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第3章:歪んだ契約と、選ばれなかった少女たち
第34話「ほどける心に、縫い直す手を」
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雨はやまず。
けれど、その冷たさのなかで――誰かの心は、確かに温もりを求めていた。
***
セシリア=ロートベルクは、濡れた制服のまま、学院塔の階段を駆け上がっていた。
その手には、小さな包み。
中に入っているのは、彼女が昨夜縫った、ふたつ目のリボン。
「間に合って……」
その想いだけで、足を止めずに走る。
ほどけるリボンに、意味を失わせたくなかった。
ほどけてしまうのなら、また縫い直せばいい。
でも――ほどけたまま、終わらせることだけは絶対にできなかった。
***
中庭。
アレン=ヴァルフォードは、まだ雨の下にいた。
濡れたリボンは、袖口から落ちかけている。
それでも彼は、結び直さなかった。
結ぶことが“愛”なのか、
ほどけることが“終わり”なのか、
そのどちらも分からなくなっていた。
けれどそのとき――
「――王子様!」
セシリアの声が、雨を割った。
振り返ると、ずぶ濡れのまま駆け寄ってくる彼女がいた。
そしてその手を、迷わず彼の袖へと伸ばす。
「……新しいの、作ったの。
ほどけても、何度でも。
だから……今度は、わたしが、あなたのために結びます」
アレンはその目を見つめた。
赤く染まった頬。
濡れた前髪。
ふるえる唇。
それでも真っ直ぐな、針のような瞳。
「セシリア……」
「愛って、きっと“完全じゃない”から愛おしいんだと思うの。
ほどけて、濡れて、傷ついて……それでも縫い直すことを選べるから――わたしは、あなたを好きでいられる」
その言葉は、何より強くて、何より優しかった。
アレンは、頷いた。
「……お願い。もう一度、結んで」
セシリアは微笑んで、彼の袖に新しいリボンを結びはじめた。
今度の結び目は、ゆっくりと、確かに。
焦らず、強すぎず。
けれど、“ほどけても、また結べる”と信じられる強さをもって。
ふたりの間には、雨音しかない。
けれど、その雨音が――まるで祝福の拍手のように感じられた。
***
その様子を、遠くから見ていた少女がひとり。
リリアーナ=エグレアは、白い傘の下から視線を逸らさず、静かに瞬きもせず立ち尽くしていた。
「……縫い直すこと、ですか」
その声に、怒気も悔しさもない。
ただ、どこまでも静かで。
そして――少しだけ、震えていた。
「ふふ……そうですわね。
ほどけた心に、針を向けるのではなく、
手を伸ばすという選択肢も、きっと愛のひとつなのですわ」
けれど、次の瞬間。
彼女は傘を閉じ、濡れるままに歩き出した。
「それでも、わたくしは……
縫うことをやめるつもりは、ありません」
その指先は、すでに新たな布に触れていた。
ほどける心に、縫い直す手を。
それが愛ならば――
その形もまた、少女たちの戦いなのかもしれなかった。
けれど、その冷たさのなかで――誰かの心は、確かに温もりを求めていた。
***
セシリア=ロートベルクは、濡れた制服のまま、学院塔の階段を駆け上がっていた。
その手には、小さな包み。
中に入っているのは、彼女が昨夜縫った、ふたつ目のリボン。
「間に合って……」
その想いだけで、足を止めずに走る。
ほどけるリボンに、意味を失わせたくなかった。
ほどけてしまうのなら、また縫い直せばいい。
でも――ほどけたまま、終わらせることだけは絶対にできなかった。
***
中庭。
アレン=ヴァルフォードは、まだ雨の下にいた。
濡れたリボンは、袖口から落ちかけている。
それでも彼は、結び直さなかった。
結ぶことが“愛”なのか、
ほどけることが“終わり”なのか、
そのどちらも分からなくなっていた。
けれどそのとき――
「――王子様!」
セシリアの声が、雨を割った。
振り返ると、ずぶ濡れのまま駆け寄ってくる彼女がいた。
そしてその手を、迷わず彼の袖へと伸ばす。
「……新しいの、作ったの。
ほどけても、何度でも。
だから……今度は、わたしが、あなたのために結びます」
アレンはその目を見つめた。
赤く染まった頬。
濡れた前髪。
ふるえる唇。
それでも真っ直ぐな、針のような瞳。
「セシリア……」
「愛って、きっと“完全じゃない”から愛おしいんだと思うの。
ほどけて、濡れて、傷ついて……それでも縫い直すことを選べるから――わたしは、あなたを好きでいられる」
その言葉は、何より強くて、何より優しかった。
アレンは、頷いた。
「……お願い。もう一度、結んで」
セシリアは微笑んで、彼の袖に新しいリボンを結びはじめた。
今度の結び目は、ゆっくりと、確かに。
焦らず、強すぎず。
けれど、“ほどけても、また結べる”と信じられる強さをもって。
ふたりの間には、雨音しかない。
けれど、その雨音が――まるで祝福の拍手のように感じられた。
***
その様子を、遠くから見ていた少女がひとり。
リリアーナ=エグレアは、白い傘の下から視線を逸らさず、静かに瞬きもせず立ち尽くしていた。
「……縫い直すこと、ですか」
その声に、怒気も悔しさもない。
ただ、どこまでも静かで。
そして――少しだけ、震えていた。
「ふふ……そうですわね。
ほどけた心に、針を向けるのではなく、
手を伸ばすという選択肢も、きっと愛のひとつなのですわ」
けれど、次の瞬間。
彼女は傘を閉じ、濡れるままに歩き出した。
「それでも、わたくしは……
縫うことをやめるつもりは、ありません」
その指先は、すでに新たな布に触れていた。
ほどける心に、縫い直す手を。
それが愛ならば――
その形もまた、少女たちの戦いなのかもしれなかった。
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