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第3章:歪んだ契約と、選ばれなかった少女たち
第37話「それでも蝶は、どこかで羽ばたく」
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蝶は、見えないところで飛んでいる。
誰の手にも留まらず、誰の視線にも映らず、
それでも確かに、物語の空気を揺らしている。
そして――それは、リリアーナ=エグレアの胸の奥でも、まだ羽音を立てていた。
***
その日の放課後。
学院の裏庭には、誰もいないベンチがひとつ。
そこにリリアーナは座っていた。
手には、何も持っていない。
裁縫道具も、設計図も、仮面すらない。
ただ、膝に置かれた手のひらに、一匹の蝶が静かに留まっていた。
それは、かつて王子の記憶を象徴するために創られた“蝶の標本”。
けれど今は、生きているかのように、ふるふると翅を震わせている。
「まだ……飛びたいのね」
彼女の声は、どこか穏やかだった。
過去のように“未来を縫い上げること”に執着していない。
ただ、“ここにある感情”に手を添えるような声音。
「誰もが、わたくしを“終わった人”として見るでしょう。
王子様の物語に選ばれなかった、哀れな悪役として。
けれど――」
彼女は、そっと指先で蝶を撫でる。
「わたくしが縫った“愛”は、今もこの胸に残っておりますのよ。
誰にも渡せない。誰にも奪えない。
“未完成のまま、美しい”――そんな愛だって、あってもいいでしょう?」
蝶は、その言葉に応えるように、羽ばたいた。
ひとつ、ふたつ。
空に舞い上がり、風に乗って見えなくなる。
けれど、リリアーナの目は、ほんの少しだけ潤んでいた。
「……行きなさい。
どこかで、また“誰かの物語”になれたなら、
それはきっと、わたくしが縫った意味になるから」
その言葉は、誰に届くものでもない。
けれど、世界のどこかで、新たな風を起こす力だけは――確かに、あった。
***
その頃、セシリア=ロートベルクは図書室で、王子と向かい合っていた。
テーブルの上には、開きかけの書物と、彼女が持参した小さな針箱。
「……もう、怖くないの?」
アレンが尋ねると、セシリアは少しだけ笑った。
「うん。
きっとこれからも、リボンはほどけるし、言葉もすれ違う。
でも、そのたびに――縫い直せばいい。
愛って、そういう“続ける力”だと思うから」
彼は頷いて、静かに言った。
「ありがとう。
僕が“選んだ日常”の中に、君がいてくれて、本当によかった」
それは、ひと針の言葉だった。
ふたりをつなぐ、細くて、でも確かな糸だった。
***
蝶は飛ぶ。
選ばれなかった物語を背負いながら、
いつか誰かの新しいページに辿り着くその日まで。
そして、その蝶の名は――誰にも知られないまま、風のなかで輝いていた。
誰の手にも留まらず、誰の視線にも映らず、
それでも確かに、物語の空気を揺らしている。
そして――それは、リリアーナ=エグレアの胸の奥でも、まだ羽音を立てていた。
***
その日の放課後。
学院の裏庭には、誰もいないベンチがひとつ。
そこにリリアーナは座っていた。
手には、何も持っていない。
裁縫道具も、設計図も、仮面すらない。
ただ、膝に置かれた手のひらに、一匹の蝶が静かに留まっていた。
それは、かつて王子の記憶を象徴するために創られた“蝶の標本”。
けれど今は、生きているかのように、ふるふると翅を震わせている。
「まだ……飛びたいのね」
彼女の声は、どこか穏やかだった。
過去のように“未来を縫い上げること”に執着していない。
ただ、“ここにある感情”に手を添えるような声音。
「誰もが、わたくしを“終わった人”として見るでしょう。
王子様の物語に選ばれなかった、哀れな悪役として。
けれど――」
彼女は、そっと指先で蝶を撫でる。
「わたくしが縫った“愛”は、今もこの胸に残っておりますのよ。
誰にも渡せない。誰にも奪えない。
“未完成のまま、美しい”――そんな愛だって、あってもいいでしょう?」
蝶は、その言葉に応えるように、羽ばたいた。
ひとつ、ふたつ。
空に舞い上がり、風に乗って見えなくなる。
けれど、リリアーナの目は、ほんの少しだけ潤んでいた。
「……行きなさい。
どこかで、また“誰かの物語”になれたなら、
それはきっと、わたくしが縫った意味になるから」
その言葉は、誰に届くものでもない。
けれど、世界のどこかで、新たな風を起こす力だけは――確かに、あった。
***
その頃、セシリア=ロートベルクは図書室で、王子と向かい合っていた。
テーブルの上には、開きかけの書物と、彼女が持参した小さな針箱。
「……もう、怖くないの?」
アレンが尋ねると、セシリアは少しだけ笑った。
「うん。
きっとこれからも、リボンはほどけるし、言葉もすれ違う。
でも、そのたびに――縫い直せばいい。
愛って、そういう“続ける力”だと思うから」
彼は頷いて、静かに言った。
「ありがとう。
僕が“選んだ日常”の中に、君がいてくれて、本当によかった」
それは、ひと針の言葉だった。
ふたりをつなぐ、細くて、でも確かな糸だった。
***
蝶は飛ぶ。
選ばれなかった物語を背負いながら、
いつか誰かの新しいページに辿り着くその日まで。
そして、その蝶の名は――誰にも知られないまま、風のなかで輝いていた。
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