて、完璧で、何でも叶えてくれるから――
でも、気づいたんだ。
君の“好き”は、僕の“好き”とは、少し違う」
それは、拒絶ではなかった。
けれど、はっきりとした線引きだった。
リリアーナは、ゆっくりと足元を見つめた。
「……では、これで終わりですの?」
アレンは、答えなかった。
その沈黙こそが、返答だった。
***
その夜、リリアーナはひとり、温室にいた。
手には、あの青いリボン。
結び目は、崩れていた。
「王子様。
あなたは、仮面の下で誓ったことを、忘れてしまったのですね。
でも、わたくしは忘れませんわ」
彼女はリボンを静かに握りしめた。
「……愛とは、“どちらか一方”が続けていれば、永遠になりますの。
だから――まだ、ほどけてなどいません」
その声は静かに、けれど確かに、狂気の端を帯びていた。
微笑の裏側に、剥き出しの感情が芽吹きはじめている。
仮面が外れたその先にあるもの。
それは――愛か、それとも破滅か。
次の幕が、ゆっくりと降り始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します
八
恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。
なろうに別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
一部加筆修正しています。
2025/9/9完結しました。ありがとうございました。
【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした
果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。
そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、
あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。
じゃあ、気楽にいきますか。
*『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。
主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?
玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。
ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。
これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。
そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ!
そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――?
おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!?
※小説家になろう・カクヨムにも掲載
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる