『悪役令嬢、愛が重くてごめんなさい?』

黒川ねこ

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第4章:選ばれた未来、ほどけない絆へ

第47話「かすかな噂と、揺れる硝子の箱」

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噂は風に乗って広がる。
真実でなくてもいい。
確かめられないからこそ、想像は人の心を揺らすのだ。

***

学院の朝、談話室。

ふたりの女生徒が、控えめに声を落として話していた。

「ねえ、聞いた? 王子様、王宮で“縁談の打診”があったって……」

「うそ……今の恋人って、セシリア嬢でしょ? じゃあ、それって――」

「表向きには『親善交流』だとか言ってるけど……
ほら、“ロートベルク家って微妙な立ち位置”だし……」

「そういうの、貴族社会じゃよくある話よね。『恋人と結婚相手は別』って……」

セシリア=ロートベルクは、部屋の奥でその話を聞いていた。

本を開いたまま。
けれど、ページは一向にめくられない。

噂の出どころも、誰が広めているのかも、もうわかっていた。

きっと――ロイ=フィエルノートだ。

彼は言葉を選ぶのがうまい。
感情の“隙間”を見逃さず、
事実の輪郭だけを残して、あとは受け手に委ねる。

「……ずるいな」

小さく呟いて、本を閉じる。

自室に戻ったセシリアは、硝子箱を手に取った。

そこにあるのは、アレン=ヴァルフォードが渡してくれた銀の指輪。

何も語らないそれを、彼女は手のひらに載せて、じっと見つめた。

「この箱の中にいるだけじゃ、何も守れない」

そう思った瞬間――
彼女は蓋を開け、指輪を取り出す。

それを、薬指にはめることはなかった。

代わりに――胸元のリボンに、そっと結びつけた。

「大丈夫。
わたしがあなたを信じるって、そう決めたのは――
“誰かの言葉”じゃなくて、“あなたの目”だったから」

風が窓辺をくすぐる。

硝子箱の中にあった“静かな証”は、
その瞬間から――彼女の意志に変わった。

***

同時刻、王宮の夜。

アレンは、控室でひとり報告書を読んでいた。

政務の疲れを感じながらも、
ふと窓の外に目をやる。

その瞬間――なぜか、
“胸が、ほんの少しだけ軽くなる”感覚があった。

理由はわからない。
けれど、確信はあった。

「……セシリア。君、強くなったね」

声に出すことはなく。
けれど、その思いは確かに、風に乗った。

言葉がなくても、会えなくても。
ふたりをつなぐ“絆の糸”は――今日も揺れずにそこにあった。
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